表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

わからない気持ち

入学式当日ー


「うん、制服いい感じ!髪型は…う〜んどうかなぁ」


制服を着て髪型を二つ結び。リビングの鏡で身なりをチェックする桃音。

最初は良いと思ったものの鏡を見つめるうちに段々と

些細な点が気になっていく。


「桃音何やってんの?早く行かないと遅れるよ?髪なんてどうでもいいから!」


のんびりしている桃音を見て母が忠告した。

母の方を振り向くと手にはハサミが握らていた。


「お母さん、美容師なのにそんなこと言っていいの!?」


「今はプライベートだから良いのよ。…それより急なお客さん入って入学式いけなくてごめんね」


「大丈夫だよ〜」


母は二階建ての自宅の1階で美容室を経営している。

数日前までは入学式に行くつもりだったが

急な予約が入った。それが気難しい(入学式など関係ないというような)お得意様なので断れなかったらしい。


「じゃ行ってくるね」


桃音は真新しい学校指定のカバンを背負い

いよいよ学校へと向かう。…ゆっくりだったが。  



外へと出ると学校へ向かう途中にも桜が綺麗に咲き誇っていた。


(今日も桜綺麗〜。散らないうちにお花見したいな。桜の下でお弁当も良いな)


頭の中がおにぎりや唐揚げなどお花見のお弁当で

埋まりそうだった。

そんな風に気を張ることも無くマイペースに歩き進めていたが


(あ…あれっ…)


少し先に見覚えのある姿が目に映った。

カールがかかった銀の髪が綺麗な後ろ姿。

それだけで直ぐに確信した。桃音は思わず駆け寄る。

その人物は立ち止まっていたので直ぐに辿り着いた。


「あ、やっぱり〜!昨日デパートであった子だよね?

同じ学校だったんだ〜!」


「…うん」


怯えは無かったがまるっきり感情が無さそうに女の子は

応えた。


「ごめんね、私またグイグイいきすぎたよね?」


「…ううん。大丈夫…学校…緊張してて」


「そうだったんだ。良かったら一緒に行く?」


女の子は頷いてから桃音と一緒に歩みを進めた。

亀より少し早いくらいのゆっくりしたスピードだったが桃音もそれに合わせた。


「そういえば名前聞いてなかったね。私久野桃音だよ」


「…一ノ瀬翠」


「翠ちゃんか〜!よろしくね。そういえば昨日動画見たよ。

すごく良かった!なんか私の知らない世界って感じでそれが新鮮で〜」


と話し終えた所で姉のお叱りの言葉が頭をよぎる。


あんたは一人でベラベラと話しすぎ!!


怒った姉の姿も浮かんできて、反省の波に入りそうになったが大丈夫だったようだ。


「ありがとう…。コメントくれたの?」


「うん、私だよ〜。翠ちゃんの曲素敵だなと思ったから。

だから批判に負けないでね。あ、そういえば気になったんだけどオブシディアンって…?」


「好きな歌手…!4人組みで、曲はどれも良くて。好きなメンバーはユナちゃん」


翠はオブシディアンの話題になった途端に生き生きと話し始めた。地上に上げられた魚が海に戻ったよう。


「教えてくれてありがとう。帰ったら絶対聴くね!」


「うん……!」


「…ねぇ、翠ちゃんって呼んで良い?私も桃音で良いよ」


「いいよ…」



そうしているうちに漸く学校へとたどり着いた。

校舎の玄関前には人だかりが出来ており賑やかであった。


「もしかして、クラスの振り分け貼ってあるのかな」


桃音は見に行こうとしたが翠がついて来ない事に気づく。

振り向くと少し後ろで俯き立ち止まっていた。


「翠ちゃん?どうかした?」


「ごめんね…。やっぱり怖い」


「そっか。やっぱり緊張しちゃう?そうだ…

一緒なら大丈夫だよ。私はあんまり緊張しなくて

そんな私といたら大丈夫だと思う」


桃音は翠の手を優しく繋ぐ。桃音の理論はだいぶツッコミ所が多そうだったが翠には通じたようだ。

むしろ翠が抱えていた気持ちが揺らぐ程響いていた。


「……うん」


手を繋いだ翠はまたゆっくりと歩き出す。

そうして張り紙前へと辿り着いた。


「やっぱりクラス表だ。え〜と…何組かな?」


「桃音ちゃん〜」


確認の最中背後から元気に呼ぶ声がして振り向く。

そこには桃音の友達の姿があった。小学5年生からの友達だ。


「まゆちゃん、久しぶり!!卒業式以来だね〜」


まゆこと相川まゆは桃音を見つけて嬉しそうに

手を振りながら駆け寄ってきた。まゆはショートヘアの穏やかな性格の女の子だ。


「うん!桃音ちゃん何組だった?」


「まだ確認してなくて」



その時手から離れるのを感じたが話をしていたので

確認出来ず、話し終えようやく隣を確認した時には無数の人だかりしか無かった。


「翠ちゃん…?何処行ったんだろ?」


「翠ちゃんって?」


「さっき、来る途中に会って。…う〜んどうしよう。すごく緊張してたから。大丈夫かな?」


「学校の中に行ったんじゃないかな?多分大丈夫だよ」


まゆは特に心配の様子は無くそう言い放った。細かい経緯を知らないので無理も無い。

クラスを確認してから桃音とまゆは学校の中へと入る。

桃音は内心居なくなってしまったことをまだ心配していた。


「ね、あそこの椅子に座ってる子どうしたんだろ?」


「…一年生じゃない?小さいよね〜」


靴を履き替えているとそんな話し声が聞こえてきた。


「もしかして翠ちゃんかも!?」


「本当?行ってみる?」


「うん」


椅子が何処にあるかは不確かだったが、靴棚を超えた直ぐ先にあったので直ぐに見つかり

そして予想通り翠が座っていたので桃音は安堵する。

小さくて更に俯き加減だったのに、美しさからか存在感は大きかった

(桃音個人的意見)


「翠ちゃん、翠ちゃんやっぱり絵になるね〜可愛い。あ…違う違う!翠ちゃん大丈夫だった?急にいなくなったから心配したよ〜」


「…ごめんね」


「私の方こそ。またクラスまで一緒に行こう?そうそう、私と翠ちゃん同じクラスだったよ。まゆちゃんも。あ、私の小学生の時の友達ね」


「え〜と一ノ瀬翠さん…?よろしくね!」


「うん…」


翠は少し顔を上げまゆを確認してからまた俯く。

そしてゆっくりと立ち上がった。



ークラス到着


玄関前と同様クラスも一際賑わっていた。


「席自由って書いてる。私るなちゃんの隣に座るね!桃音ちゃんまたね」


黒板を確認し、友達の姿を確認したまゆは手をあげ一時の別れを告げてからそちらへと向かった。


「うん、またね〜。私、翠ちゃんの隣に座りたい!良いかな…」


「…いいよ。でも…」


何故か去っていたまゆの方をじっと見つめていた翠。


「どうかした?もしかしてまゆちゃんの隣がよかった?

まゆちゃん良い子だからね〜」


「…違うの。私も桃音ちゃんの隣が良い」


首を横に振り否定してから必死にそう告げた。

何故だか桃音は少しドキドキしてしまう。


席へと着なり桃音は漸くある事に気づく

筆箱を確認すると無い。


「あ〜そうだ、昨日消しゴム買いに行ったんだ!スイーツ食べるのが目的じゃなかったんだ〜!」


どうしようか悩んだが考える暇も無く桃音の元へと

まゆは先程言っていた友達のるなを連れてやってきた。


「桃音ちゃん同じクラスで嬉しい〜!」


「るなちゃん…!ね、嬉しい〜」


「真木ちゃん隣のクラスになっちゃったけど会いたがってたよ、行ってみる?」


「うん!あ、そうだ翠ちゃんも一緒に行く…?」


「…私はいい」



ー数分後


友達に会い自分のクラスの席へと戻るとそこに翠の姿は無かった。

代わりと言っては何だが桃音の机に消しゴムが置かれていた。


「翠ちゃんかな?お礼言わなきゃ」


手に取り感謝の気持ちが溢れていく。しかしお礼の機会は遠のく。


翠はその後の入学式にもホームルームにも姿を現す事は無かった。


(どうしたんだろ…。何処に行ったんだろ)


空席の隣を見て心配の気持ちが募る。担任教師も特に何も

説明は無くホームルームは終え放課後になった。


クラスの友達と帰ろうとしたが家族(入学式を見に来た)と一緒に帰ると言われ友達とは玄関付近で別れた。


「桃音ちゃんまたね!連絡するね」


「うん、またね〜!」


桃音は友達に手を振り靴を履き替えて学校を出る。

すると…


「あっ、翠ちゃん…!?」


玄関の隅の方に翠の姿を見てけて思わず歓喜の声を上げる。母親だろうか大人な女性と一緒だった。



「あ、桃音ちゃんのお母さんですか?綺麗ですね…!私翠ちゃんのクラスメイトです」


大人の女性に一例する。翠にはあまり似ていなかったが

スラリとした綺麗な人であった。


「あら、綺麗だなんて…もう!良い子ね。あ、でも私は母親じゃないの翠の叔母ね」


叔母さんは褒められたからか心の底から嬉しそうに対応した。


「そうだったんですね!(翠ちゃんのお母さんとお父さんも忙しくて来れなかったのかな)

翠ちゃん急にいなくなったから心配してたよ〜」


「…具合悪くて保健室にいたから」


「えっ!?大丈夫?」


「…もう大丈夫」


「そっか、良かった!。翠ちゃんまた明日ね。

今日はゆっくり休んでね」


桃音は手を振るが翠は振りかえせずにいた。

またがあるかわからなかったからだ。

 



叔母と翠は家へと帰宅する為車へと乗り込み

叔母の運転で車は発車する。

少し走った先には海が見えた。翠は助手席でぼんやり見つめていると。


「あの子訳ありって知ってるの?」


翠にとって意味の深い質問だったが叔母は軽い口調で問う。


「…言ってないから知らないよ」


「言いたく無いなら言わない方良いか。友達にはなれそう?」


「わからない…でも」


きっと簡単にはそういう関係になれないと感じていた。

背負っている過去に支配されていたから。

ただ、気にかけてくれていたのが嬉しかったのは事実だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ