ある皇太子の懺悔
「逆賊!逆賊を捕らえましたぞ!」
「首謀者は宝寿皇子!!!」
異母弟である宝寿が死んだ。
処刑されたのだ。
「徳寿皇子、それは違います。徳寿皇子ならば皇后様を止めることが出来たはずです。
ですが、貴方様は止めなかった。皇后様が実の息子である貴方様を確実に皇帝の地位に座らせるために用意した罠であったことは知っていたはずです」
侍従の斉が私を責める。
斉は幼い頃から仕えてくれていて、私とも宝寿とも仲が良かった。幼馴染ともいうべき存在だ。
「斉、私はそんなに賢くはない。父上のご期待に添うことが出来なかった不出来な息子なのだ。その方も良く知っているだろう?」
「だからですか?だから皇后様をお止めしなかったのですか?」
「“出来の悪い方の皇子”である私でも分かることがある。廃位に、いや、皇太子の座を宝寿に奪われたら、私と母上、そして私たち家族の命がないということをな」
「そ、そんなことはございません!!!宝寿皇子は例え帝位に就いても皇后様や徳寿皇子にそのような事はなさいませんでした!少しの間不自由を強いるかもしれないが心安からな場所を用意して暮らしてもらうと、暮らし向きに苦労はさせないと、そう私どもに仰っていたのです」
幼馴染の斉の有り得ない言葉に笑ってしまう。
「斉は良い人だな」
「徳寿皇子?」
「歴史を振り返ってみるといい。廃位された皇帝が人知れず亡くなっていた例はごまんとある。
帝位争いを避けるために、廃位された皇帝や廃嫡された皇太子の身内を一人残らず殺しているほどだ」
「それは過去の話です。宝寿皇子に限ってそのようなことは……」
「宝寿にその気が無くとも周囲が私達の存続を許さない。宝寿に内密にして事を運んだことだろう」
「……徳寿皇子は、御自身の家族の命を守るために宝寿皇子を見殺しになさったのですか?」
「どちらにしても私が母上をお止めする事は出来なかった。母上は賢い方だ。私の考えた最悪の未来以上の事を想定していた事だろう」
「宝寿皇子を助けたいと少しでも思ってくださいましたか?」
「……」
「思ってくださらなかったのですね」
「……何故、私を責める?仕方のない事だったのだ」
それ以降、斉は私の前から姿を消した。辞職し、田舎に戻ったと聞くが、恐らく、謀反人となった宝寿の菩提を弔うために辞めたのだろう。
昔からそうだ。
私たち兄弟を知る者は、必ずといっていいほど宝寿を愛し味方する。
友人も、臣下も、民も……父上も。
<<じゅ……徳寿…徳寿……>>
誰だ?私を呼ぶのは。
<<何故だ、徳寿。何故、宝寿を守らなかった……何故、無実の罪である者を罰したのだ…>>
なにを言っている。
<<許さぬぞ、決して許さぬぞ…そなたを決して許さぬ>>
声が聞こえる。
父上が私を責め立てるのだ。
私を睨みつける父上の冷たい眼差し。「何故、宝寿を守ってやらなかったのか」と、私を責める父上の声が今日も聞こえる。
父上はお怒りなのだ。
私が父上の遺言に背いて宝寿を守らなかったから……。
ああ。
今日も聞こえてくる……。