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お出かけ

ー土曜日


待ち合わせ場所のデパートへと着いた桃音。しかしそこにまだ翠の姿は無かった。近くのベンチに座ってからスマホで時刻を確認する。


(待ち合わせ時間までまだ10分あるんだ。予定よりはやく着いちゃったみたい…)


どうしようか悩んだが何処か見て戻ってくるのも微妙な時間なのでそのまま待つ事にした。


(何処か行って、その時翠ちゃんが来て、私がいなかったら困らせるもんね。スマホでオブシディアンの情報とか見てみようかな)



ファンが纏めているらしいサイトへとアクセス。

4人組で活躍している事、楽曲の紹介、イベントなど基本情報から好きなメンバーや感想など個人的な気持ちも書かれていたサイトだった。



(やっぱり翠ちゃんの推しのユナちゃんはかっこいいな〜。でもアルマさんも良いな、神秘的で…うん?…そうなんだ、良い事知ったかも。後で翠ちゃんにも教えて…あ)


ふとスマホから顔を上げると翠と叔母の姿が目に入った。2人は桃音の居る場所に気づいて向かって来ていたが、こっちと言わんばかりに立ち上がり手を振る桃音。


「翠ちゃんおはよ〜来てくれてありがとう!翠ちゃんギター似合うね。お洋服も可愛い」


何処となくお姫様みたいなフリルのワンピースにギターを背負った翠。


「おはよう。そう…かな。ありがと…」


「やっぱり私が選んだ服に間違いなかったわね」


叔母さんが得意気に翠の肩を叩く。


「叔母さんもおはようございます〜!叔母さんが選んだんですね、すごく似合います!」


翠は恥ずかしくなり2人の会話を流すように早々と背中に背負っていたギターを下ろし桃音に渡した。軽い気持ちで受け取ったが…


「え〜思ったより重い〜!」


「背負ったら少し楽かも」


「そっか!あ、本当だ、なんか良いね〜バンドしてる

感じする〜」


ギターを背負い嬉しい気持ちが湧き上がる。

1ミリも出来ないのに気分だけが出来上がってしまった

桃音だった。


「練習大丈夫…?」


「うん、色々調べて頑張ってみるよ〜。ありがとう。じゃあ翠ちゃんまたね」


「うん…」


ここで解散かと思われたが…。桃音が少し歩き始めたところで叔母に引き止められる。


「桃音ちゃんこれから予定あるの?」


「折角だからお店見て行こうかなって考えてます」


「翠も一緒に行って来たら?」


「え…でも…私…」


叔母からの提案に戸惑い俯いてしまう翠の背中を勇気づけるように軽く叩く。


「大丈夫だから、行っておいで!」



翠は叔母から視線を逸らし今度は桃音の方を

ただじっと見つめる、俯いてもいない。まるでどうしたら

良いか問いかけてくるようだった。

叔母さんとのやりとりで怖がってる様子が伝わってので桃音は本当の気持ちを言うのを躊躇っていたが

視線の問いに応えるよう桃音は優しい笑顔で思い切って気持ちを打ち明けた。


「私本当は翠ちゃんとお出かけしたい。でももちろん無理はしなくて良いよ」


「…わかった。一緒に行く」


「やった〜!」


思わず桃音は翠の手をぎゅっと握る。


「良かった。桃音ちゃんお出かけ終わるまでギター預かっておこうか?」


「お願いします!」


ギターを預けてから深々とお辞儀をする桃音。

受け取った叔母はじゃあまたと言い去る。思ったよりあっさりだ。



「何処行こっか?翠ちゃん行きたいところある?」


「…前にネットで見た…オブシディアンのグッズが売ってるとこ。この近くだった」


「あっ、それ私もさっき見たよ〜!◯◯って言うお店だよね。行ってみる?」


「うん…」


2人はデパート付近から離れて店がある場所まで向かう。

店までは徒歩で10分程だったが。問題は…。


「やっぱりこっちの方すごい人だね」


大通りへと出ると沢山の人が行き交っていた。

休日なので無理もないが。この状況はやはり翠にとっては得意なものでは無かった。俯き震えてしまう。


「ね、翠ちゃんと手繋ぎたい、良いかな?」


「うん…いいよ」


桃音は小さく頷いた翠の手を取り歩みを進める。

少し歩いたところで


「…あの人達が居るわけじゃないのに」


翠は弱々しく殆ど聞き取れない程の声で言った。

ここが騒がしくない場所でも聞き取るのは難解かもしれない。だが桃音には聞こえていた。哀しげな声だった。


「翠ちゃん…何かあったら頼ってね。私はあんまり頼りになる方じゃないけど、出来る限りで力になるから」


あの人達が誰の事なのか、何があったのか気になったが

触れる事はしなかった。


「……うん」


少ししてグッズが売ってあるビルへと辿り着く。

7階まである白と黒で着色されたビル。


「着いた〜!さっそく入ろうか?」


「うん…」


建物の中に入り1階の本売り場を進んだところにあるエレベーターへと乗り込み桃音は3階のボタンを押した。


「そういえば翠ちゃん本とかは好き?」


「…今はあんまり読まない」


「そっか。私も。私ね本読むとすぐ眠くなっちゃうの。

集中力ないのかな〜?それでね前にカフェしながら本読むのに憧れて…やってみたらやっぱり寝てた…」


桃音が話している途中でチンというベル音のような軽い音と共に3階でエレベーターが止まる。扉が開かれると乗り込む人が待っていたので素早く降りる。



「…ごめんね、私また長々と」


「大丈夫。すごく面白かった…」


翠を見ると確かに少し笑っていた。貴重な笑顔が見れた事に心底嬉しくなる。


「また面白い話しあったら話すね〜」


「…うん」 


それからすぐ正面にある売り場へと向かった。

3階は芸能人関連専用のグッズ売り場となっておりかなり広い空間だった。


「この売り場からオブシディアンのグッズがある場所探すのは大変そうだね。私ちょっと店員さんに聞いてみるね」


「うん…」


桃音は近くにいた店員へと売り場を尋ねる。するとすぐに

売り場まで案内してくれた。



「ここか〜」


片隅という感じの場所にグッズが少しだけ売られていた。しかもそこそこ枯らされている。


「すごい…!これ欲しかったのだ…」


翠はそれでも瞳を輝かせグッズ売り場からユナのアクリルスタンドを取り歓喜する。


「翠ちゃん嬉しそうで良かった。この傘も可愛い!鳥柄おしゃれ。うーん、でも6千円か〜」


桃音は手にとった折りたたみ傘を金額を見てそっと売り場に戻す。中学生にはやや厳しいお値段。


(スイーツ我慢してお金貯めたらいけるかも、うーんだめ我慢出来ない)


ひとり自問自答する桃音であった。 



「翠ちゃんは決まった?」


「これにする…」


翠はアクリルスタンドの他にユナのぬいぐるみとペンライトを持っていた。


「ユナちゃんのぬいぐるみ⁉︎えっすごい可愛い〜!星型のペンライトも可愛いね」


翠は嬉しそうに頷く。それからレジへ向かい会計を済ませて外へ出てた。


「今日はありがとう」


「…私も…怖かったけど、楽しかった」


「良かった!また来ようね」


「うん。ありがとう…」


繋いだ手をぎゅっと握った。




ーデパート前


「じゃあまたね。今日はありがとう」


叔母から受け取った、ギターケースを背中に背負い桃音は手を振り去る。


「なんか桃音ちゃんギター似合うよね〜。形だけでもバンド女子って感じ」 


叔母はちょっとした気持ちで言う。この言葉には翠の気持ちを動かそうという思惑があった。


「桃音ちゃんなら本当にそうなりそう…」


「翠は?そういう気持ち無いの?バンドやりたいとか?」


「…私は無理かも。人も怖いし」


(否定しないって事は気持ちはやっぱりあるのか。あの子に期待するしかないか)




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