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再結晶 recrystallization  作者: ネツ三
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始業式

 始業式


 四月の始業式で、広教は転任してきた十名の教師の一人として壇上で紹介された。

 担任する三年八組の教室で、生徒たちと顔合わせをしたあと、簡単に自己紹介をした。「坂口広教、ひろかずとよみます。この学校が二校目で、教師歴は五年目、教科は理科、担当科目は地学、残念ですが、三年生の授業は担当しません。クラブは地学研究部です。よろしくお願いします。何か質問はありますか」

「先生は結婚してますか?」

「いきなりプライベートの質問ですね」何人か反応して控えめに笑った。

「まあいいか。してません」

「彼女はいる?」

「調子に乗るな。いるはおるか、ほしいかどっちの意味だ?」

「これはおらんな」どっと教室が沸いた。

 最初のロングホームルームをなんとか無事に終えて、やれやれと思って職員室の自分の席に戻った広教は、職員室の入り口で、坂口先生と呼ぶ声に応じて、入り口まで行った。

 すると、クラスの女子生徒が来ていた。芦田茉優という、クラス委員長に選ばれた生徒である。

「先生、ちょっと来てください」と言って、広教を周りに人のいない、廊下の端に連れて行く。

「先生、地学研究部の部長です。顧問になったそうですが、ちゃんと面倒見てくれますか?」

「ああ、そのつもりだが、どうして?」

「前の顧問が地学が専門でないと言って、私たち、やりたい活動ができなかったんです」

「そら残念だったな。教師がみんなそれぞれの担当クラブのプロじゃないからな』

「それはわかってますが。先生、地学を教えるって言ってましたね』

「そう、一年生に授業があるから」

「大学院で化石研究やってたから、巡検ぐらいは連れて行くよ」

「本当ですか!うれしいです!絶対連れってってください』

 それだけ言うと芦田は頭を下げて帰って行った。



 ロングホームルームで回収した書類を確認し、整理する。未提出の生徒名をチェックする。明日の課題考査の準備をし終えて時計を見ると、四時を過ぎていた。

 特別棟の三階にある地学研究部の部屋をノックしてドアを開ける。

 芦田を含め四人の生徒が振り向いて広教を見た。

「顧問になった坂口です。よろしく」簡単にあいさつすると、四人とも

「よろしくお願いします」と声をそろえてお辞儀した。

 地学研究部は、昨年度までの顧問が退職したので、広教が任命されたのである。

 高校では、地学というマイナーな科目を教えられる教師は数少ない。前任の顧問は理科だが専門ではない地学を教えていたので、広教が転勤してきたと言うわけだ。


「先生、巡検に連れて行ってください」

 一年だという男子がメガネを指であげながら頼んできた。

「どこに行きたい?」

「和歌山の白亜紀の地層が出ているところがいいです」

「アンモナイトか?」

「はい、それと恐竜も見つけたいです」

「それはすごいな、考えておこう」

「先生の専門、何だったのですか?」

「僕は白亜紀の二枚貝。アンモナイトも少しはわかる」

「じゃあ、ぜひ和歌山に連れて行ってください」

 男子生徒はうれしそうに言った。

 二年の女子の一人は、植物化石が好きだと言った。

「先生、車ありますか?」

「前の顧問は免許証を返納したと言って、巡検は連れて行ってくれなかったので」

「そりゃ、車がないとね。産地は僻地が多いからね」

「僕の車で一緒に行こう」

 そう言うと一年と二年の生徒は、早速いつにしようかと相談し始めた。

 芦田は広教と生徒のやりとりを黙ってみていた。

 しばらく五人で、和歌山方面の地質図や資料を見ながら、目的地を相談し、巡検の計画を話し合った。

 五時半を過ぎた頃、一年と二年の生徒が先に帰り、広教と芦田が二人で部室に残った。

「先生、ちゃんとやってくれそうですね」

「君らの熱意次第かな」

「熱量が多くても、面倒見てくれますか』

「いいよ」

「でも先生、無理はしないでください」

 大人びた口調に広教は苦笑した。

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