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デデの優しい召使い

※ 10/15 加筆修正しました。

 ◇ ◇ ◇


 9月が瞬く間に過ぎもうすぐ10月になる。

 王都の街路樹も段々と紅葉が色づき秋めいてきた。


 デデが王都の娼婦館に売られて約半年が過ぎた。

 あいかわらずデデの人気は高く、ほぼ毎日のように入れ替わり立ち代わりダンスの申し込みや、お酌の相手に指名が後を絶たなかった。

 客たちも何度か指名していくうちに、デデがどういう贈り物を受取ってくれるのかが分かってきた。

 花や宝石やドレスよりも果物やお菓子などの食べ物をデデは好んで受け取った。


 だが、彼女は客のくれたものには殆ど手をつけなかった。


 ◇ ◇ 


「ロザリー、お客からクッキーをもらったから弟たちにあげてね」

 デデは2階の奥の部屋で召使とペンでやり取りができる専用のノートに『筆談』でロザリーに伝えた。


「デデ様、よろしんですか。この前も梨や葡萄(ぶどう)を貰ったばかりですよ」


 デデは首を横にぶんぶんと振って

「いいのよ、遠慮しないで。私は余り食べたくないの」

 と『筆談』して、ロザリーに微笑んで美しい花柄模様のクッキーの缶を渡した。


 ロザリーはお菓子の缶を開けると目がぱぁっと輝く。


「まあ、とっても綺麗な缶ですこと。中身も高級なクッキーですね。花模様や動物の形のクッキーとかあって、なんだか食べるのが惜しいくらい素敵ですね~」

と嬉しそうに驚く。

 更に「とはいっても弟たちに見せたらあっという間に食べちゃうわ。デデ様、いつも本当にありがとうございます」

 ロザリーは深々とお辞儀をする。


 ロザリーの()()()()()()に、満足げにうんうんと頷くデデ。


◇ ◇


 ロザリーはデデの専用の下女である。

 赤毛のソバカスで近眼の為、黒い眼鏡をかけておりガリガリに痩せていて背が高いのっぽさんだ。

 眼鏡をとっても愛嬌はあるけれど、お世辞にも容姿が良いとはいえない風貌だった。


 だが娼婦館で働く女の容姿が良ければ、ここではとたんに娼婦にされてしまう。

 ロザリーにとって、醜い方が幸いして下働きの下女で良かったともいえよう。


 彼女は王都の町はずれの貧民街から通っていた。

 両親が亡くなって祖母と年の離れた弟2人と、4人暮らしだ。

 弟たちは年子(としご)で、まだ10歳前後と食べ盛りだ。

 貧民街の家族たちには国からの補助金は少しだけ出るものの、それだけではとても暮らせない。

 

 ロザリーは家族を養う為に、2年前から下女として娼婦館で働き始めた。 

 娼婦館の下女は館の住人たちの洗濯から掃除、娼婦の世話全般など多岐にわたって行う。キツイ性格の娼婦の元につくとたちまち辞めていく下女が多いが、給金は他の仕事よりずっといい。

 

 ロザリーは働き者で性格も従順で明るかった。

女主人も気に入っていたので、ロザリーを性格の良い娼婦の下につけてあげた。娼婦の性格が良いと言ってもデデは話せないので、自分勝手のわがままな娼婦と比較すれば、下女たちにとっては扱いやすいと思われていたのだ。


 デデは無気力だった。

 人生に絶望していたデデは下女たちにもほとんど無関心であった。

 だが、ロザリーに変わってからはデデにも笑顔が見られる様になる。

 ロザリーは常に明るく笑顔を絶やさない、甲斐甲斐しく世話をする彼女に、デデも徐々に心を許すようになっていった。

 ロザリーもデデが花のような笑顔になると、とても嬉しくなってデデを身内のように大切に世話をした。


 女主人もロザリーをデデの下女にして喜んだ。


「あの気難し屋のデデが、ロザリーには愛想がいんだからねぇ。まったくデデには困ったもんだよ。お客にもロザリーに見せる薔薇の花がぱぁっと咲いたような笑顔を殿方が見たらイチコロだろうさ、更にうちの金払いが良くなるんだけどねぇ~」

 と女主人が忌々(いまいま)しげに煙草を吸いながら愚痴を吐く。


それほどデデはロザリーにだけは、少女らしいくったくのない笑顔を見せた。

 年齢はデデよりも4歳年上だったが、ぱっと見た感じだと、愛想のない表情のデデの方がロザリーより大人びて見えた。


(ロザリーは家族みたいに甘えることができる、ロザリーがメイドで本当に良かった……)


◇ ◇ ◇


 デデの仕事は夕闇がせまる頃から始まる──。 

館に訪れる上客たちの相手をしてダンスの相手をする。後は客の酒のお酌だ。

 客が酔っ払ってくると、酒と煙草の入り混じった臭い息でキスされたり、服の上から身体をベタベタと触られたりする。

 それらをデデは一向に馴れなかった。


 そのまま翌朝、部屋のベッドで気分が悪く()せっている時など、ロザリーがかいがいしく湯あみの世話をしてくれたり食事の用意をしてくれた。


 デデの両親が死んでから、唯一甘えられるのが、ロザリーだけであった。


 今日ももデデが湯あみの後、ロザリーが銀色の髪をゆっくりと櫛で()いていく。


 この時間がデデはとても好きだった。

 

カーテンを開けて窓から差し込む日の中で、デデの銀色の滑らかで美しい髪をロザリーが優しく剝く。


 その度にデデはよく亡くなった母親を思い出した──。


( ああ、こうして母さんもあたしの髪をいつも剝いてくれたっけ。そうそう、ロザリーのソバカス顔を見てると、母さんが一生懸命茶色のペンシルであたしの顔にそばかすを描いてくれたことを思い出すわ──あの頃は言われるままに『なぜ、ソバカスなんか顔に描くのだろう?』と思ったけど今ならわかる。母さんは下品な男たちから、あたしを守ってくれていたのだと……)


「デデ様の髪は本当に銀の雫のように綺麗ですね~。はあ~美しいってとっても羨ましいですわ」

 と、ロザリーがしみじみと呟いた。


 デデは振り向いてテーブルのノートにゆっくりと『筆談』をする。


「いいえ、私にはあなたの方が羨ましいわ。お祖母さんと可愛い弟さんたち家族がいるんだもの」


 ロザリーは「はっ」と手を口に当てる──。


「あ、私ったらごめんなさい。デデ様……」


 ロザリーはデデの身の上を知っていた。

 両親が事故で死んで、ただ1人の身内の叔母ですらデデをこの娼婦館に売ったという悲惨な境遇を。


 デデは()()()()()首を振ってロザリーの手を取る。

 そしてまた『筆談』を続ける。


「気にしないで。あなたに髪を剝いてもらう時があたしは一番幸せよ。いつまでもこうしていて欲しい。もうすぐ16歳になって誰かの()()になってもロザリー、あなただけは変わらずに私の側にいてね」


「ええ、勿論ですとも。私はデデ様がどんな殿方と一緒になったとしても、デデ様の身の回りのお世話を致しますわ」


(ありがとう。ロザリー)

 デデは、嬉しそうにコクコクと頷いた。

 

 だが、デデは知っていた。

 

 ロザリ―には貧民街の近くの鍛冶店で働いているトムという気のいい若者と付き合っていることを。

 以前、本人から教えてもらったからだ。


 トムはまだ見習いだったが、正規の鍛冶職人になったら田舎の故郷に帰省することも。

 多分、その時はロザリ―もトムのお嫁さんになるにちがいない。


( こうやってロザリ―に身の周りを世話してもらうのもいつまでだろう? ロザリ―がいなくなったら気が狂ってしまうかもしれないわ )

内心デデは暗い気持ちになった。


「さあ、終わりました。デデ様、朝食にいたしましょう。今日のお茶はどちらになさいますか?」

 とロザリーは、ダージリンティーとローズヒップティーのお茶の缶を見せる。


( こっちね!)

 デデは、ローズヒップティーの缶を指さした。


「かしこまりました!」

 ロザリーがニコッと頷いてお茶の準備をしてくれる。

 この部屋には狭いが調理場もあるので、お湯を沸かしたり簡単な調理もできる。


 その間、デデはソファーに座って絵本を開いて読む。

森の絵の挿絵が載っているとても美しい絵本であった。


 最近、デデは気晴らしに絵本を購入してもらい、良く見るようになった。

 本当は絵本の森をみることよりも、外に出て公園や森を散歩したいのだが、デデは勝手に外出することは女主人から禁止されている。


 娼婦なので逃げられると困るからだ。


 デデの外出が許されるのは、客と同伴する時の馬車での行き帰りのみだ。


 最近は、姫娼婦の候補者の上客たちの指名する場所へ赴くことも多くなった。


 大司教のいる大聖教会や、第3王子や騎士団長のいる王宮殿や、大商会の会長の本店へ行く。

 外出はデデの気晴らしにはなるが、馬車の車窓から景色を見れる喜びはあるものの、デデには気が重かった。

 

 なぜなら彼等に呼び寄せられる時は、娼婦館よりもデデに対する客の行動がおぞましくえげつなかったからだ。

 指名客たちはデデと会う為に、あえて2人きりの密会部屋を用意している。

 そして誰も見てないのをいい事に、娼婦館以上にデデを『玩具』のようにぞんざいに扱う。

 

 デデの唇にキスしたり、時にはデデの豊満な胸を見たいがためにドレスから引きはがそうともした。

 それだけではない、中にはドレスを翻して下着をはがそうと法律で禁止されている未成年のデデにやってはならないことまでしようとする者すらいた。

 だが、いくら彼等がやっきになっても誰1人、デデを犯す事はできなかった。


 そういう時に決まって、グッドタイミングで邪魔が入ったり何かしらアクシデントがあって彼らは失敗したのだ。

 これは、デデの彼等の過度に行う行為のあしらい方も馴れてきたせいもあったが、明らかにあの呪術師の男の呪いが利いている様だった。


 呪術師はデデの処女性を重んじた。

 彼なりに、まだデデを囲うことを諦めてはなく虎視眈々(こしたんたん)と店に通いながら、デデを狙っていたのだ──。





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