17 フラット
終点の大扉の部屋は、
真っ黒で結構大きな部屋、天井だけ薄ぼんやりと明るい。
大人が何人寝っ転がれるんだろうと考えたら、少しだけ気分が悪くなった。
「アレ、なに?」
こっちが聞きたいよ。
部屋の中央には、真っ黒で大きな『珠』
近付くと、何やら低いうなり声のような音が腹に響いてくる。
触ったらマズいような、今すぐにでもブッ壊したいような、
うずうずするようなむずむずするような感覚に躊躇していると、
「それ『黒球神』って言うんだって」
不意に掛けられた声に飛び上がりそうになりながらも、
声のした方を振り返ると、
「フラットッ」
スズナがするりと私の背を抜けて、
大扉のところにいた声の主の男に抱きついた。
「元気そうで良かった」
良かったねぇ彼に会えて。 泣いてるスズナは、少しだけ可愛いっすね。
「うん、元気だよ。 ふたりも元気そうだね」
あれ、なんかおかしいな。
抱きついているスズナの頭をぽんぽんしているフラット君の目は、なぜか私を向いている。
その目には、なんの感情も、無い。
「ふたりはなんでここに来たの」
「あなたを助けに来たに決まってるでしょっ」
スズナの潤んだ熱いまなざしにも、フラット君は全く動じない。
「そっか、じゃ、早く帰ろうよ」
何となく、このふたりを理解出来た、気がする。
魔物調査員のフラット君。
いつものように調査地域を探索中に偶然遺跡と遭遇。
何となく中に入って、
何となく祭壇に触ったら、
何となくここに来てしまい、
何となく居心地が良いので、
何となく居着いてしまった、とのこと。
ここでは食事もトイレも睡眠も必要としないそうだ。
「あなたらしいわね」
フラット君を見つめるスズナのまなざしに、何となくふたりの関係性が分かってしまう。
「どの部屋だったか忘れたけど、こんなのがあったよ」
彼から手渡されたのは、黒い本。




