不安
『花音』店の地下一階、宿泊施設となっている一室。
「よっぽど疲れたんだろうねえ」
謎のゴーレム襲来を受けた日埜恵は就寝を促す奏の言葉通りに、善嗣が眠る寝台に入ってのち、数秒を経たずして眠りに就いて数時間後。
空腹音と共に目が覚めた日埜恵は眠気眼のまま寝台から降りると、シャワーを浴びて、善嗣を起こそうとするも反応もまったくないので、一人で一階に上がり、開店準備をしていた奏に食事を頼んで、サボテンサンドイッチとコーンスープを食べ終えて、食後の珈琲ももらいゆったりと過ごしたのち、もう起きているだろうと思いながら地下の宿泊部屋へと戻ったところ、なんと、善嗣はまだ眠っていたのである。
まさか、との思いが過った日埜恵は善嗣の口元に耳を近づけて、布団の外に出ていた手首に触れて、呼吸と脈が正常に動いている事を確認。
ただ眠っているだけ、よっぽど疲れているのだろうと思いつつも、もしかしたら病にかかっているのかもとの考えが浮かんでは駆け走り、一階にいる奏にここまで来てもらったわけである。
「本当に疲れているだけか?病気じゃないか?医者を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「子どもってのはすんごく眠る生物なんだよ。熱もないし呼吸音も脈も正常だし。うん。医者は必要ないね」
てきぱきと善嗣の額に、手首に触れてはそう言い切った奏に、けれど日埜恵は本当かと疑いの言葉をかけた。
「心配性だねえ。まさか、ヘルメットの中で泣いてないだろうね?」
「泣いてねえし。子どもってすぐに病気になるって印象だったからよ。はああ。病気じゃないなら、いいんだよ」
「やっぱり泣いてんじゃないかい?涙声だよ」
「泣いてねえし」
「そのヘルメット、本当にどうにかできないのかい?」
「できねえ」
日埜恵は頭から外そうとヘルメットに触れようとしたが、できなかった。
ヘルメットを通り過ぎて、触れられないのだ。
どうやらこのヘルメットは立体映像らしい。
「記憶も失くして、ヘルメットも外せない。まさか、この子は幼くさせられたあんたの恋人かい?」
「いや。恋人じゃねえけど。どんな関係かと言われると。社長と部下?」
「記憶を失くしてるからわからないのか」
「そうそう」
「けど、顔が見えないってのは厄介だねえ。私はどうでもいいけど。この子は不安なんじゃないかい?あんたも。自分の顔が見えなくて不安じゃないかい?」
「えー」
奏に指摘された日埜恵は言われてみると、と言葉に出したのであった。
「不安かも」
(2024.6.11)




