10.離宮合宿開始!
「ラミーとこれから一年も一緒だなんて、楽しみだわ。すっごく嬉しい、よろしくね!」
シルベーヌは向かいに座って笑顔全開、両手をがっしりと掴まれてぶんぶんと勢いよく振る様は、どう見ても嬉しそうで歓迎されているっぽい。
舞踏会で一度会っただけなのに、この合宿に向けてやたら乗り気で親切、あれこれと世話を焼き、こちらの事情を察してか一緒に行こうと馬車で迎えに来てくれたのだ。
伯爵邸では先日、胡散臭いまでにニコニコと上機嫌な対応の商人に支度品を揃えてもらって離宮に先送りを済ませ、道中のおやつにとご近所おかみさんお手製の焼き菓子をもらい、両親と執事、メイドに万歳三唱な勢いで見送られた。向かう先は、王家に招待された離宮だ。
前向きに捉えて頑張ろうと覚悟を決めたつもりだったけれど、王子とも懇意にみえるホンモノご令嬢のシルベーヌに身に余る厚意を受けて友好的に向かい合う現状が、どうにも非日常過ぎて理解が追い付かない。
物心ついた時から泥や草にまみれてその日暮らし、親しい友人もおらず、小さく閉じた世界でお花畑な両親に振り回されながらも、その度に軌道修正をして名ばかり貴族の自給自足な日々を過ごしてきたつもり。
それが一転、煌びやかな貴族生活。それも王族案件とか、マジで実感わかない。現在着用中のドレス代を含めた借金なら実感あるんだけど・・・って、考えたら体調壊しそう。
そんなこんなで出発からいくつかの街や村を通り過ぎて二日経った午後、最後に休憩した小さな集落から半日近くが過ぎて、馬車は景色が晩秋から初冬へと移り変わるほど山を登った。近づいてきた山々は馴染みのない針葉樹に薄い雪化粧、雑踏を離れて雄大な自然に囲まれているのに、道は馬車が通れるよう整備されているとかラミーには違和感しかない。
ーいっそ手つかずの雑木林なら親しみあるし、ここまで緊張しなかったかなぁ。
なんて、取ってつけた笑顔の下で考える。
実はこの施設、単なる別荘ではなく、国を囲む山脈と大森林が一番大きく広がる場所に位置する王家の直轄地で、侵入も容易ではないことから、大きな声では言えないが魔法植物の研究施設も兼ねていたりする。
なので贅沢をよしとしない王家が、離宮までの道を整備し、往来を管理しているのだ。
馬車はゆっくりと山道を進み、堅牢だが下をのぞき込むには勇気のいる峡谷にかかる橋を渡ると、石造りの小さな門をくぐる。
石畳の道は小型の馬車ならすれ違えるくらいの幅で、山肌に沿って大きくカーブしていた。一部は片側が崖になっていてちょっとスリリングな道沿いには、未登録の馬車や馬を攻撃する設備も隠されているとかいないとか。
要するに、勝手に出入りは出来ないということ。
王家の別荘だからもっと便利な場所にあると思っていたけれど、監獄以上かもしれないセキュリティ重視の物件だった。
商会への借金は舞踏会のドレス一式から、今回の準備品で桁一つ上がっている。本腰入れて勉強し、最低でも王宮務めになれるよう励まねばならない。この一年、何があっても帰ってくるなと両親に釘を刺されたのは、家の心配より自分を優先するように、との両親なりの覚悟の現れだ。ぶっちゃけ、その覚悟の方向性に不安しかないのだが、こうして送りだされてしまえば帰れない。かみ合わない親でも、嫌いなわけじゃない。だからこそ、子を想ってくれる気持ちも無下には出来なかった。
まぁ、いくら頑丈で体力に自信があっても、身体ひとつしかないラミーにはこの道中を引き返すなんて無理だろうし、簡単に逃げ帰るなんてできそうもないけれども。
やがて開けた場所に出ると、正面に三階建ての大きな建物が見えてきた。起伏に合わせてその左右や奥にも大小いくつかの建物が見え、回廊のようなものでつながっているところもある。離宮というより、小さな町のよう。グレーやベージュ等の落ち着いた色調で、装飾は控えめだった。
馬車が一番手前にある建物の正面玄関の前に止まると、出迎えてくれた男性の案内で中に入る。穏やかイケボの並顔ロマンスグレイは、ウレシックと名乗った。
「滞在中のお部屋へご案内します。部屋付きの使用人がそれぞれ二名ずつおりますので、なんなりとお申し付けください。この屋敷をはじめ離宮全体の案内も使用人が致しますので、折を見てお聞きになってください」
数名の使用人がテキパキと荷物を分けて運び、部屋付きと思われる二人が確認をとりながら使いやすいように整えてくれる。ううん、シゴデキ感。
「それでは、夕食までご自由にお過ごしください」
そう言ってウレシックが下がると、ラミーとシルベーヌはそれぞれの個室に入る。
一階は広間と食堂、それに厨房。使用人の控室や応接に使う数部屋がある。二階は図書資料室の他は個室が並び、妃候補一人に一部屋を用意されていた。
中央の階段を踊り場まで上がって左側へ進み、二階へ上り切った正面の部屋がシルベーヌ、ラミーはその右隣へ案内されて、なんとなくほっとした。やっぱ、知った人が近いと安心感あるよね。
「ラミー様、こちら届いているお荷物を開けてもよろしいでしょうか?整理いたしますので、ご指示くださいませ」
赤茶の巻き毛に栗色の瞳をした、やや年配の女性はパルム。真面目で厳しそうな視線と口調が印象的で、ちょっととっつきにくそうだ。
「あ、ありがとうございます。ではあの、本と筆記具は机と隣の棚へ、衣類や小物はクロゼットへお願いします」
伯爵令嬢とは言え、専属の使用人などいたことは無かったし、世話をすることはあってもされることに慣れない。が、あまりに仕事に忠実な感じで聞かれたので、反射的に指示を出している自分に驚く。
「ではこちら、ペンやインクは一番上の引き出しに、紙は中段、本は棚に仕舞いますね」
明るい栗毛のお団子頭に緑の瞳、動きも口調もはつらつと元気な少女はピノ。テキパキと荷物を仕分けて、楽しそうに整理していく。人懐こい笑顔が印象的で、緊張が薄らいでいくような気がする。
指示を出して人が働いているのを見ているだけなのは、どうにも居心地が悪くて落ち着かないなとソワソワしたけど、持ち込んだ荷物は少なかったので手早く淹れてくれたお茶を飲んでいる間に片付いた。
一つ片づける間に仕事を増やして無限ループを作り続ける両親と、落差があり過ぎて固まってしまう。これが環境の変化で感じるという、カルチャーショックだろうか。
オフホワイトとブラウンを基調とした落ち着いた色調の二間続きで、寝室とリビングのよう。奥に風呂とトイレがあり、調度品は多くないが、控えめに花や絵画が飾られている。個室というよりも高級ホテルの一室のようだ。
どちらにも大きな窓があり、開けるとかなり冷たい風が入ってくる。先ほど馬車を降りた正面広場が見え、林を抜けて植栽の美しい庭園を豪華な馬車が二台、続けて入ってくるのが見えた。
コンコンコン
軽いノックの音がして、
「ラミー、入ってもいい?」
シルベーヌが声をかける。
どうぞと招き入れると、入ってきたシルベーヌがリビング風の部屋の窓辺にラミーを手招きする。
近寄って促されるままに見下ろすと、先ほどの派手な馬車から派手な令嬢が登場するところだった。
「二人とも気合入ってるわね」
ふふ、っと楽しそうにシルベーヌは笑う。
ダンス・パーティで最初に名前を呼ばれてコケにされていたブランテール・デュワーズ公爵令嬢と、幼少期からその腰ぎんちゃくだったエリーゼ・ラフロイグ侯爵令嬢。ガチ王子狙いの勘違いお嬢様連合軍である。
「意気込みは評価するけど、方向性が残念なのよね。ラミーの方がずっと綺麗だわ」
ため息交じりにつぶやかれて、返答に困る。
「でもね、万年人材不足だから蹴落とすだけじゃなく活用方法を考えたいの。みんな原石、この一年で磨きまくって見せるわ。ラミー、あなたもね」
力強く見つめられて、パチンとウインクされる。ラミーにはイマイチ、シルベーヌが掴めない。
「え?ええ、よろしく・・・」
目をぱちくりしながら返答すると、
「ふふ、夕食まで時間あるわね。一緒に見学しない?」
正直、ぼっちだとどうしていいのか分からないので、シルベーヌの提案に乗っかった。
パルムの案内で二階から一階を一通り見て回り、出会った人に挨拶をする。三階は王族の私室として使われるらしく、王族不在の時は立ち入りを制限されていた。そもそも専用の昇降機か使用人用の階段でしか行けない作りで、案内無しで立ち入るのは難しいそうだ。
なるほど、いろいろと考えられているんだなぁと呑気に関心するラミー。思えば他家を訪ねた経験も皆無なので、自宅以外の建物は目新しくて面白い。窓ガラスも割れていないしドアノブだって壊れていない、階段の踊り場に活けられた花、廊下に敷かれた絨毯や壁に飾られた絵画に刀剣、広間や応接はもちろん厨房から倉庫に至るまで、隅々まで手入れが行き届いて美しい。
ーデキる人ばかりの集団ってスゴイ、完成度が半端じゃないわ。
ラミーは心の底から感心した。
一通り見学を終えると個室に戻り、夕食の準備をする。
といってもいつもの調理ではなく、身支度を整えるというのが不思議な気分。妃候補も全員が揃ったらしく、改めての顔合わせになる。
パルムが選んだドレスに着替え、髪を整えて薄く化粧をしてもらう。グレーと白、シックな色合いながらレースとファーをあしらったふわりと柔らかなシルエットは、可憐な美少女を引き立てる。
事実、妃候補が一堂に会した食堂で、ひと際目を引いていた。
読んでくださって、ありがとうございます。
あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしています。
楽しんでいただけると嬉しいです。
合宿編、頑張るぞ!と、気合入れたのに体調不良とヤボ用で出鼻を挫かれた・・・。
ああ、せっかく書き溜めた予約投稿分が無くなる~、と新年から焦っております。
ペース上げていきたい。
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