04 防犯
いろいろありまして、
水着姿の上に上着を羽織った各メンバーと、
濡れ濡れ普段着をぱりぱり普段着に着替えてきた私の前には、
土下座する男性がひとり。
「あのぅ、そろそろ勘弁していただけないでしょうか」
彼の名前は藪雨銘寺、メイジさんは王都勤務の巡回司法官。
得意の『転送』能力を活かして悪と戦うそこそこ正義なおじさんではあるが、最近は私たちチームモノカとの連絡係を所属組織から押し付けられている模様。
「メイジさんにはいつも大変お世話になっておりますし、今日もお仕事なのは分かりますが……」
不意の『転送』で現れた怪しい人影にチームモノカのバトルジャンキーたちが格殺臨戦態勢しちゃったのもまた事実。
「気付くのがもうちょっと遅かったら取り返しのつかないことになっていたんですよ」
「誠に申し訳ないっ」
土下座する知り合いの姿、あまりマクラには見せたくないのだが。
いろいろありまして、
ただいまメイジさんとサシで話し合い中。
「やはりメイジさんの『転送』が強力すぎるのが問題なんです」
通常、野営の際は各種強力結界で安全対策は万全、のはずなのだが、この男のイカレた『転送』能力はアリシエラさんご自慢の転移阻害結界を何も無いかのごとくにやすやすと通過してきてしまう。
「本当に申し訳ない、いつものつもりで飛んできたらまさかこんなパラダイスビーチだったとは」
ふむ、あれだけ土下座姿をさらしたにも関わらず、どうやら本心からの反省の色は微塵も見せぬようだ。
「とりあえず今回の件のおしおきはクロに一任しておきますので、まずは今日の要件を先に」
メイジさんの顔色が明らかに変わった。
「すみませんモノカさん、何でもしますので、どうかクロにだけは内密に……」
今、何でもするって言ったよね、と言うセリフは怯える可愛い女の子以外には向けるべきで無いのはこのモノカ先刻御承知。
「じゃ、一旦保留としますので、まずは今日の要件を先に」
「ありがとうございますっ」
以下は、メイジさんの話をまとめたもの。
私たちを悩ます有名税関係の事案、暴走するストーカー共や好き勝手やって儲けようとする悪徳出版社を含む商業関係、それらを取り締まるための法整備がようやく整ったとのこと。
冒険者ギルドとしては超人気トップランカーのアイネの愛想尽かしからの脱退が大問題となったらしく、一枚岩だったギルドの分裂問題にまで発展しかけてお偉いさんたちの首がぽんぽんと入れ替え祭りだったとか。
で、政府もギルドもこのままじゃいかんと本腰入れて法整備して、今後は問題を起こした連中には超厳罰を持って対処するから有名冒険者の方々見捨てないでお願い、って感じだそうだ。
ま、それならそれで良いかと。 どうせ私たちは今まで通りの風来坊で迷惑かけてくる奴らを迷惑度合いに応じておしおきするだけだし、アイネがいまさらギルドに復帰するとも思えないし。
「それだけですか」
今日はいつものように気安く会話する気分にはなれない。
「もうひとつだけ、すみません」
「セシエラさんから、これ、預かってきました」
手紙を、渡される。
開封を待つかのようにこちらを見つめるメイジさんの視線を切るように言った。
「まだ何か」
「やっぱりまだ怒ってます?」
「警備体制の見直しが急務かと。 うちの結界で防げぬ侵入者がいる以上、抜本的な対策を急がないと」
「本当に、申し訳ないです」
「正義の執行者たるメイジさんが意図せぬ覗き魔行為に及んでしまった事は、ご本人が猛省してくれれば良いのです。 問題は正義じゃない何者かの悪意ある不法侵入を四六時中警戒せねばならぬ事」
「……」
「それでは、これからメンバー全員での対策会議ですので」
「失礼します」
メイジさんは、うなだれながら去っていった。
少しキツく当たりすぎたかもしれぬが、あのプレイボーイおじさんにはもっと自覚を持ってもらわねばならぬ。
それよりもやはり、防犯問題の解決を急がねば。
結界の問題だからといってアリシエラさん任せにしておくばかりなのは愚策。
それでは、何かあった時にアリシエラさんにばかり責めを負わせることとなってしまう。
ない知恵を振り絞ってでも、何か解決の糸口だけでも。
と、その前に、セシエラさんからの手紙を確認っと。
『こちらもだいぶ落ち着いてきたのでよろしかったら遊びにいらしてね』
手紙の短い文面からだけでも伝わる圧倒的な癒し感。
思えば私が『エリクサー改』を飲ませてしまったせいでセシエラさんの人生を変えてしまったのも事実。
マクラもノルシェも、もちろんアイネも懐きまくっていたし、行ってみましょうか。
「セシエラさんから遊びに来てってお手紙来たけど、すぐ行きたい人」
全員の挙手を確認、次の目的地決定。
問題があるなら溜め込まないことってクロも言ってたし、セシエラさんのところに着くまでにみんなと相談して良いアイデアが出なかったらロイさんたちにも相談、かな。
私もちょっとは成長、してるよね。