起
四月の結婚式、幸せな舞台で伊武受雷は何を見る。
満開の桜も綻びはじめる四月はじめの日のいい土曜日に結婚式は行われた。
青天、それは春の穏やかな日。
ふわりと桜のはなびらが一枚舞う、すると突風が吹き、視界には無数の花吹雪が視界を覆った。
伊武受雷は咄嗟に、花びらが目に入らないように右腕を額にあてる。
風が収まると彼は、目を細めなんとなく太陽を見た。
「眩しい」
受雷はそう言うと、ふっと自嘲気味に笑い、黒のロングコートを翻し、スーツの胸の内ポケットをまさぐり、葉書と祝儀袋を取り出した。
加野大地と井村渚は希望に満ちた時を過ごしている。
純白のウェディングドレスに身を包んだ渚は、父と共に教会のヴァージンロードを歩く。
渚は号泣する父に寄り添い、ゆっくりゆっくり大地の元へむかう。
白のタキシードを着て、緊張するのは大地、教会の扉が開かれる。
「ちょっと待った!」なんてことないだろなと一瞬、頭に変なことが浮かび苦笑する。
大きな拍手が教会に響き渡った。
彼の心臓が(いよいよだ)と早鐘を打つ、じっと愛する人を見た。
ほっこりする様子に彼の緊張はほどけた。
受雷は参列者の中にいる。
新婦の登場に惜しみない拍手を送る。
(あいつめ・・・いつの間に)
伊武家と加野家はご近所さんである。
受雷が大地の二つ上で、一緒に遊んだり、家庭教師をやったこともあり、「大地」「兄ちゃん」と呼び合う仲だ。
(先を越されたか・・・しかし)
受雷は教会内を見渡す。
(どんだけ祝福されてんだよ)
鎮魂探偵伊武受雷は、霊が見える。
そこは入りきれないほどの霊と、物に宿る付喪神までが、二人の式を見に来ているのだ。
(ばっ、ばあちゃん!)
そこには死んだイタコの祖母が受雷と目が合うとサムアップした。
彼は思わず虚空に右手をあげ破顔した。
泣き叫ぶ渚父を渚母が引き取ると、神父は宣言する。
「これよりお2人の結婚式をはじめます」
盛大な祝福の拍手が再び起こる。
誓いの言葉を互いに交わした2人は、互いに向き合う。
ええ顔をした大地は、震える手で渚のヴェールをあげる。
潤う互いの瞳、渚は静かに目を閉じた。
大地は唇を近づける。
むちゅう。
重なる唇。
「ちょいまち!」
渚はぐっと大地の両肩を押す。
「ん?」
驚く彼。
「あなた」
「へ」
「プラトニックに、おでこって言ったでしょう!」
「あっ、そうだった」
そんな2人のやりとりにどっと会場が沸く。
「やれやれ」
受雷はそんな2人を微笑ましく見ていた。
(ん?)
彼はこの祝福の場のすぐそばで、ただらぬ気配を感じとった。
「ちょっと、失礼」
立ちあがると、片手をあげ、参列者の間を割って行く。
「トイレだろ」
と、ちょっかいを入れる子どもに、受雷は、
「大だよ」
男の子にサムアップし教会をでた。
承へ続く。