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第2話 【ゆる募】最高にチルなやつ、この指と〜まれ【拡散希望】

「まずは、奴らがどこで群れてる連中かを確かめなくちゃな」


街に出たチル太郎は、情報収集を始めます。


「と、その前に一旦チルしてえなあ。熱くなったあとは頭冷やしてリラックスしねえと。何事もクレバーに進めるためにはチルが必要だぜ」


チル太郎は周囲を見渡すと、馴染みの本屋を見つけ、足を向けるのでした。


おしゃれな店構えの書店「ほんきつ。」は、カフェが併設されていて、見やすく展示された本は席でコーヒーを飲みながら読み放題となっています。


テーマに沿って店主のセレクトした書影を眺めつつ、チル太郎は今日の気分にぴったりの一冊を吟味します。

「シーシャみたいな大人の嗜好品も楽しみながら、空き時間には本とかも読んじゃう自分」を味わえるこの時間が、チル太郎にとって至高の楽しみなのでした。


「あれ、チルさんじゃないですか」


話し掛けてきたのは、大きなメガネをかけた黒髪ショートボブの女子。

インスタで相互の猿川花子さんです。


「ああ、HaNAさんですか。オフでは久しぶりですね」


チル太郎は彼女の本名を知っていましたが、猿川さんは自分の名前が嫌いなのでアカウント名で話し掛けないと不機嫌になるのです。


「今日は、何をしてるんですか?」


偶然とはいえ、フォロワーさんに出会ってしまい、ちょっと気まずさを感じながらも、気さくな男子を演じてしまうチル太郎です。


「何って……まあ、いつも通り気ままに過ごしてます。ここは私の住処すみかのひとつみたいなもんですからね」


「ああ、……」


「なんか嫌な納得をされた気がしますが、気にしないでおきます」


HaNAさん、もとい猿川さんは情け深い人なのでした。


「で、チルさんは何されてるんです? 珍しいじゃないですか、こんなところで会うなんて」


「失礼だな。俺だって読書くらいするさ」

 

不本意なイメージのもたれ方にがっかりしながら、「とはいえ、ちょっとした案件を抱えててさ……」と、先ほどのシーシャバーでの一件を猿川さんに語ります。

もちろん、「俺ってシーシャバーとかも一人でふらっと入っちまうんだぜ」という、言外のイメージ回復戦略です。


「おじいさんとおばあさんがやってるシーシャバー? へえ、そんな場末によく入り浸ってるんですか」


なんか、やっぱり変な理解をされてしまうチル太郎。

なかなか、人からの印象というものは思うようにいかないものですね。


「ん、それはともかく、さ。HaNAさん、何か知らない? そういう輩が集まりそうな場所、この辺で」


「え、チルさんその人たちがどこから来た何者化も知らないで、その話を受けたんですか。無弁別過ぎません?」


「君はどこまでも痛いところを突いてくる子だね」


「すみません。嘘がつけないもので」


チル太郎の苦言にも、ケロリと表情を変えずに答える猿川さん。

「まあいい」、とチル太郎は話を戻します。


「チルさんのフォロワーで何かその辺詳しそうな人いないんですか?」


「今どきの情報集めはSNSを取っ掛かりか」


チル太郎はどこか隔世の感を覚えながら、スマホを取り出しました。


「お、確かにおあつらえ向きなのがいるな」


チル太郎の目に留まったのは、インスタのストーリーを更新していた「ケンケン@BBQ大好き商社マン!」という一人のフォロワー。


「うげ。もうどっからどう見ても模範的な陽キャじゃないですか。キッツ。でも良かったですね。これで連絡がつけば、情報が手に入るかもしれませんよ」


さっそく、チル太郎はDMを飛ばしました。

返事が来るまでは、この場で待つことにします。


「……と思ったら、もう返事が来たわ。さすが陽キャは反応が早い。えっと、今近くのバーにいるみたいだ」


「みんなバーとかお酒好きですね。まあ、めでたく進展しそうということで、私はこれで……」


「いやいや、何を言ってるんだよ。HanAさんも来るでしょ」


「え?」


「え?」


「いやいや、『え?』じゃないですよ。行きませんよ。私まだここの在席時間が半分くらい残ってますし」


「そのチケット、割引クーポンを教えてあげたのは誰だったっけ?」


「あれは……チルさんのツイートでたまたま知っただけで、別に直接個別に教えてもらったわけじゃないです」


「でも、その後も君の好きそうな本が入るたびにお店のポストを李ポストしていたことに気付かなかったか?」


「うっ、確かにやたら好みの本が流れてくるな、とは思っていましたが、まさかそんなネトストまがいのことまでされてたとは」


「バカ言え。フォロワーさんのあらゆる好みを把握して情報発信すればこそ、今のフォロワー数を獲得しているんだ」


「情報発信っていうか、他人の情報を横流ししているだけですよね」


「それでも便利がられるの」


「まあ、それはわかりますが」


「いいから、とにかくHaNAさんも来なよ。ホラ、きび団子あげるから」


「いらないですよ、なんですかいきなりきび団子なんか。つぶれてるじゃないですか」


「ほら、抱えてる本も戻して。どうせ今日は買いに来たわけじゃないんだろう」


「そうですけど……もう、仕方ないですね」


サブカル女子特有の、非日常への押しの弱さを発揮して、渋々チル太郎に従い、帰り支度を始める猿川さん。

チョロ目ですね。気を付けましょう。


「さて、次はこのスポーツショットバー『ナワ=バル』目掛けて出発だ!」


「え、スポーツバーに行くなんて聞いてないですよ。ヤですよそんな騒がしいところ。待って、やだ、行かないってば」


「ほらほら、大人しくして。さっさと行くよ」


「ひとさらい~!」


チル太郎は片手にグーグルマップを、片手に猿川さんの首根っこを掴んだ状態で店を後にするのでした。


〈続く〉

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