悪役令嬢が強すぎる!!!
王宮、断罪、あたし悪役。ガッデム。
やっほー、公爵令嬢エルザだよー。
いまあたし、断罪されてるの。(3日ぶり152回目)
どう表現していいのやら、やたらムカつく顔の王子アルス。
金髪美形なのにやたら頭悪そうな表情をするムカつく生き物だ。
そのアルスがこれまたムカつく顔の女、マリンと抱き合ってる。
こっちも他人様を上から目線で値踏みする視線を常に放っているのに自分だけは気が付かれてないと思ってる系女子の顔だ。うぜえわ!
「愛してるマリン」
「わたしも愛してるアルス」
なんて、乳繰り合ってる。
なお当方は絶賛放置プレイ。
同レベルで仲良しこよし、と。
一線越えるなよー。先生は擁護しませんからねー。
「エルザさまに虐められていたんですの」
なぜ羽虫を虐めねばならんのよ。
「そうか……マリン。おいエルザ! 貴様どんなつもりだ!」
ムカつく顔でこっち見んな。ハゲろ。
「まったく身に覚えがありませんわ」
ここまでテンプレ。
断罪RTAに挑戦。
「うるさいこの毒婦! おい、ランスロット! こいつの首を斬れ」
結論早いなー。
次の瞬間、スパーンと音がしてぐるんと視界がまわりました。
骨の隙間を狙った見事な首チョンパ。
すごーい!
でもわたしも負けてない。
空中で髪の毛つかんで頭をキャッチ。
そのまま首に設置して聖女パワーでくっつける。
間違えて頭反対につけたり、股間につけると大惨事ですよ!
首チョンパ歴10年は伊達じゃない。
ムカついたのでランスロットにちょっぷ!
「うぎゃあああッ!」悲鳴をあげて床にめり込んだけど気にしない。
あ、わたし公爵令嬢で聖女です。ちーっす!
「生ぬるい。この程度で聖女を殺せるとでも?」
はい髪の毛までくっついた。
お気に入りの髪型なんだから首を斬るときはせめて髪をまとめさせて欲しい。
5歳で王子の婚約者にされてからはや10年。
いままで千回以上暗殺されても生き返ってきたのに学習能力のない。
「無駄です。溶岩に落とされても、大砲で撃たれても、毒を飲んでも死にませんでしたの。自分でもどうすれば自分を滅することができるのかわかりませんわ。それより婚約破棄して聖女認定取り消して田舎とか外国に追放すればいいのに」
「一度、お前の言うとおりにしたらレッドドラゴンの死体送ってきただろうが!」
うるせえな。いいじゃん別に。細かいこと言うなよ。
「狩りやってたらギャーギャー言いながら邪魔してきたんで石投げたら落っこちてきたので王室に献上しただけですわ!」
「普通は! 石投げただけじゃ! ドラゴン倒せないの!!! わかる!?」
「そんな細かいことどうでもいいじゃないですか。だいたいわたしが虐め? 冗談もほどほどにしてください。もし本当にわたしが虐めたら肉も残らな……」
「だからそういうとこだよ! お前強すぎるんだよ! いいかげんわかれよ!」
「まったく細かい男ですわね! レベル1億も行けば強くなるのも当然でしょうが!」
「ふつうの生き物はレベル1億なんて行かねえよ! ランスロットだって天才って言われてるのにレベル20だぞ! なあ、お前を滅ぼすにはどうすればいんだよ!? 頼む、教えてくれよ!!!」
「自分でもわからないと何度もお答えしたはずですわ。そんなことを考えるなんて不毛の極みですわ」
寿命になれば勝手に死ぬ。
それまで放っておけ。
あとはわかるな?
「ええい! とにかく婚約破棄する! ここから出て行くのだ! あとドラゴンを狩るな!」
「ういーっす、かしこまり。ドラゴン見ても石投げませーん」
「急に口調が雑になったな?」
「これが素ですわー。んで、どこに行けばいいんスか?」
「貴様の顔はもう見たくない!」
「気が合うっすねえ、うちら」
「うっさいわ! とにかく辺境に向かえ! そこの修道院で大人しくしてろ」
「ういーっす!」
というわけで一路辺境へ。
つっても国境なんて東西南北にあるわけで。
私が向かうのは北。
仲の悪い隣国と魔王の治める魔王領に挟まれた人外魔境。
圧倒的に金がない。
貧民だらけの地獄のようなところだと聞く。
さすがに強さじゃ金は稼げないからなあ……。
いやー困った困った。
「で、どうしてこうなった?」
要人と会談用の法衣を着てるわたし。
髪の毛を「めんどうだから剃る」って言ったら修道院のスタッフ全員に怒られたからお団子ヘアー。
首チョンパ完全対応っすね。
そんなわたしの前にいやがるのはこめかみの血管浮き上がらせたアルス。
アルスの野郎がわたしに詰め寄った。
アルスくん再登場! へいへーい、王子くん元気ぃー?
相変わらずムカつく顔してるわー。
「あまりにも金がなさすぎてなんか解決方法ないかなーと書庫を漁ったら、千年くらい前の兵法書が出てきてー、そこに『金がないならYOU奪えばいいじゃない』って書いてあったんで魔王領でカツアゲを……」
「なんなのお前! ねえねえ、俺に恨みでもあるの? 国に恨みでもあるの?」
「大丈夫。安心して。あーしは蚊如きを恨むほど不毛な性格してねえっす」
「蚊呼ばわりかあああああああッ!」
「るっせえな。さっさと帰れよ。シッシッ!」
嫌そうな顔して手を振るとさらに顔色が赤くなる。
こりゃ血圧上がってますな。
「扱いがさらに雑になった! お前のせいで他の街にオークが現れたんだ! 捕まえて事情聴取したら『新しいオーク王に金を持ってこいと命令された。逆らったら殺される。俺怖い』って言いだしたんだよ!」
「オーク王? そんなの知らないよ。やったのはその辺のオークボコにしてカツアゲしただけだし。ほら、勇者もよくやってるじゃん」
「やらねえよ! 勇者はちゃんと始末してドロップした物をゲットするだけだっての!」
「強盗殺人……さすがのエルザちゃんでも引くわー」
「違えだろ! つか、どさくさ紛れにオークを人間に入れるな!」
「えー、でも知らないよ。そういやなんか大きくて生意気なオークがいたなあ。タマ蹴っ飛ばしてからワンパン殴ったらどこに飛んで行っちゃった」
「それだバカーッ!!!」
「えー……わかったよ。とりあえずオークには別の国の街を襲えって命令しとくわ」
「ああ……うん、え? それは許されるのか……?」
「細けえことはいいんだよ。細けえことは」
「あ、うん……え?」
「はいはい帰った帰った」
こうしてわたしは王子を追い払うことに成功した。
首チョンパなし。わたし偉い!
と思っていたら、毒飲まされた。
ちょっと不機嫌である。ぷんぷん!
なんかムカついたので大暴れ。
八つ当たりしようっと。
そして一ヵ月後。
「ナニモシテナイヨ」
「さっさと言え」
「このたび、あーしエルザちゃんは魔王を討伐しました……」
「どうしてそうなった? 怒らないから話せ」
「ぜったい怒るやつ! え? はよ話せ? いや黒髪のヤンキーがうちのシマに攻め込んできたら、そりゃ殴るだろー! そしたら魔王になってた!」
「……貴様は縄張りを主張する野生の獣かなんかか? それで先代魔王はどうなった?」
「庭でブドウの世話してるよ。スローライフを楽しむんだって」
「なんでお前に敵対した連中はみんな壊れるんだ! あれからランスロットも寝込んで『エルザが来たりて笛を吹く』って意味不明なうわごとを繰り返しているんだ! マリンも『手を出しちゃいけないやつに手を出してしまった……殺される!』って部屋から出てこないぞ!」
「知らないよ! あーし何もしてないもん! もう、帰って!」
と、いつものように追い返したわけですよ。
まったく、敵対したって言ったら暗殺しようとしたアルスが真っ先に壊れるでしょうが!
……うん? もしかしてあのバカ……暗殺に関与して……ない?
ちょっと待って。
周りが勝手にわたしを殺そうとしている?
んー、なんかめんどくさくなってきた。
おっし。
「殴りに行こうっと」
こうして王宮の悪は滅んだのである。
そして数日後。
「お前今度はなにをした!!!」
と真っ赤な顔で来るアルス。
「しらねえっす」
とわたし。
「聞けバカ!」
「はいはーい、バカでーす!」
最近はわたしも少々丸くなったので、アルスも「ゴミカス」から「友だちに」格上げしてやろうかと思っている。
戻ってきたぜ!