復讐を誓う
「起きたかい?少年。寝起きで悪いが何があったか覚えているかい?」
気が付くと僕は馬車に揺られており目を開けるとそこには雪のように白い髪と宝石のような青い目をした女性が顔を覗いていた。
「止まってくれ。少し休憩にしよう。」
女性がそう言うと馬は休憩できそうな場所で足を止めた。
(なんだ?なんでこんなところに、それにこの人は誰だ?)
体が痛い、動きもしない。
「体が動かないようだね。『ヒール』」
彼女がそう唱えると僕の体をやさしい光が包み込んだ。
体の痛みが少し引いて動くようになった。
「どうだい、これで動くかい?すまないね私の回復魔法ではこの程度までしか治せない。」
「いえ、ありがとうございます。ところであなたは?」
悲鳴をあげる体にムチを打ちながらも状況を把握するために体を起こして問いかけた。
(下級とはいえ魔法を使えるなんてすごい人だ。そんな人が僕を。そもそもなんで僕はこんなにボロボロなんだ?)
「すまない、先に自己紹介をするべきだったね。私はリューゲ、リューゲ・オームだ。君は?」
「ルヴァン・エテルです。」
「そうか、ルヴァン君か。じゃあルヴァン君さっきも聞いたが何があったか覚えているかい?」
「...。」
「何も覚えていないようだね。」
「すみません。何も思い出せなくて。」
「いや、構わないよ。それに君にとってはとてつもない苦痛になるかもしれない。覚えていないほうが幸せだろう。」
そういうと彼女は目をそらした。
(覚えていないほうが幸せだって?本当に何があったんだ…クソ!思い出せない。)
しばらく沈黙が続いた後僕は口を開けた。
「いったい何があったんですか?なんで僕はボロボロでリューゲさんに介抱されていたんですか?」
「本当に聞くかい?覚えていないならそれがいいと思うけれど。」
彼女は真剣な顔つきで再び僕の目を見た。
「お願いします何があったか知りたいんです。」
「そうか...わかった。」
そう言うと彼女はあったことを話してくれた。
僕の村が魔物の襲撃にあっていたところを旅の帰りにたまたま通りかかったこと、その時にはすでに村人たちは全滅していたこと、魔物の脅威から森へ逃げたであろう僕を見つけて助けてくれたこと____。
そんな話を彼女は淡々とつぶやくようにと僕に話した。
「まあこんなところだ。すまなかったね私がもう少し早く通りかかっていればもっと多くの人を助けられただろうに。」
彼女は僕に謝罪した。
「いえ、そんなこと言っても仕方ないですよ。悪いのはリューゲさんじゃありません。それに僕は生きています。本当に助けてくれてありがとうございました。」
僕は家族や友達を失った悲しみを押し殺しながらリューゲさんに感謝を伝えるためにも笑顔を見せた。
だがその顔が引きつっていたのかリューゲさんは察して僕に疲れているだろうからと再び眠るよう促し馬へ出発の合図を出した。
眠りにつきながらも僕は必死に思い出そうとしていた。
(…そういえばあの魔物たちはどこから湧いていたんだ?たしか女神教会を名乗るやつらが訪れ、村の広場で演説をしている途中で突然呪文を唱えて首をかっ切ってそこから魔物が___。)
そして僕は思い出した、目の前で殺されていく仲間たちを、なぜか連れ去られた幼馴染のルアンの存在を、逃げることしかできなかった自分を。
思わず飛び起きてしまった僕の目には涙があふれていた。
「思い出したのかい?」
「…はい。」
そして僕は燃える怒りを胸に村のため、仲間のためにも女神教会への復讐を誓った。