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優雅に踊ってくださいまし  作者: きつね
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商人の息子は踊りたい

「…シエナは殿下に無理やりされたって言ってたんだ。だから抱いて欲しいって俺のところに…シエナの本命は、本当は俺なんだ!」


ジョージが顔を真っ赤にして叫んだ。シエナはもう顔が真っ白だ。


「だからっ!シエナが望むものを渡したんだ。殿下のところに行くのは仕方ない。でもっ!せめて心だけは自由にってお互いの色を纏おうって!だからドレスや宝石、シエナに頼まれたものは薬だろうが何だろうが、なんだって融通してきたんだ!」


「ちょっと待って!ジョージくんっ!?」


シエナの制止を振り切ってなお、ジョージはシエナへの愛を叫ぶ。


「なぁ、シエナ、やっぱり二人で逃げよう?

殿下と君では身分が釣り合わなさすぎる!苦労するのは目に見えているだろう!?それに僕を一番愛してるって言ってくれたじゃないか!殿下は偉そうで面倒くさいって!

僕なら君を平凡だけど幸せにできるよ!ね?」


「…。」


「あらあら。随分と情熱的ねえ。

お薬だなんて、一体何のお薬なのかしら?書記官殿、記録はきちんとお済みかしら?そう、よかった。後できちんとお話を聞いて下さいましね。

さて、対するシエナさん、貴女の想いは一体何処にあるのかしらねえ…?お薬もどこに使ったのかしら。興味深いわねえ。」


赤と白と青と顔色を変えながら、ハクハクと口を開閉するものの言葉を紡ぎ出せない様子のシエナをちらりとみたクリスティーナはさらに続けた。


「まあ、薬についてはあとでわかるわね。

さて、彼女の本気は何処にもないのは確かね。あるとすればそれは…地位と金、かしらねえ。

…やだ、節穴殿下が白目を剥いてるわ。なにその顔、とっても面白いわ。美形の白目!ふふっ。」


「そんなことないっ!シエナは僕を愛してくれている!

そうだろう?シエナ…シエナ…?なんでそんな目…嘘だろ…僕を愛してくれていると思ったから色々便宜を図ったのにっ!」


それまで俯き、目を合わせようとしなかったシエナがジョージを見る。その目には怒りが宿っているようだった。

まるで、余計なことを言いやがって、と責めるような目で見られるのはジョージにとっては初めてのことだった。


「余計なことばっかり言うんじゃないわよ!あんたの便宜なんて貴族からしたら大したことじゃないのよ!なんて事してくれたのよ!」


「あらまあ。はしたない事。

少なくともジョージさんはシエナさんにとって都合の良い駒だったようねえ。でもねえ、シエナさん。時には貴族より商人の方が強いことがあるのですよ。まあ、貴女に渡ったところで宝の持ち腐れかしらねえ。

それはさておきジョージさん。あなたも随分とお花畑が進行していたようね。娼婦の常套句と同じものに騙されるなんて…。

ああ…そういえばジョージさんは娼館通いがご趣味でしたわね。騙されかけたなんて噂もチラホラ耳にしますものね。仮にも商家の人間が…とご父君が顔を真っ赤にされておられましたよ。恥をかかされてお可哀想に。

ねえ?元婚約者のデイビス子爵令嬢アマンダ様?」


娼館通いをバラされたジョージは慌てて顔を真っ赤にして俯く。シエナはギョッとしてジョージを見ているが驚きで言葉もなさそうだ。


「こんな方を当家へ迎え入れようとしていたなんて…お恥ずかしい限りですわ。

…貴方、まだ娼館通いをなさってたの?あれだけ痛い目を見たのに懲りないこと。それも娼婦なら彼女たちの手練手管で引っかかってもまあ致し方ないと思えても、まさか素人の女性の手口に引っかかるなんて…やっぱり商人にも、責任のある立場にも向いていらっしゃらないわね。これからは尻拭いしなくて済むと思えば本当にせいせいしたわ。」


「アマンダ…!お前こそ、そこの男は何だ!あっさりと他の男を作っている辺り、お前だって隠れてコソコソやってたんだろっ!?自分の事を棚に上げて人のことをチクチクと!さすが気位の高いお貴族様の一員だなっ!」


「…愚かね。大体、貴方ではないのだから、破棄する前にそんな事するわけがないでしょうに。

彼は破棄した後に出会い、婚約した方よ。素晴らしい商才と手腕で我が家を助けて下さった大切な方。私にとっても愛する大切な方よ。妙な言いがかりはやめて下さいな。

それにここは貴族のための場。そんな場所でそんな事を大きな声で言っては、スペンサー商会の今後は危ういわね。まあ…なぜ私と無理矢理にでも婚約させたのかをきちんと理解させずに色々と甘やかしてきたツケね。商人失格だわ。」


そう言われて初めてジョージは周囲を見渡す。周りの自分を見る目に浮かぶ感情を読み取って、みるみるうちに顔が真っ青に染まっていく。

クリスティーナはそんな二人を面白そうに見ていた。


そんな混沌としてきたこの場に、新たな爆弾を投下したのは意外な人物だった。


「あの…私は…私だけがシエナと枕を共にしていない、という事ですか…?」


ポツリとこぼした外務大臣子息クライスの悲壮な呟きは、殊の外、その場に響き渡った。

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