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第4章 メリア、謎の青年の剣舞に魅了される

 メリアは茫然として、目の前で行われた寸劇を見ていた。


 店主は、仕方がない、といった調子で呟く。

「こうなったら、こっちの嬢ちゃんの代金も兄さんに払ってもらうとするか」


「いつものでいいか?」

 青年が尋ねると、店主は頷いた。


「いいよ。じゃあ一つ頼むよ」

 店主は、空っぽになった鍋を逆さにすると、それを足の間に挟んで座り込んだ。


 それを見ながら青年は、体を伸ばし、屈伸させていた。

 はおっていたマントを翻すと、腰帯に見事な飾りのついた短剣が二本差してあるのが見えた。

 青年は両手を交錯するようにして一双の短剣を抜いた。


「準備はいいかい?」

「いつでも」

 店主が尋ねると、言葉少なに青年は答えた。


 すると、店主は空になった鍋を太鼓代わりにしてリズムを刻み始めた。

 芸術とは縁のなさそうなその外見にそぐわず、店主の刻む太鼓のリズムは、聞いているだけで心が弾むような軽やかなものだった。


 それに合わせて青年は踊りはじめた。


 それまでにぎわっていたたそがれの市場は、急に静まりかえった。

 決して大きくはない伴奏のリズムが辺りに鳴り響く。いつのまにか、市場に集った人々は青年の踊りに魅入っていた。


 青年は、メリアが見たこともないような踊りを踊っていた。

以前にも剣をかざして舞う踊りは見たことがあったが、彼ほど素晴らしい技術を持った舞手を見るのは初めてだった。


 優雅でありながら、力強いステップ。


 そして、孤を描く剣は、時折宙を舞っては、受け手を変える。まるで弧をかくようななめらかなその動き。


 それまで影法師にしかすぎなかった彼は、一度舞い始めると、たちまち広場の主となった。

 

 市場にいる誰もが売り買いを中止し、彼の舞に魅入った。


 それだけの価値がその舞にはあった。

たちまち、彼のまわりには、人だかりができた。


 メリアは思わずその舞に見惚れてしまった。


****


 やがて、踊りが終わると、まずい豆のスープを売っていた店主のしわがれた声が辺りに鳴り響いた。

「さあさ、見世物はこれでしまいだよ。見物料を弾んでおくれ!」


 すると、あちこちから、さまざまなものが店主に向かって投げられた。


 得体のしれないなにかの毛皮。

 骨を削って作った何かの小道具。

 貝殻を束ねたネックレス。

 干からびた動物の頭。

 まるく膨ませた毛皮のボール。

 奇妙な色をした果物。


 メリアには何に使うのかわからない不思議な代物ばかりだった。


 店主は、地面の上に散らばったそれらを嬉々としてかき集め、どこからか取り出した大きな袋に次々と放りこんでいた。


 それまで、人々の注目を集めていた青年は、踊りを終えると先程とは別人のように、気配が薄くなった。


 そんな青年に向かって、店主が干したイチジクに紐を通し、首飾りのように連ねたものを放り投げた。

「ほら、いつものだよ、持ってきな」

「感謝する」

 青年はそれを懐にしまうと、歩きだした。


 たちまち、市場のにぎやかさが戻る。


 メリアは人ごみをかきわけて、先ほど青年が踊っていた場所に向かった。

 すると、彼はちょうどその場から立ち去ろうとしているところだった。



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