サイドカー
レトロなオートバイの船と呼ばれているサイドカーに乗せられた善嗣は、退職祝いに社長からもらった花束が爆発しては消えかかっていた自分の命の灯火を見事復活させてくれた胡散臭い男、日埜恵を見上げた。
「あの~」
助けられた時も助けられてからもずっとヘルメットを被っている上に、いつもの冴えない話し方ではなく、胡散臭い話し方だったので確実ではないかもしれないがと思いながら、善嗣は尋ねた。
「おまえの社長を探す旅に同行してくれないかと言われましたが、あなた、社長ですよね?」
「え?どうして若返らせたのかって疑問じゃなくてそっち?」
「いえ。まあ、確かに若返らせられた理由も気になりますけど、まずは、あなたが社長かどうかが気になりまして」
「あ~っそ」
ふむふむ。
グローブとプロテクターを装着し直した日埜恵は、バイクのシートに跨ると、ハンドルに両手をかけて、右手でブレーキをかけ、右足でブレーキペダルを踏むと共にミラーの調整をし、クラッチ・前輪ブレーキを握り、ニュートラルを確認、メインキーを回して電源を入れ、エンジンスタートボタンを押してエンジンをかけては、激しく吹かせると、バイクを走らせた。
答えてくれないんですね。
善嗣は日埜恵に向けていた顔を前へと向けた。
どこどこまでも、真っ黒い舗装道路が続いていた。
(本当なら今頃、ペガサスと一緒に旅をしていたはずだったのに)
(2024.4.23)