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窓口の男と平凡そうな少年(後編)


「希望…」


「ま、いきなり漠然とそう聞かれても難しいよな。でもさっきも言った様に転生先はほとんど無数にあるわけだから、よほど突飛な希望でもない限り望む世界を見つけられるぞ」


 そう言いながら、カタカタと手元の機械を操作する。

 そして何となくで少年に合いそうな転生先を見繕うとしていた俺だったが、


「――あの」


 そこで少年が不意に口を開いた。

 「どうした?」、と一端キーボードを叩く手を止めて尋ねると、


「その転生先…なんですけど、もう一度地球にすることも可能なんですか?」


「………」


 あ~…、そうきたか。

 まさかの初手でこの転生の唯一の難点を突かれてしまった。

 だが、その問いかけによる俺の沈黙。それだけで不可能であることを察したのだろう、少年が俺が何か答えるよりも先に苦笑を浮かべた。


「ああ、すみません。言ってみただけです」


 そして頬をかきながらそう言って笑う。


「大局で見れば可能、今現在で言えば不可能だ」


 だが、それとは反対に真面目な顔で俺は少年にそう告げた。

 

「…それはどういう?」


「まず第一に地球に転生することは可能か否か。その答えは可能だ。数多ある転生先、その中に確かに地球の名前は存在する」


「なら、どうして?」


「それは完全にこっちの事情だ、転生先には一個だけ縛りがあるのさ。その内容は、『転生先一か所につき、同時に存在できる転生者は三人まで』」


「…なるほどです。要は今の地球には転生者がすでに三人いると」


「そういうこった」


 そう言って、俺は椅子に座りながらグーッと伸びをした。


「どうする? どうしてもって言うのなら席が一つあくまでここで待機することも可能だぞ。幸いにも暇つぶしになる物はメチャクチャ充実してるぜ、うちは」


 そんな選択肢も確かに存在する。

 メリットとしては、確実に希望の転生先にいける。そして俺が今言った様に暇つぶしが充実している。

 デメリットとしては、いつその時が来るか全くわからない。

 正直に言えば、デメリットの方が大きいと俺は思う。


「――いえ、それなら大丈夫です。そこまで強く希望していたという訳でもありませんから」


 そんな俺の内心を知ってか知らずか、少年はゆっくりと首を横へ振った。

 「そっか」、とその決断に俺は短く納得を示す。


「ならどうする? 一応、地球とほとんど同じ環境の転生先はいくつかあるが――」


「いや、やめときます。そうだな…、どうせなら全く違うところがいいかなぁ」


「なるほどなるほど。ならやっぱりオススメは剣と魔法の世界かねぇ。定番で王道だけに、ハズレが無いし結構楽しめると思うぜ」


「へぇ~、じゃあそんな感じでお願いします。いくつか適当に候補を見繕って見せて欲しいです」


「あいよ。他になんか条件はあるかい?」


「あー…、そうですね。じゃあ現時点で転生者がいないところ…なんてこともできますかね」


「了解、お安い御用だ」


 それを合図に俺は再びキーボードを叩く手を再開させる。

 数十秒程でその作業は終わった。そして、俺が選んだ六つの転生先候補の大まかな概要と地理を映した画面を少年に向けて見せる。


「とりあえずはこの六つが候補かね。気に入らなけらば、また別の六つを新たに――」


「ここにします」


 補足を加えようとした声に少年の声が重なる。

 意外にも少年はその六つを軽く一瞥しただけで、素早くその中の一つを指差してそう言った。


「――即決だな」


「何となくですが、直感でここだなって感じました」


「ハハッ、いいね。そういうのはメチャクチャ大事だぜ。それに思い切りのいいやつは好きだぜ」


 少年の目に迷いはなかった。

 だからこそ俺もすぐにその決断が自棄や適当ではないことを感じ取り、そう笑った。


 ま、何はともあれ、これで全部の決め事が終わった。

 後は最後の締めを残すのみだ。

 キーボードを叩き、少年が選んだ転生先の入力作業を始める。


「なぁ、少年」


「はい?」


「キミはもしかしてここに偶然運が良くて選ばれたって思っているのかもしれないが、それは違うぜ」


「え? でも最初にあなたが宝くじが当たった様なものだって――」


「ああ、ただしその宝くじはそれまで自分の人生によって当たり外れが決まるのさ」


「?」


 キーボードを叩く手を止めずに、これから新たな人生を歩む俺は語りかける。


「俺の前にここで働いていた人――つまり俺の先代が言っていた。ここに来る人間は『数多の良さと一つの悪さを持った人間』だと」


「…良さと悪さですか」


「性格の良さ、頭の良さ、容姿の良さ、運動神経の良さ、その他もろもろの良さ――それを統合して『数多の良さ』。そして運の悪さ、それが『一つの悪さ』だ」


「――」


「運の悪さもいくつかの要素で構築されているらしい、だがその中でも最も顕著なのが短命だ。少なくとも俺がここで働き始めてからは二十歳以下の人間しかここに来てはいないな。――つまるところここに来る人間ってのは、運が悪くなければ素晴らしい成功の人生を歩んでいた若者ってわけさ」


「…………」


「だからさ、少年。――キミはきっと素晴らしい二度目の人生を送れるはずだ。今度は運悪く病気をしがちな身体に生まれる、そんなことも無いんだから。持ち前の良さを存分に発揮できる、そんなはずなんだから」


「――――!!」


 ――カチリ。


 それは俺が最後の仕上げのエンターキーを押した音。

 同時に少年の身体が淡い光の様なもので包まれ始める。


「…!? これは…!?」


「転生の準備に入ったのさ。残すところあと一分ってところだな、それが終わり目が覚めた時がキミの第二の人生のスタートだ」


 ニッ、と笑いそう告げると俺は立ち上がり再びグーッと伸びをする。

 あ~、終わった終わった。これにて一件落着だ。


「そうですか、あまり実感がわいてきませんね」


 いつの間にか少年も俺と同じように椅子から立ち上がっていた。

 苦笑を浮かべながらも、そう呟く少年はとても希望に満ちている顔をしている様に見える。何よりだ。


「ま、そう思えるのも今の内だ。転生すれば嫌でも実感がわくさ」


「ふふっ、そうですね」


「ああ、そうだよ」


「――あの、お兄さん。最後に一つお聞きしてもいいですか?」


「なんだ?」


「お兄さんはここで働いて長いんですよね」


「ま、そこそこだな」


「ってことは、僕の他にも何人もの転生先をずっと斡旋してきたんですよね」


「ああ」


「これまでの何百人何千人、これからの何百人何千人、僕はその中の一人に過ぎません。なのになんでお兄さんはここまで真剣に熱心に、一つも妥協なく取り組んでくれたんですか?」


「? 人の人生がかかってるんだからそんなの当たり前だろう?」


 疑問を疑問で返すのはどうかと思ったが、真っ直ぐに少年の目を見て俺は即座にそう答えていた。

 まったく、改まって何を言うかと思ったら…。流石に俺は人の――それも善人の人生がかかった仕事に手を抜く様な人でなしじゃないぞ。

 俺にとってそれは当たり前の事だ。しかし、少年は俺のその答えがお気に召したようで「そっか、そうですよね」、とどこか嬉しそうに呟いた。

 そして、


「決めました。僕は二度目の人生をしっかりと楽しむと共に、お兄さんみたいなカッコイイ男を目指そうと思います」


「…いや、どうした急に?」


「いえいえ、僕の勝手な目標ってだけです」


「そもそも俺をカッコイイ男と認識している時点であまり良くない気が――ってやば、もう時間だな」


 少年が光に包まれ始めてそろそろ一分が経とうとしていた。

 名残惜しいがお別れの時間だ。


「ん」


 そして、消えてこの場から居なくなるその前に俺は少年に向かいゆっくりと右の拳を突き出した。

 一瞬首を傾げた少年だったが、その意図を察してか同じく右の拳をゆっくりと突き出して俺の拳にコツン、と当てた。

 そして、


「じゃあな、少年。二度目の人生、頑張れよ」


「はい、精一杯頑張ります。ありがとうございました、お兄さん」


 ――シュン。


 その短いやり取りを最後に光が少年を包み込み、そしてまるで初めからそこには何もいなかったかのように綺麗さっぱりその存在は消失した。

 そしていつも通り俺だけがポツリと一人その場所に残される。


「ふう~」


 大きく息を吐き、そのまま椅子に腰かけた。

 胸の中にあるのは満足感と充実感。ゆっくりと眼を閉じると瞼の裏には先程の少年の希望に満ちた表情が映し出され、耳の中では未だに最後に告げられた感謝の言葉が反響している。

 そして俺は、


「――まったく、本当にやりがいのある仕事だぜ」


 そう独りでに呟くと、再び次の来客を待つのだった。


 ――さて、次はどんなお客様が来るのやら。


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