わ~い
『花音』店から出発した呂々爺は、サイドカーの安全運転を心がける日埜恵を褒めちぎりつつ、大きな風船に乗って並走する中で、ふと、善嗣に疑問を投げかけた。
おまえは魔法使いか。
いいえ。
善嗣は答えた。
「私は魔法使いではありませんし、妖精やペガサスなどの魔法生物でもありません」
魔法生物。
生まれつき特定の魔法を使える人間以外の生物を指す。
人化できる種族もおり、その中には自分が魔法生物だと隠して人間として暮らすものも居る。
「申し訳ありません。社長が、もしくは私がこれからも命を狙われる可能性がある以上、魔法使いであれば、いいえ、せめて、何らかの護衛技術を得ていれば、自らの身を守る事ができたばかりか、社長と呂々爺さんの身を守る事もできたのですが」
「いやいやなに。謝罪する必要はない。ただの確認じゃ。魔法使いしか入れない地区もあるのでの。まあ、自衛組のわしが居れば、ちょちょいのちょいでそんな地区も入れるので安心せい。それに、自衛できるに越した事はないが、それでは護衛役を買って出たわしの立つ瀬がないからのう。しかも、おまえは幼児化してしまった身。日埜恵が、蘇生が不十分であると考えている以上、負担をかけぬように過ごす事がおまえの第一の仕事じゃ」
「頼りにしてるぜ。呂々爺」
「おまえは自衛が第一の仕事。いや、善嗣を護衛する事が第一の仕事じゃ。そんでもって、おまえを護衛するのがわしの第一の仕事。そんでもって、善嗣は自分の身体を労わる事が第一の仕事。うむ。助けて、助けられて。見事な循環じゃ。よきよき」
「うん。本当に見事な循環だ」
「いえ、どう考えても、私だけが循環していないですが」
「そう思っておるのなら、そう思い込んでおるだけじゃ。安心せい。おまえも循環しておる」
「そうだ。善嗣。あ。いや。そうだな。おまえが循環するには、決定的に変えなければいけない事が一つある」
「何でしょうか?」
「俺を社長ではなく、日埜恵と呼ぶ事だ」
「おお。そうじゃ。社長でも善嗣が感情を込めて呼んでいるので構わないが、名前で呼んだらもっとグッと信頼感が増すと思うぞ。その信頼感が、日埜恵の、善嗣の力になる事は間違いない」
「そうそう。だから、呼んでみ?」
「はあ。それで、社長の力になるのならば。ごほん。失礼します。日埜恵さん………あの。何かご不満がおありですか?」
「何じゃ?善嗣には日埜恵の顔が見えておるのか?」
「いいえ。ただ、そんな感じがしただけです」
「そうなのか?日埜恵」
「まあね。もっと、ためらってほしかった。え。そんな、社長をいきなり名前で呼べませんって、もじもじしてほしかった。それにー。社長の方が呼び方的には親近感があったっていうかー。名前呼びになった途端、一気に距離が広がったっていうかー。一気に温かみがなくなったっていうかー」
「私はどうすればいいのですか?」
「いやいやいいのようん。俺が慣れればいいだけだし。だからこれからは名前で呼んでくれ」
「わかりました」
「よし!これでわしたちは最強のパーティーになったぞい!」
「イエイ!」
「わ。わ~い」
(2024.6.19)




