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貧乏伯爵令嬢は婚活に夢を見ない  作者: 黒坂 志貴


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12/15

12.授業開始

翌朝、王子ガチ勢二人の態度は、不機嫌そうだがおとなしくなっていた。ドレスは誰よりも派手ながら、行き会う人には最低限の挨拶をして、時間前に指定された第一資料室へと向かう。

王妃候補たちが使う個室前、廊下の反対側にならぶ資料室。シルベーヌの部屋とは中央階段を挟んで反対にある部屋で、階段に近い方の扉から入ると左手の壁に大きな黒板、その前に教卓があり、教卓に向かって長い机が真ん中の通路を挟んで2つ、その後ろに5本ずつ並んでいて教室か会議室のような雰囲気である。

机の向こうは部屋の半分ほどを占める大きなガラスで室内は明るく、一部は扉になっていて外のテラスへと出られるようだ。残りの半分は壁で、等間隔に控えめな窓がある。図書館のように大きな本棚が並び、図鑑や論文、資料などが分野ごとに並べられていた。

少し遅れてシルベーヌとラミー、最後にチェルシーが着席すると、間もなく授業開始を告げるベルが鳴る。小さく聞こえていた話し声もやみ、候補の少女たちは緊張しながら姿勢を正して座りなおした。

間もなくウレシックに続いて男性が二名、女性一名が入室して教卓の前に並ぶ。コホン、と小さな咳払いをして、ウレシックが口を開いた。


「おはようございます。今日から一年をかけて、皆さんの中から妃を選びます。その地位に必要な知識や技術を身に着け、互いに切磋琢磨してご成長されることを期待しています。では、具体的なスケジュールの説明をしていきましょう」

教卓の上に準備されていた書類を少女達に配布し、確認しながら説明を聞くように促す。窓の外には、急峻な山々といくつかの建物が見え、昨日の夜から降り始めた雪が少し積もっていた。

このあたりの冬は厳しく、これから四か月近くは雪に閉ざされるらしい。その間に、自国と周辺国の歴史や文化、経済等の知識と、マナーやダンス、刺繍や楽器といった教養を身に着けるため、授業とテストを繰り返すそうだ。

それぞれの講師が採点し、結果を発表される。個人の成績は互いの知るところとなり、春までに合格点を出せなければ脱落、妃候補から外されて帰宅となる。

授業は週のうち五日が昼食と休憩を挟んで午前九時から午後四時まで、一日は九時から正午まで、残りの一日が休日だ。さらに楽器や刺繍などの課題もあって、テストは教科ごとに毎週一回。不合格なら休日に再試験準備も追加される。

これまでにある程度の教育を受けてきたならまだしも、初体験となる平民出身者や貧乏貴族にとってはかなりの難関かもしれない。

借金返済のかかるラミーは内心、冷や汗ダラダラだ。他にも数名は脱落を意識する内容だったが、身分の高い残念令嬢たちは自信を持ったのか、余裕のある表情をみせていた。


ウレシックと一緒に入ってきた三名は講師で、主にルーモス国内について担当する青髪に深緑の目のイケオジはマーブル・グレンフィディック、周辺三国について担当する金髪碧眼なのに地味な男がメイガル・アードベック、マナーやダンス等の淑女教養を担当する赤髪緑目の色気ある美人はカトリーマム・チタ。それぞれ普段は王城で働く文官だが、王妃の推薦で教育担当となったらしい。身分はそれほど高くないが、ピリっと緊張するような空気をまとい、どことなく王妃に近い圧を感じるのは気のせいだろうか。


手短に説明と紹介をしたあと、一旦しばしの休憩を挟んで担当以外の講師は退席し、授業が始まった。最初は国内情勢からで、ルーモスの成り立ちと現在の地理について。三つの強国に囲まれた内陸国で、国内は平地が多いが周囲を樹海と急峻な山脈や峡谷に囲まれた自然の要塞であり、他国からは二つのルートでしか行き来できない特殊な地形だ。

農業に畜産は自給できる程度、海は無いが川と湖が点在。王家の直轄地と貴族が治めるいくつかの領地に分けられ、それぞれが管理と運営を行っている。国の特産である魔法植物は王家直轄で研究と商品化を一貫しており、国と王家にとって大きな収入源である。


「どう?ざっくりだけど国の現状と王家の責任を少しは理解できたからしら?王族といったら華やかに見えるかもしれないけど、問題も多くて善悪とか損得だけで簡単に解決できないことばかりなの。だから妃候補のアンタたちには、しっかりお勉強してほしいワケ」

うっとりするようなイケボで見た目もイケオジのマーブルがテンポよく説明するが、話すとオネェになるので、どうにも集中力を持っていかれる。しかし僅か一時間程度でかなり濃い内容、このペースで週4、5回の講義だと、いわゆるテスト範囲はかなり広くなるんじゃない?

オネエに持っていかれるのを阻止しながら必死に食らいつくようにメモを取りつつまとめていたラミーは、その後周辺国の近況と淑女の基本姿勢と立ち居振る舞いといった初日の講義を全て終えて、すっかり抜け殻になっていた。


「ラミー、そろそろ部屋に戻りましょうか」

午後の実技中心な講義終了後、午前中の講義内容の復習をしていた二人。外はすでに暗くなって、しんしんと雪が降り積もっている。授業を受けた資料室の隣にある談話室でシルベーヌが声をかけるが、机に突っ伏した美少女は動かない。詰め込み過ぎによるパンク状態だ。

「ほらラミー、食堂の夕食時間が終わってしまうわよ」

今日も鳩とかイワメナあるかしらね~、と囁くと、むくりと体を起こす。

「・・・ごはん」

生気の無かった目に、ゆっくりと光が戻った。

「そうよ、片づけてご飯食べに行きましょう。今晩のメニューは何かしらね」

うふふ、と笑ってラミーを立たせると、手を繋いで部屋をでる。廊下を数十メートル歩いて部屋に到着すると、

「荷物を置いたら、すぐに行きましょう。部屋の前で待っているわね」

シルベーヌの言葉に頷いて、お互いの自室に入る。


「お疲れ様でした、ラミー様」

迎えてくれたピノが手荷物を受け取って、机に置く。促されるままに鏡の前の椅子に座ると、手早く髪を整えてくれた。

「こちらでいかがですか?」

手鏡を向けてサイドとバックを見せてくれる。

変わらず元気ににこにこと楽しそうに仕事をしてくれるので、抜け殻な心が癒されていく。

講義中は付き添わないので、授業がある日の部屋付き侍女の仕事は比較的ゆったりしている。休憩や他の仕事を二人で交代しての対応で、朝の身支度と食堂への付き添い、講義へ送り出した後に部屋の清掃をし、昼食の付き添いが終わると午前の侍女の仕事は終了。午後の担当は講義終了までに部屋で待機し、夕食の付き添いと湯浴み、湯上り後のケア等を行い、主人が眠るまで傍に控えて雑務を行う。

部屋付きとはいえ離宮の侍女としての仕事もこなす、眩しいシゴデキさんたち。雇うとなるとお高いんでしょうね、と実家で老体に鞭打ちながらボランティア労働をしてくれる執事とメイドを思い出していた。

「シルベーヌ様がお待ちですよね、参りましょうラミー様」

明るい声、スマートな先導で優雅にドアを開けてくれる。

「ありがとう、ピノ」

華奢で優美な佇まい、優しく美しい微笑み、ああ物語のお姫様みたい。ラミー様優勝!


シルベーヌとラミーは並んで食堂へ向かう。その後ろを侍女であるピノとサクレが控えめに従って歩く。

ピノはすっかり、ラミー推しになっていた。

なんたって候補の中ではダントツの美少女、そんな容姿で貴族なのに高圧的なところが無いどころか全く世話がかからない。提案はほぼ受け入れてくれるし失敗にも寛容、些細なことまで感謝されて初心者侍女として有難いことこの上なし!

そりゃあこちらも腕を磨いて、ラミー様を一段と輝かせるべく努力するしかないでしょう。と、思わず鼻息荒くなるくらいの気合が入ってしまうのだった。

が、そんな水面下の心境は、気づかないラミーである。


遅くなったせいか、食堂には他の妃候補は誰もいなかった。シルベーヌと向かい合っての夕食、メニューは彩り豊かな温野菜サラダに仔牛のシチュー、パンはプレーン、チーズ・バジルの三種類から選べる。デザートは小さなケーキ二種が美しく盛り付けられたプレートにミルクティー。

「このドレッシング、私の好物なのよ。酸味がきいててスッキリして、何にでも合うわね」

楽しそうに話しかけてくれるけど、

「ええ、美味しいわ」

ラミーの返事はイマイチ歯切れが悪い。

どれも初めて食べる料理で美味しいのに、初めての授業で改めて身の程を自覚したというか、住む世界の差を実感したというか、無謀な賭けで負け確定を思い知って震えるというか・・・、

「これは、私なんかが軽々しく口にして良いものじゃないのでは・・・?」

またおかしな思考回路で迷子になったなと、シルベーヌはラミーをねめつける。

「あのね、ラミー」

正面から真剣な目で見据えて一呼吸おき、どうすれば伝わるのかと思案しながら言葉を選んでいく。

「舞踏会で言ったように、私は本気でクラン王子の妃を目指してるの。この国とクランが好きだから、力になりたいのよ。でもいくら王だって一人で国を動かすことは出来ないの、王妃がいたって二人だけじゃ無理。私はね、信頼できる仲間、本当の友達が欲しいのよ」

ラミーはただ、黙って聞いている。シルベーヌはさらに続けた。

「あなたに会えて嬉しかった、友達になりたいと思ったわ。同じ貴族の身分でも、決して恵まれた生い立ちではなく、それを理由に気後れしてるのは知ってる。けど、あなたは自分が思っているよりずっと能力があるわ、磨けば必ず光る原石よ」

シルベーヌは最初から親切だったし、その後もあれこれ世話を焼いてくれた。友達だと言われて嬉しい反面、どうしてそこまで買ってくれるのか分からない。そもそも今までお花畑な両親から謎の期待しかされなかったし、自分が何かを成した実感も無い。

「・・・私のこと、ろくに知る機会もなかったのにどうしてそこまで・・」

俯くラミーに、シルベーヌは力説する。

「根拠ならあるわ!短い時間でも人となりは見ればわかるし、復習のときに見せてもらったノートで教育機会があれば伸びるって確信したんだから」

あまりの力強さに、顔をあげてシルベーヌを見る。

「ところで・・・」

興奮していたシルベーヌが、トーンを落とす。

「ラミーもクラン王子が好き?だったらライバルになっちゃうんだけど・・・」

目が泳ぎぎみで頬が少し赤くなる。そんなシルベーヌが、とても可愛らしいとラミーは思った。

「私は・・・そういうの正直、よくわかんない。ここに来たのは借金を返す伝手探しだし。でも舞踏会で踊っているクラン王子とシルベーヌは、お似合いだと思ったよ」

2人はしばらく見つめ合い、シルベーヌがラミーの両手をガシっと握った。

「もっとぶっちゃけて言うわ。私が王子妃になったらラミーに稼げる仕事を斡旋するって約束する」

ラミーの目が輝きを増し、友情を確信した。

「ラジャー!」


自室に戻り、ピノが用意してくれた浴槽に浸かって髪を洗ってもらいながら、シルベーヌの言葉を反芻する。湯上りに丁寧なケアをされつつ、ピノにも元気をもらった。

目標はハッキリした。それに自分を知って肯定してくれるのは、こんなにも心強いのかと初めて知ったかも。ラミーは晴れ晴れした気持ちで眠りについた。

読んでくださって、ありがとうございます。

ちょっと今回は、長くなってしまいました。

「恋愛」ジャンルなんで要素入れたいんですが、相変わらず詐欺っぽいですね、スミマセン。

あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしています。

楽しんでいただけると嬉しいです。


あ~、予約ストックが無くなる~・・・、面談と参観もある~・・・、すぐ眠くなる~・・・。

毎週金曜 6:20 更新中。

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