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手短に読めるハズの短編集

私の目の前で飛び降りないで!

作者: 小説を書く人


 私は成宮瑞穂なりみやみずほ、25歳。社会人3年目。一応大企業と呼ばれるところに勤めている。顔も名前も覚えられない、パッとしない社員だが。

 そんな私にはある秘密がある。それは、人の死を何度も目撃してきたことだ。それも身近な人の死ではなく、無関係な人の死。

 そう。なぜか、私の目の前にいた人は飛び出して死ぬ。


 あの日もそうだった、先方との大事な大事な会議の日。

 電車に乗るために並んでいたところ、目の前の人が急に飛び出して、そのまま轢かれて死んだ。お陰で電車は遅延し、会議に遅れ、大被害を被った。

 また別の日には歩道橋の階段から飛び降りられた。事情聴取を受けるために数時間拘束された。

 他にも赤信号から飛び出して轢かれたり、手すりの低い橋から川に飛び込んで死んだりと、色んな……そしてかなり迷惑な自殺を見てきた。

 警察も、周りも、実は私が殺しているのではないか、私が押したのではないかと疑った。

 だが、これが自殺だと言い切れるのにはあるワケがある。


 私が生きているこの社会にはある特徴がある。

 それが【嘘発見機フェイク・ディスカバラー】の存在だ。相手の嘘を完全に見破る世界最高峰の装置。心拍数なんてものじゃなく、詳しくは知らないが、相手の記憶を見て嘘をついていないかがわかるとか何とか。本当かどうかはしらないが、私は専門ではないし仕方がない。


 かといっても、ほとんどの人はこれにそこまで関わることはない。なぜならこれは裁判や警察なんかでしか使われず、一度の使用にかかる費用がかなり高額だからだ。余程のことをしないとそれを使用されるようにはならない。

 一応、市販はされているらしいが、本当にかなり高額だ。裕福な家庭の1年分の生活費が軽く飛ぶくらいらしい。


 そんなこの世界では、どんな証言よりも、嘘発見機が優先される。どんなに相手が「アイツが殺した」と言っても、嘘発見機が「違う」と反応すれば絶対に違う。世論も証言者を嘘つきだと囃し立てる。嘘でも誇張でもなく、実体験であり研究結果だ。


 なぜここまでよく知っているか? 簡単なことだ。私は何度も裁判に出ている。地方裁判所の裁判官に名前と顔を覚えられるくらいには。「また貴女ね」くらいの感じ。一部では絶対に逮捕されない自殺させ屋、なんて大層な名前がついているらしい。

 因みにこの世界に監視カメラなんて装置はほとんどないので、裁判は証言者が証言をして、被告人が嘘発見機の前で応答をするだけの簡単作業だ。

 結局、嘘発見機が優先されるのだから、監視カメラがあるのは山奥だとかの人目につかないところのみだ。人目があるのなら被告人を問い詰める材料は沢山ある。


 相手がどれだけ「お前が押して殺した!」と証言しても私は「違う」と答え、嘘発見機も私の証言に「嘘はない」と答える。

 ただの不幸体質なのか、人が目の前で死ぬことも慣れつつあるが、それでも裁判の雰囲気には毎回ビクビクさせられる。

 

 もうひとつ迷惑な点を挙げるとするのなら、葬式に行くことだろうか。見ず知らずの人の葬式に何故行かなくてはならないのだろうか。目の前で死んだからだろうか、私がいたから死んでしまったからであろうか、何故か湧いてくる罪悪感から私は必ず葬儀に訪問する。


 でも、誰が何と言おうと、私はやっていない。実際問題、証拠はないし、発見機も作動しない。

 「何故か私の前で人が自殺する」……それだけなのだから。


 裁判所と警察署と葬儀場と家と職場を何度も往来するそんな日々がいつまで続くのか。出来れば、裁判所や警察署、葬儀場には行きたくないのだが。

 

 そんなことを思っていると、また目の前で飛び降りた。

 もうやめてくれ、切実にそう願う。




  ・・・・・





 私は力を失った。

 因縁の相手との直接戦闘の末、なんとか勝負を勝ち取ったものの、力をほとんど失ってしまったのだ。


 結果、私は命を食べることを余儀なくされた。

 普段の自分のみで生きられる生活から、他人の命に生活を委ねるという最悪の生活に成り下がった。それは私達の世界において、事実上の敗北を意味した。


 私達は生活が危うくなった時、ヒトの心の中に憑依し、時々他のヒト命を食べるーーつまり、誰かを殺すことで生活を何とかやり過ごす。

 今までもこれからもそれはずっと変わらず、私たちはそれを続ける。


 命を食べる方法として1番簡単な方法として私達の世界に広まっていたのは誘拐殺害。

 だが、これは見つかるリスクこそ少ないものの、未発達の幼児が誘拐対象となることが多い。未熟な命は含まれるエネルギーが少なく、回復までに時間も量も必要だ。


 そこで思いついた方法が、相手を自殺に見せかけること。相手を突き落としたり、飛ばしたりして自殺に見せかけて殺す。

 問題点は憑依先のヒトが反抗現場の付近……というか自殺する人の真後ろに立つことになることだ。

 普通の世界ならそんなことはすぐにバレてうまくいかないが、この世界は違う。


 この世界では謎に発展を遂げた【嘘発見機】なるもののお陰で、この方法がバレることがないのだ。

 それは、私が人格を入れ替えて殺しても、元の人格はその記憶がないために目撃情報があっても不起訴になるということだ。

 つまり、二重人格の裏の人格がやったことを表の人格が知る方法は言伝以外存在しない。それも嘘発見機のお陰で殆どない。だって、嘘発見機が反応しない時点で、自分が間違っていることはないと錯覚してしまうのだから。


 はぁ、後何回殺せば元の世界に戻れるだろうか。

 あぁ、早く悪魔の身体に戻りたいと思う、ホームシックというものだろうか。もっともっと好きなことをしたい。こんな身体に閉じ込められるのはもう懲り懲りだ。


 次からはもうこうならないようにと心掛けながら、私は目の前の人に手を添えた。

御拝読有難うございます。

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