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貧乏伯爵令嬢は婚活に夢を見ない  作者: 黒坂 志貴


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1.お妃候補募集!?

シンデレラモチーフの恋愛ものチャレンジです。

キュンより多分、わちゃわちゃです。

元気になれるお話を目指します。

「では、そのように」

「お任せ下さい。必ずや結果をご覧に入れます」

「頼みましたよ」


とある場所で密談が行われてしばらく後、ルーモス国王の名で国中に告知された内容は、第一王子の妃候補募集。

条件は『ルーモス人で我こそはと気概のある独身女性』であることのみで、約2カ月後に開かれる舞踏会へ出席した者の中から選出されるらしい。

夢見る少女からお相手を吟味し過ぎた妙齢の女性まで、密やかに、また思わず絶叫する程に揺さぶる妄想の嵐がそれぞれの心に吹き荒れる。

これは童話の、某灰かぶり姫並大チャンス!

対象者の両親始め親族までもが鼻息荒く、それぞれが隣近所を巻き込んで、我こそ、いや我らこそがモノにするのだと興奮が伝播していく。

娯楽の少ない小国が沸き返り、みるみるうちに殺気や狂気を含んだような活気に満ち溢れた。


貴族はもちろん、年頃の娘を持つ商家や町人、農民までを巻き込んだお祭り騒ぎ。小国と言えど王太子妃ともなれば未来の王妃、またとない玉の輿チャンスだ。

それに王子は御年16歳、人嫌いであまり人前に出ないが、麗しの美形と噂されているのだ。最悪、性格がちょっとアレだったとしても、容姿と地位と権力が(たぶん)約束された優良物件である。


これは張り切らずにおられまい、彼氏や婚約者がいない娘はもちろんだが、それらを上手くキープしつつ狙うのも向上心とする、野心家のお嬢さんや両親も少なくはないようだ。

ドレスや装飾品を扱う商店や職人も活気づき、貴族の茶会から庶民の酒場まで盛り上がり、思った以上に経済効果も現れた。



ここ、貧乏伯爵家においても伯爵夫妻が、貴族にあるまじき鼻息の荒さで一人娘に対峙し、説得にあたっている。


「ラミー、もうお前の美貌に賭けるしか無いんだよ。頼む!」

顔だけは良い弱気な父が、縋りつくような視線を向けて哀願する。

「今まで持ち腐れだった容姿を活かす、絶好のチャンスじゃない。逃す手は無いでしょう?」

明るく元気で裏表のない、ちょっと口と頭がアレな残念美人な母も娘を見上げて説得を試みる。


屋根に向かって必死の懇願をする両親を見下ろし、ラミーは修繕の手を止めて一瞥すると、くわえた釘を手に持ち替えて慣れた手つきで板を打ち付ける。雨漏りの修理すら伯爵令嬢が自力でやらんといかんほど困窮している現状を、坊ちゃんと嬢ちゃんでのほほんと育った両親はどう考えているのだろう?


「あのね、柄じゃないって何度言わせるの。私に王妃なんて務まる訳ないでしょう?」


ラミーは物心ついた頃から貧乏だったせいか、華やかな貴族らしい生活には興味も憧れも無い。大きな屋敷にいた使用人は年々減り続け、今では年老いた執事とメイドの二人だけ。

当然ながら手入れは行き届かず、日々の生活にも困窮する有様。

なのに人にかしずかれて育った両親の生活力は驚くほど低いままで、そんな親をアテにしていたら死ぬかもしれんと幼い頃から何でも挑戦してきた。


おかげで上がったスキルは食材集めの狩猟や採集に釣り、屋敷や道具の修繕、装飾無視の実用的な裁縫技術。

流行りの菓子やそれに合う茶葉も知らないし、上品なコース料理を食べた事なんてない。マナーも得意ではないが、狩猟と獲物の解体からの野性味あふれる料理ならお任せあれ。

建築様式だの調度や骨董だのの知識も無いけれど、壊れた生活必需品を使えるように修理するのは得意。

刺繍やレース編みは経験値もゼロに等しいが、破れやほつれの修繕、寸法直しなどは不自然でない程度には出来るのだ。


ラミー・グレンリベット、15歳。淡い金色の緩やかに波打つ豊かな髪にアメジスト色の瞳、透き通るような肌に整った美しい顔立ちをしており、手入れをして相応のドレスを纏えば立派な貴族令嬢だろう。

が、普段の彼女は邪魔にならないよう無造作にまとめただけの髪に、使用人が着るような簡素なシャツとズボンで女性に見えるかすら怪しい。


お坊ちゃま育ちで優しく温厚、人を疑いもしない一途で単純な父。斜陽男爵家の一人娘で有り金はたいて蝶よ花よと愛されて育ったせいか、貧乏貴族出なのに危機感の無い母。伯爵家に嫁がせた安心感からか、両親共に病に倒れて、今は実家もそれに代わる後ろ盾も無い。

なんとも頼りない両親だが、事故で先代伯爵が亡くなって爵位を継いだ当時は、まだ資産も事業もあったのだ。それが社交界で知人が増えるにしたがって目減りしていき、気付けば身ぐるみはがされた状態で人も金も無くなっていた。

それでも人を恨みも妬みもせず、のほほんと笑っていられる両親はある意味尊敬対象だったりするけれど、もう少し危機感を持てなかったのか。

壁は所々崩れ落ち、割れた窓ガラスには板をはりつけ、踏み抜いた床板の周囲は紐で囲って注意を促すだけ。そんなボロ屋敷に住んでいても変わらず優しく穏やかで、素直でどこか憎めない。散歩に出て近所の農家で野菜のおすそ分けを貰ったと喜び、娘が捕った魚や小動物を心から絶賛してくれる。

お花畑な思考故にご近所に愛され、一人娘と噛み合わない。


「ああん、もう。年頃の娘が職人見習いみたいな恰好してるなんて、悲しすぎるわ」

ーコレが一番動きやすいし、手入れも簡単なんですよ、お母様。

「それだけ美しければ、どんなドレスや宝石も似合うだろうに」

ー毎日お腹が減るんだから、そんなものがあったら即食料と交換ですよ、お父様。


お金があれば、私たちがもっとしっかりしていれば、と嘆くばかりの両親は、どうにも現実が見えないらしい。おとぎ話じゃあるまいし、美人だからと一目ぼれされるとは限らないし、仮にあったとして生活水準の違い過ぎる相手と結婚して上手くいくとは思えないのに。

そう説明してみても、王子が気に入れば大事にしてもらえる、王宮に入れば生活に困る事も無く幸せになれるはずだ、と譲らない。


「女の子は可愛いのが一番、あなたの笑顔で虜にならない男性なんていないわよ」

ー幼少期に無駄に笑うとロクなのが来ない、と学習済みなんです、お母様。

「だからと言って、どこぞの馬の骨にはやれん!王子なら願っても無いがなぁ」

ーそういう博打思考だから、ウチは貧乏転落したんですよね?お父様。


もうため息しか出ないが、声に出すと嚙み合わなくて疲れるので、反論はあくまでも脳内のみ。何より日々の生活の糧を手に入れる必要があるので、お気楽な両親の相手ばかりしていられない。

適当に聞き流し、それすら億劫になった時は馬で遠出して川釣りをはじめ食料調達に励み、生活上必要な事を優先させた。


「こんなに綺麗なのに、どうしてお洒落に興味無いのかしら」

ー着飾ったところでウチが没落しているのは周知の事実、貧乏人は足元みられるだけなんですよ、お母様。

「あまりに美しすぎる原石故に、磨く必要を感じないのかもしれないね」

ーうちのどこにそんな余裕があるんですか、自分磨きもタダじゃできませんよ、お父様。


誤魔化しの笑顔で脳内反論が定着、何を言われてもにこにこと笑顔を向けるだけだ。おかげ様で気が済んだのか諦めたのか、お妃選びの舞踏会へ出ろとは言われなくなった。

ああ、やれやれ。

読んでくださって、ありがとうございます。

あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしてみます。

楽しんでいただけると嬉しいです。

毎週金曜17時更新中。

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