決意したから2
2人は帰りながら、会話を交わす。話題を振るのはほぼ桃音だったが。
「翠ちゃんって誕生日いつ?」
「6月25日…。桃音ちゃんは…?」
「もうすぐだね!私は11月10日だよ〜」
「…そうなんだ。…覚えておくね」
「ありがとう〜!」
何気ない会話。何でもない会話だったが桃音にとっては充分な価値があった。
海が見える橋を渡ろうとしたところで翠は桃音の手を強く握る。というよりもぎゅっと掴むような感じだ。
「翠ちゃん大丈夫?どうかした?」
「…橋の所にいる人…」
桃音は橋の方に目をやる。すると少し背の高い女子生徒の集団がいた。大きな声で話し時折笑ったりしている。
桃音達の学校の制服では無かったので他校生かもしくは高校生と思われる。
「怖い?」
「怖い…」
桃音はどうするべきか少しばかり考える。かなり遠回りだが帰る道は他にもある。…
(…あっちの方が人通り少ないからもしかしたらその方が良いかも…)
「翠ちゃん、別の道行く?ちょっと遠回りになっちゃうけど」
「…あるの?…うん。いいよ」
反対側を向き新たなルートを2人は進み始めた。
少し歩いてやがて住宅街へと入る。別世界のように静まっていて人も殆ど歩いていない。
「こっちやっぱり人あんまりいないね。良かった!」
「うん…。ありがとう」
「翠ちゃんの方こそありがとう。部活の事、本当に才能見つけてくれて嬉しいんよ」
「うん。桃音ちゃんの歌素敵だから、ギターもきっとよくなる。…桃音ちゃんは絶対すごい人になる」
「そこまで…⁉︎」
認めてくれていたのは分かっていたが深く話を聞くと桃音が思っている以上の評価を持っていた。
驚きと共に頑張ろうと言う気持ちにも湧き上がる。
(すごく嬉しくて…これからももっと頑張りたいと思える…。なんか不思議な気持ち)
家へと到着するなり翠はインターフォンを押し通話口に話しかける。
「…帰ったよ」
「あー今開けるね。桃音ちゃんも一緒か」
インターフォン越しに応えた叔母は桃音がいる事に特に驚く様子も無くあっさりとしていた。
それから直ぐに門が開けられ、2人は手入れさてない雑草だらけの庭がある通路を通り家の方へと向かうと
家の扉が開けられた。そこには叔母の姿があった。てっきり桃音は出迎えてくれたのだと思っていたが。
「翠、今日迎えに行けなくてごめんね。でも桃音ちゃんがいてくれて助かったわ。…私これから仕事だけどゆっくりしてね」
「うん…大丈夫」
「お仕事なんですね。ありがとうございます〜」
言い残し早々と叔母は庭にある車庫に向かう。
よほど急ぎらしい。
「叔母さん、忙しいんだね」
「…急にお仕事入っちゃったから」
「大変なんだね。でも家のお母さんもそういう時あるなぁ。あ、中に入って良い?」
「うん…」
2人は玄関口で靴を脱ぎ家の中へと入る。長い廊下を抜け向かった先はお馴染みのリビングだ。
「座っていいよ…」
「うん、ありがとう」
言われ桃音はソファに座り込む。隣に僅かな距離を空けて翠も座り込んだ。そこからしばらく時計の針の音だけが部屋の中へと響く。
(どうしたんだろ翠ちゃん…。もしかして緊張してるかな?)
「今日はいい天気だったね」
緊張をほぐそうと桃音は切り出した。
「…うん。そうだね」
ありふれすぎた会話は緊張をほぐせないかと
桃音は別の話題を繰り出そうとしたが大丈夫だったようだ。
「…良かった。緊張してたから桃音ちゃん話してくれて」
翠は胸に手を当てて深呼吸をして改めて切り出す。
本題へと。
「…私クラスに頑張っていけるようになりたい…と思った。部活するならちゃんと行かないと行けないって…。でもやっぱり不安もあるの」
桃音は翠の背を撫でて初めてわかった震えていた。
どれだけ決意するのが怖かったか伝わって来た。
「…大丈夫だよ。私と一緒に行こう」
「…いいの?」
「うん。もちろん!良いよ」
「…桃音ちゃん…ありがとう」
この先の乗り越える壁は高く、思うように行かない事が沢山だったけれども。それはまだ知らない未来であった。




