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貧乏伯爵令嬢は婚活に夢を見ない  作者: 黒坂 志貴


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13/15

13.がんばれ、受験生!?その1

週の五日目、午後から国内メインの学科一と周辺国メインの学科二の筆記試験。週の六日目、午前が教養実技試験。そして昼休み後に個人成績表が各部屋宛に配布され、翌週初日には資料室壁面に全員の結果が張り出された。


「はぁ~・・・なんとか合格出来てよかった。今週も頑張ろうっと。目指せ、借金返済!目指せ、高給取り!!」

ムン、と上機嫌で気合を入れてきたラミーは、貼り出された順位に白目になって固まった。七人中、六位!?ものすごく、ものすごおく頑張ったつもりだったけど、出来て当然レベルにかろうじて届いただけ。高給取りへの道って、かなり険しい・・・。

学科はペーパーテストで、第一、第二共それぞれ二百点満点。百五十点以上が合格ラインだ。実技は立つ、座る、礼などの基本姿勢と歌。講師が上から優、良、可、不可で判定し、不可でなければ合格だった。

最年少のサーシャ・ハクシューが学科二つとも満点で実技も優を取り総合一位、二位が学科がわずかサーシャに及ばなかったシルベーヌ、残念令嬢の二人もブランテール三位&エリーゼ四位と健闘、商家の娘で平民のチェルシー・ボウモアもエリーゼと同じく四位、六位がラミーで最下位は食堂勤務の努力家ポルテ・タリスカーだった。

けれどもこの初回テストでの不合格者は無し、さすがに妃候補だけはある。候補生たちも一安心したところだが、成績付きでの合否発表とくれば、結果が態度に影響したりもする。



「まぁ、庶民の方も努力されておりますのね」

「ホホホ、あら、貴族でも嗜みが不足しておられる方がいらっしゃるだけでしょう」

イヤミったらしい話し声のヌシは、隣同士に座るブランテールとエリーゼだった。しばらく大人しかったのに、成績順位で見下す対象を定める分かりやすいマウントだ。

「このあたりは幼少期から家庭教師に教わる内容でしたし、貴族であれば歌や基本姿勢なんて子供でも出来ますわ」

「ええ、ほんとうに。出来て当然のことばかり、この程度で躓かれるようでは先が思いやられますもの」

「・・っと、失礼。皆さん、合格されていますわね」

ほほほほほ、と上品ぶった笑い声が響く。

とりあえず誰かを落としていないと、安心できない人種かもしれない。しかし、いつもの社交場のように大勢の貴族子女の取り巻きはいない。ブランテールに賛同するのも持ち上げるのもエリーゼ一人だし、そのエリーゼに至っては、ちやほやしてくれる人など一人もいなかった。

授業のため資料室に集まった妃候補たちは、チラリと視線を送るくらいで相手にしない。この結果と爵位であれば、少なくとも自分たちより下の順位だった者くらい、態度が変わるはずだとブランテールは確信していたのに反応が悪すぎて、棘のある口調も尻すぼみになっていく。

他者からのヨイショで自分の立場を確立してきたご令嬢たちには、この冷えた空気に耐えられない。なんとか地位を上げる機会を伺って、モノにしていくしかないと焦っているようだ。


そんな残念令嬢たちの心境をよそに、講師のメイガルが来ると、ごく普通に二週目の授業が始まった。すらりとした長身に金髪碧眼、なのに造形バランスが悪いせいか、もっさりした印象の地味顔オジサンである。

先週に学んだ部分をやや掘り下げた内容になっており、皆、真剣に向き合っている。一番楽しそうなのは成績一位のサーシャで、本当に勉強が好きなようだ。

逆に先ほどまで自信満々で他人をけなしていた二人は、早くも苦しそうな表情をしている。こちらは元から勉強は苦手なようで、授業前の強い言葉は自信の表れというよりも、牽制と優位なのは自分だという主張だと受け取られている。

ここに集う少女たちは今まで彼女たちが従えてきたタイプと全く異なり、強く言えば引くような者も爵位などの身分で遠慮する者もいない。

それぞれの思惑はあっても、他人に対して卑怯な手を使ったり身分や権力にすり寄るのではなく、自分自身の努力と成長が結果につながると信じる、自立志向が優勢だ。ブランテールもエリーゼも、やりにくさに苛立ちつつも、妃候補として肝心の王子に会う前に脱落などあってはならないと授業に向き合った。


「周辺三国のうちオーキネンは近年、観光産業と貿易に力を入れていると話しました。今日はこのオーキネンとの貿易について詳しく勉強していきましょう。ルーモスは食料自給率こそ高いものの、他の生活用品は輸入に頼るところも大きいです。主な輸入先はオーキネンを含む周辺三国、このあたりは先週お伝えしましたね。中でもオーキネンは他大陸とも交易をしているので、それらの交易品が我が国にもたらされることがありますが、どれも非常に希少で高価なものばかりです」

前方の黒板には、ルーモスを中心とした周辺国の地図が貼られている。場所を指し示しながら説明するが、その後ろ姿はやたら乙女の期待値を上げるイケメンぶりである。くるりと向き直ると妙に安心感のある顔になごんだり、モヤったり、気落ちしたりと年頃の少女たちは思う所もそれぞれらしい。

「例えば、からくりを施した木箱。箱全体や一部が動かせるようになっており、別の形に変えられたり、カギの役目を果たしたりするそうです。残念ながら私も現物はまだ、見たことがありません。他にどのようなものがあるか、知っている人はいますか?」

講義の途中、メイガルが候補生たちに向かって問いかけると、

「はい!」

フンス、と荒い鼻息まで聞こえてきそうな勢いで手を挙げるのは、ブランテールだ。指名されると立ち上がり、サーシャやシルベーヌにチラリと視線を向けると、左手につけていたブレスレットを外して差し出すように持ち上げる。

「こちらのブレスレットのような、繊細な金属の加工品ですわ。単なる彫刻ではなく線や模様の層を幾重にも重ねて立体的に鳥や植物を表現し、このように透明で稀少な物質で固定しています。海の向こうにある職人の国で作られたものです」

メイガルがブランテールに近寄り、差し出されたブレスレットを検める。ガラスのように透ける素材の中に、何層にも重ねた銀でほどこされた繊細な細工。意匠にも遊び心があり、円形にして上から見ると水中に泳ぐ魚、横から見ると枝に遊ぶ小鳥が見えた。

「ほう、素晴らしい。これは確かに職人国家と言われる、ウォタックのものですね。いやはや、さすがデュワーズ公爵家です」

講師に褒められて、満足した様子で着席するブランテール。質問に答えるよりも、持ち物自慢が本来の目的に見えて、微妙な空気が流れた。

「これらの品が高価なのは、原材料や職人の加工費に加えて船や馬車を乗り継ぐ輸送費も大きなコストを占めるからです。またその希少性も大きな要因ですね。少ないものを多くの人が欲しいと思えば値は上がり、逆にたくさんあって誰も欲しがらなければ値はつきません。高価だから値打ちがあるのではなく、値打ちがあるから高価になるのです」

その説明に、ブランテールは不満そうだ。

「では先生、このブレスレットもいずれ価値が無くなるんですの?」

メイガルはゴホンと咳払いをして続ける。

「それは分かりません。もし職人国家か、もしくは周辺国家、ひょっとするとルーモスで技術が向上して大量生産が可能になれば、庶民も気軽に手にできるかもしれません。逆に職人国家の中でもただ一人の技術で作られたもので、後継者も無く二度と制作できないとなれば王族でも手に入れるのは困難なほどの価値になりますね」

バカにされたと思っていたブランテールは、そうでは無かったのかと思い至る。今まではケチをつける相手は敵、賛同し協力するものが味方だと認識していたので、どちらの感情もない相手はやりにくい。


「皆さんは未来の王妃を目指す方々でいらっしゃる。国家単位の収支は非常に大きく複雑ですので、目先の欲に走らず多くの知識を得て、どこに価値を見出すかを考えていただきたいと思います。では、他の交易品の紹介もしておきましょう。次回のテストに出しますので、しっかり勉強してください」

さすが王妃推薦の講師、中立を貫いてブレない。その後、変わらないトーンで、ものすごい種類を紹介していった。まだ今週は初日なのに、次のテストが思いやられそうだとげんなりする。必死にくらいついてヘトヘトになったあと、次の第一学科も追い打ちをかけるように同じような鬼仕様だった。



「ラミー、ノートとれた?」

シルベーヌがちょっと見たことの無い形相で、声をかけてくる。

「な、なんとか・・でも、合ってるかちょっと自信無い」

そう答えたラミーも、白目をむいている。

「私もよ。ねえ、見せ合いっこして一緒に復習しない?」

「賛成。このペースだと、今週のテストが危険だもの」

先週だって学科はギリギリだったんだから、と眉間にしわを寄せる美少女ラミー。上品ではかなげな見た目なのに、素直で根性がある。

ー確かに、沼りそうなギャップ萌えです、王妃陛下!

幼少期からクラン王子と親しかったせいか、これまでシルベーヌが出会った貴族のご令嬢たちは、キレイな外見に中身真っ黒な笑顔妖怪ばかりだった。損得駆け引き抜きの感情にストレートな会話って、こんなに楽しいのね!

嬉しくなるから、秘蔵のおやつも出してしまう。

「じゃあ、復習が終わったらチョコレートね!このあと食堂に持っていくわ」

シルベーヌの提案に、ラミーの目がキラリと輝く。

「やった、嬉しい!ペース上げてく!」

二人でくっついてノートを見比べ始めると、冷たい声が降ってきた。

「勉強は静かにして頂きたいわ」

ふわふわピンク髪の小柄な少女、腕に数冊の本を抱えた成績一位のサーシャ・ハクシューだ。

「あ、ゴメンね」

「すみません」

口々に謝ると、

「ご理解いただければ結構です」

静かなトーンで横を通り過ぎ、自分の席につく。同じように復習しているのか、それとも自習か。毎日、この資料室に残って本を読んではノートに書きこんでいる。

終日開放されている資料室だが、授業以外の時間に利用している者は少ない。特に午前中の学科終了後は昼休憩だから、皆、部屋や食堂で過ごすのが普通だ。

ラミーとシルベーヌがノート情報の交換を終えて食堂に向かっても、サーシャは一人残って勉強している。その表情は、とても楽しそうだった。



「はい、どうぞ」

昼食後、シルベーヌが小さなチョコレートラミーの前に摘まみ上げると、条件反射のようにパクっと食いつく。

「アラ、お行儀悪いわよ?」

クスクスと楽しそうに笑いながらシルベーヌに窘められて、我に返るラミー。

ーあ、つい手より先に口が出てしまった。だってコレ、すっごく美味しいのよ?目の前に出されたら、我慢出来なかったのよ。

顔を真っ赤にしつつチョコレートを味わいながら、脳内で反論する。

淑女にあるまじき行為を反省するが、わざと誘って餌付けを楽しんでいるのは窘めたシルベーヌの方だ。

「すっかりハマったわね?他にナッツ入りもありまーす」

持参した他の箱を開けて、テーブルに出す。アーモンドにカシューナッツ、マカダミアにピスタチオ、様々な種類のナッツを使ったキレイな形のチョコレートが並び、ラミーの目がハート型になっている。

「こんなの、別腹発動しちゃうよね!」

「でしょ~?でも、食べ過ぎるとお肌と体型にダメージくるのがツライのよ」

「くっ・・誘惑してダメージ与えるとか、悪魔なの!?」

「ホント、美しくて罪な悪魔」

「成敗しちゃうわ、えい!」

きゃいきゃいとはしゃぎながら、ひとしきりチョコレートを堪能した。

「ふふ、こっちは持って帰る?後で部屋で食べるといいわよ」

キラキラな目の美少女と、午後の授業に備えるため部屋に戻ろうと歩き出す。ラミーは大切に貰ったチョレートを胸に抱き、食べたばかりのナッツチョコを絶賛する。

見た目は高級なネコっぽいのに、中身は人懐こい犬みたい。シルベーヌは思わず抱きしめて頭を撫でたい衝動を抑えながら、チョコの在庫と追加の入手方法を考えていた。


読んでくださって、ありがとうございます。

今回も、長くなってしまいました。

「恋愛」ジャンルなんで要素入れたいんですが、やっぱり詐欺っぽいですね、スミマセン。

あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしています。

楽しんでいただけると嬉しいです。


毎週金曜 6:20 更新中。

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