まわりみち
「翠ちゃん今日は来てるかな?」
翠の家へ訪問した翌日。桃音は別室へと向かった。学校に来るか否かは聞いていなかったので期待と不安が入り混じるような気持ちで扉をノックする。
「…桃音ちゃんおはよう」
少しして扉は開かれた。翠の姿を見て桃音は安堵と嬉しさで思わず両手を握りしめてしまった。
「翠ちゃんおはよう!学校に来てくれて良かった…!あ、ごめんね私また急に」
ぐいぐいな行ないに気付き手を放そうとしたが、翠は手をぎゅっと握り返してくる。
「…大丈夫」
「良かった!(…なんか嬉しい〜ちょっと照れるけど)
それから何処か幸せな気持ちで桃音は翠の後を着いて中へと入り向かい合う形でイスへと座り込んだ。
翠は桃音を少し見つめたあと俯き加減で切り出す。
「…ギターの事だけど…次のお休みの時でも良い?」
「大丈夫だよ〜。次のお休みゴールデンウィークだよね?」
「うん…空いてる時…ある?」
「実は私ゴールデンウィーク予定無いんだ、だからいつでも大丈夫だよ〜」
「そうなの…?いつにしたら良い?」
「うーんとね、じゃあ初日にしようか?」
「そうする…」
こうして桃音は翠にギターを教えてもらう予定が出来た。
ゴールデンウィークの日程が1日でも埋まったのもまた嬉しい。その後就業数分まで雑談をして別室を出る。
「じゃあまた来るね」
「うん」
桃音が手を振ると翠は手を振りかえした。
扉が閉まり桃音は教室へと向かおうとしたのだが、別室からの暗い一本道を抜け角に曲がろうとした所で誰かが立っていた。
「わっ、びっくりした」
「あっ、やべー見つかった…!」
人物は慌てた様子で走り去っていった。見つかった事がどうやらまずかったらしい様子だ。
「あの子…誰だったんだろ?」
ー
桃音はクラスに行き席へと着く。と同時にまゆが慌てながら問い詰めてきた。
「るなちゃんと廊下で話してたら別のクラスの子がいきなり話しかけてきて、桃音ちゃんが別室に行ってるって聞いたんだけど本当!?」
いつの間にか誰かに目撃されていたらしい。
桃音はこれ以上隠しているのは無理だと思い全てを打ち明けた。
「……実はそうなの。黙っててごめんね。翠ちゃんに会いに行ってたの。先生に誰か会いに行っちゃうと怖がるから他の子に言わないようにって言われたんだ」
「ううん、大丈夫。そうだったんだ、桃音ちゃんに何も無くて良かったよ。え〜と翠ちゃんって隣の席の一ノ瀬さんの事だよね。別室登校してたんだね」
「うん。色々あってクラスに来れなくて別室にいるから会いに行ってたんだ」
「そうなんだ…」
まゆはクラスに来れない翠の事に対しどう話題をふれば良いのか迷った。クラスに来れない理由も分からなく、そして桃音が頻繁に別室に行ってるのはそれ程大事な存在だとも感じてたからだ。結局それ以上追求はせずに話題を変えた。
「そういえばその打ち明けてきた子も桃音ちゃんの友達?金髪の長い髪の女の子だったけど?ちょっと乱暴な感じで」
言われて桃音ははっとする。思い返す。さっき走り去っていた人物は確か金髪だったと。
「あっ、さっき私も会ったかも!別室出た時に立ってた子がそんな感じだった」
「えっ、そうなんだ」
「初めて見た子だと思う」
この時、桃音もまゆもどうして会った事ない桃音の事を金髪少女が把握しているのか疑問だった。しかしその疑問はチャイムが鳴り授業が開始された為お互い口にする事は無く一旦終了した。
そして次の休み時間にまゆが桃音の席へと来て疑問…と応えを口にした。慌てていたが先程よりはほんの少しだけ落ち着いてた。
「ねぇ、もしかしてその子桃音ちゃんと一ノ瀬さんとの会話聞いてたんじゃないかな?会話聞いてたら名前知っててもおかしく無いよね…」
「うん、私もそう思った!でもだとしたらどうしてだろう。なんで会話聞いてたのかな?」
金髪少女の目的はわからない、だからこそ色々な憶測が広がり不安だけが過った。
「ね、その子って何組かわかる?その子と直接話してみたい」
「ごめんね。私も分からないんだけど。…あっ!でもるなちゃんが保健室でたまに見るって言ってた」
「保健室か、ありがとう。行ってみるね!」
比較的時間の長い昼休みに桃音は保健室へと向かった。
向かいながら人物の事を考えた。先程とは違い目的の事では無く本人自身の事だ。
(保健室で良く見るって事は、体調悪い子とかなのかな〜…。それとももしかして)
浮かんだのは翠の事だ。もしかしたらその人物、彼女も
翠と同じ境遇の可能性もある。
保健室に着いて扉をノックすると
少し緩い感じの保健室の女の先生が扉を開けてくれた。
「…はぁい、どうしたの?具合悪い?」
心配する声も何処か緩い。
「あ、いえ。あの金髪の女の子に会いに来たんですが、いますか?」
「あーえーっー!珍しいあの子に会いに来る子がいるなんて。いるよー。紗南ちゃんお友達きたよー」
やや失礼な事を言いながら保健室で座って漫画を読んでいた金髪少女へと呼びかける。
「誰だよ…!?って桃音か…」
肩までの少しパサつきのあるショートヘアーにいわゆるつり目のような鋭い目つきが印象的で第一印象はやんちゃという感じだ。
金髪少女こと紗南はだいぶ不機嫌そうにため息混じりで桃音を見る。
「こんばんはー。初めまして…でもないかな、さっき会ったもんね」
保健室の椅子へと彼女に向かい合う形で座り桃音は笑顔でそう言うが紗南の方はなおも不機嫌そうである。
「なんでここにいるのがわかったんだ?」
「友達に聞いてわかったんだ〜」
「友達…?って翠の事か!?」
「翠ちゃんじゃないよ、クラスの友達だよ〜。…翠ちゃんの事知ってるんだね」
紗南は驚いたように聞いてきたが、翠の事じゃないと
わかった途端また不機嫌な表情に戻る。
「なーんだ…翠じゃないのか。知ってるよ、翠の事は。別室に行く前はここに居たからな」
「そうだったの…!?」
「あぁ。私が余計な事行ったから…多分別室に行っちまったんだよ。まぁ別室に行った事私は知らなくて色々な所探して諦めかけてた時、あの変な部屋に行くお前を面白半分で追ってみたら、その部屋に翠がいる事を知って。それからは何回か会話盗み聞きしたよな」
紗南は悪気無さそうにそして聞いたのは部屋に入る直前までだよと付け足す。あながち本当に悪気は無いのかもしれないと桃音は感じた。
「余計な事…?について聞いても大丈夫かな?」
「うーん…まっ、良いか。あいつ、いつも真面目だし頑張りすぎるし、何となく見てられ無くてな。そんな頑張っても意味ないから頑張るなって言ったんだ。それを言った翌日からここには来なくなった」
「そうだったんだ」
(紗南ちゃん、やっぱり翠ちゃんへの優しさを感じる。紗南ちゃんは…もしかして)
「会話聞いたのは悪かったな…でもわかって欲しい。私も…本当は」
紗南はその先の言葉を頭を抱え躊躇うそして突然立ち上がった。
「…あーやっぱり何でもねぇ。…良いんだ。私はもう」
「紗南ちゃん!?」
そして紗南はそのまま保健室を出て行った。
保健室の先生は相変わらずのんびり構えていて紗南を追う様子も無い。桃音は追うべきか迷いながら席を立つ。
「行っちゃったわねぇ。あの子の気持ちわかった?無理かなー」
「…紗南ちゃん翠ちゃんと友達になりたいんだと…私は感じました」
「そうそう。素直じゃないからね〜。口も悪いし、難しい子よねぇ〜」
桃音はもっと紗南と話したいと思いつつ、少し急いで保健室を出て。辺りを見渡すがもう既に姿はなかった。
それから紗南と会うことはしばらく無かった。