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再結晶 recrystallization  作者: ネツ三
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よし君の場合

 ゴールデンウィークが終わり、中間考査の一週間前になった頃、芦田から話したいことがあるので、部室に来てほしいと言われた。

放課後に部室に行くと、芦田が一人で待っていた。

「よし君が最近、学校を休みがちなの知っていますか?」

「いや、知らなかった。どのくらい休んでる?」

「今週は、三日連続です」

「どこか体調が悪いのか?」

「よし君、クラスで誰とも話をしないらしいんです」

広教は一年生に地学を教えているが、たまたま、よし君のクラスは担当していなかった。よし君の担任は新人の教師である。

「誰も友達いないのだろうか、よし君は」

「中学校までは友達がいたそうですけど、うちの学校には来てないそうです」

「よし君は無口だからなあ」

「いじめじゃなければいいんですど」

「二年生の二人と話できてるよね」

「そう、すずかとあかりが話しかけて、しゃべるようにしています」

「普通に話せてる?」

「あまりしゃべらないけど、コミュニケーションはちゃんととれてます」

「じゃあ、クラブでは心配ない」

「僕とは普通に話ができてるが」

「よし君の居場所、ここしかないのかも」

「クラスでそんななら、クラブが息抜きになってるのかもしれない」

「担任に聞いてみるわ。芦田もまた何かわかれば、教えて」

「わかりました。二年にも言っておきます」


 広教は担任の斉藤から、よし君の様子を聞き出した。よし君は何事もマイペースで、人に合わせることをしない、一風変わっている生徒だと言った。課題の提出がよく遅れるので注意しても、変わらない。グループで話し合いをする活動は、話に加わらず、黙っている。何度か家にも電話をして母親と話をしたが、特に家では変わった様子はないとのことだ、と言った。広教が最近の欠席は親から連絡があるのか尋ねると、本人からだと答えた。

 広教はそれを聞くと、家は出ていても親は欠席を知らないパターンではないかと疑った。前任校で担任した生徒が、家を出たあと、そのまま一日中電車に乗っていて時間をつぶしていたことがあった。その生徒には学校に来たくない理由があり、親にそれを知られたくなかったので、うその欠席連絡を本人がしてきていたのである。広教が家に電話すると、親は学校に行っていたものと思い込んでいて、うそをついていたことが判明した。

 その時は友人とのトラブルが原因だったが、よし君はどうなのだろう。広教は、斉藤に注意してみておいてと頼み、よし君から話を聞こうと決めた。


 よし君を担任から呼び出してもらった。部室で広教と向かい合ったよし君は、少しやせたように見えた。広教は気軽に話したつもりだが、どうしても欠席の事情を聞き出すようになってしまった。

 よし君は、特に理由はない、なんとなく朝、寝過ごしてしまい、そのまま休んでしまうのだと言った。

クラスで友達がいないことも気にしていない、クラブに来れば、先輩と楽しくやっているから大丈夫だと言う。広教が家族と上手くやっているかと聞くと、一瞬、表情が変わったが、心配要らないと言った。


 それ以上聞き出せることはなく、あとは広教の語りになってしまった。六月上旬に淡路島に巡検に行く、珍しいアンモナイトが出る産地だ、よし君もぜひ参加するように。進路のことはまだ先だが、たとえば国公立大学に行けば、古生物の研究ができるところがある、それで飯は食えないかもしれないが、化石の勉強をしたいなら、今から勉強をしっかりやっておこう。自分は理学部を卒業したが、アンモナイトの研究では就職先がないので、地学の教師になった、こうやって君たちと化石採集に行くのが楽しい。

 よし君はふんふんと頷きながら、広教の話を聞いていた。決して押しつけるつもりはなかったが、興味を持って聞いてくれたのではないか。


 六月の巡検には、よし君と二年生の二人が参加した。芦田はあいにく模擬試験と重なって、参加できなかった。芦田に模試を優先するように言うと、ふてくされてしまい、模試を受けないと言い出した。なだめすかして、ようやく承知させた。


 淡路島の南あわじ市にある産地は、川沿いの道を少し上ると、低い山のはげた斜面が見えてきて、赤茶けた石から、異常巻きアンモナイトが産出する。

採集を開始して一時間ほどが過ぎた。

斜面に取りついていたよし君が、大きな声で広教を呼ぶので、斜面を登ると、掘り下げられた面から、アンモナイトの化石が見えた。いくつかの部分に割れてしまっていたが、つなぎ合わせると、大きなプラビトセラスだった。大収穫である。

「よし君、やったね」

広教は、喜んで、よし君とハイタッチをした。

よし君と一緒に破片を拾い集めて、新聞紙に包んで大事に持ち帰らせた。

帰りの車中で、よし君はよくしゃべった。クリーニングを完璧にして、宝物にすると言っていた。


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