鯨鐘
吸い込まれていく水の中。
深く深く見上げながら。
暗がる辺りに遠のく光。
陽の光はどこから見ても陽の光。
こんなにも沈んだ暗がりの中でも大きな星。
深く深くまだ深く。
吸い込まれていく水の底。
吹き出たのは星屑の泡。
一際なおおいぬ指先に触れた月。
泡の音に塗れ吐き出した夜空を眺めて沈む。
微かな水の音と泡にしばらく暗がりは暗闇へ。
何が見えているのか何を見ているのか。
真っ暗に響いてきたのは鐘の様な音。
何処からか遠くから聴こえてくるごおんと轟音。
音の響く身体の隣りに居たのは大きななにか。
だらりと沈む私に触れた髭にそっと触れたそれの身体。
不思議と恐怖は感じない。
頭も尾だって見えないけれど隣に居る彼は鯨だった。
深く深く沈んでいく。
大きな鯨と彼の声。
その口元は笑っているのかな。
何も見えない暗やみで彼の姿と僕の涙はよく見えた。
新しい友達ができた気がしたんだよ。
水の音と彼の声に目を閉じた。
途端に思い出した息に慌てて開いた目。
目の前に広がるのは陽の光が差し込む水面。
苦しさに泳ぐ背中に響くごおんごおん。
振り返ると暗がりの中に君がいる気がしたよ。
また会えることはあるのだろうか。
また聞くことが出来るだろうか。
あの大きく澄んだ鐘の音を。