決意したから
ゴールデンウィーク最終日
桃音は翠から教えてもらった日からギターを弾き続けていた。
「なんか段々弾けるようになってきた感じがする…!」
教えてもらったマーガレットの曲。少しずつほんの少しずつだが弾けるようになってきているのを実感していた。
「部活するの楽しみ!本当は翠ちゃんと一緒に入りたかっだけど…」
桃音は自室のテーブルに置いた部活の申請用紙を手に取り見つめる。希望と残念な気持ちが混ざり合っていたが。
こんな気持ちでは折角ギターを教えてもらった翠にも色々申し訳無いと思い。気持ちを切り替える。
「私…頑張るね翠ちゃん」
ーそしてゴールデンウィーク明け
桃音は登校して直ぐに翠がいる別室へと向かった。
出来るようになった事をはやく伝えたい気持ちでいっぱいだった。
暗闇の通路を歩き別室の扉をノックする。ゆっくりと開かれた扉から翠が挨拶を交わす。
「桃音ちゃん…おはよう」
「おはよう、翠ちゃん!私あれから練習して少しずつ弾けるようになったよ」
伝える速度がはやい。
「良かった…」
翠は席に座ってから桃音を見つめ改めて切り出した。
「…桃音ちゃんなら出来ると思ってた」
「翠ちゃん…!翠ちゃんがいてくれたからだよ〜色々ありがとう。私、部活の申請先生に出してくるね」
「うん、頑張って」
別室を出てから少し時間があったのでそのまま職員室へと
桃音は向かった。
「おはようございます」
「久野さんどうしたの?もしかして宿題終わらなかった?」
担任はゴールデンウィーク明け朝一番で現れた桃音をお茶を飲みながら不思議そうに見やる。
「宿題は大丈夫です、なんとか…終わらせましたから。部活の申請書を出しに来たんです。どうでしょう」
言いつつ申請書を提出する。受け取った担任の反応は思わしく無い。
「へーあっ音楽部?」
「ダメでしょうか…」
「あそこだいぶ前に廃部したのよねー」
「えぇぇっっ、でも音楽室に音楽部って」
「剥がし忘れてたのね、ごめんなさいね」
ー
「部活は別の部を探せばいいよね、うん!音楽は別の形でやるとして」
職員室を出て気持ちを切り替える。しかし、やはり諦め切れない気持ちがあった。元々部に入るために音楽を始めたので無理も無い。
「うーんなんか初めての感覚…」
不確かな気持ちを抱えたまま友達と会話し授業を受ける。
別の形…翠のように動画投稿する手もある。
あとは…などなど他の手段も考えつつ半日を過ごした。
そして昼休みー
「という事で音楽部には入れなかったの」
桃音は別室に行きややがっかりした様子で出来事を翠に打ち明けた。
「え…そうなんだ。……音楽辞めちゃうの?」
「ううん、辞めないよ。別の形考えてみる。翠ちゃんみたいに動画投稿してみたり…まだあんまりしっくり来ないけど。私もちょっとだけどギター出来るようになったから続けてみたい!あと、ボーカルも諦め切れない」
桃音が笑って見せると翠も少し笑う。それから深く頷いた。何かを決意したように。
「…わかった」
変異が起こったのは放課後の事だった。
ホームルームが終わり帰宅しようというところで担任に名前を呼ばれ手招きされた。
「…どうかしたんですか?」
「音楽部の事何とか掛け合ってみるわ」
「えっ…?」
「一ノ瀬さんから聞いてない?昼休み終わってからプリント届けに行った時、一ノ瀬さんに音楽部どうにか復活させて欲しいってお願いされてね。久野さんはすごいからどうしても音楽さて上げてほしいって」
「そんな事が」
「でも部員1人しかいないんじゃ可哀想でしょうって言ったら一ノ瀬さんも入るって」
「そうなんですか…!嬉しい!翠ちゃんありがとう。あ、お礼しないと」
「でもクラスにも来れないのに…ってもういない!まぁ、いっか。その点もいずれ何とかなりそうだしね」
担任はいつの間にか仲を深めている桃音と翠に任せる事にした。
それから桃音は別室に向かおうとしたのだが…なかなか辿り着けない。
担任から話を聞いてから荷物を取りに机へ戻るとまゆがやって来た。
「一ノ瀬さんとこ行くの?ごめんね、話し聞いちゃった」
「うん、これからお礼しに行ってくる。大丈夫だよ〜」
「音楽部入るんだ…すごいね」
音楽部を良く思っていないのだろうか、まゆは何処か浮かない顔だった。
「まゆちゃん、どうかした?」
「なんでも無い。じゃあ私部活行くね。また明日ね!」
「うん、部活頑張ってね」
結局、理由はわからないまま。まゆは手を振り教室を出て行った。
桃音もカバンを背負い教室を出る。
別室へと向かう途中…
「あ、桃音ちゃん見てこの雑誌に付いてるネイルさー」
「◯◯先生の授業すごく面白くてー」
複数の友達に声をかけられて話し込んでしまう。
内心早く行かないとと思っても止められず
結局別室に行けたのは30分後程だった…。
「遅くなっちゃった〜翠ちゃんもういないよね」
諦めつつ別室の扉をノックしたがやはり開けられる気配が無い。
「あとでライ◯しようかな」
桃音は玄関へと向かった。歩いている途中通りすがりの上級生らしき人物の会話を耳にしてしはっとする。
「あの子…玄関先の椅子にずっと座ってるけど大丈夫かな」
「先生に言う?」
何処か既出感のある言葉を聞き桃音は玄関先の椅子へと急いだ。入学式の時の記憶が蘇る。
「翠ちゃん…!?どうしたの?」
やはり椅子に座っていたのは翠であって。深く俯いてベン座っていた。上級生が心配した通り側から見たら具合が悪くて座ってるようにも見える。
「あ…桃音ちゃん」
「大丈夫?どうしたの?」
「大丈夫…。…私いつも他の人よりはやく帰るのだけど
今日は先生と話したら疲れちゃって…。ベンチで休んでたらどんどん人増えて…。どうしたら良いかわからなくなって…」
先生と話したというのはおそらく部活のことだろう。
そこまで自分の為に頑張ってくれたのかと桃音は感動を覚える。
「そうだったんだね、一緒に帰ろうか」
「…いいの?」
「もちろんいいよ。翠ちゃんと一緒に帰って見たかったから」
「…ありがとう」
桃音はゆっくりと立ち上がった翠の手を繋ぎ歩を進めた。
玄関を出て校門を抜けた辺りで桃音はお礼の気持ちを伝える。
「部活の事ありがとう。翠ちゃんと一緒に出来るのもすごく嬉しい!」
「うん…。桃音ちゃんあとでお話ししたい事があるの、大丈夫?」
「大丈夫だよ〜!何かな?後でライ◯する?」
「ごめんね…あれまだ上手く出来ない。どうしよう」
「う〜ん、そうだ、じゃあ翠ちゃんのお家でお話しする?私は時間あるからこのまま行っても大丈夫だよ!翠ちゃんが良ければだけど」
翠は深く頷く。
「うん。大丈夫」