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優雅に踊ってくださいまし  作者: きつね
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子爵令嬢は踊り損ねた

「あらやだ、シエナさん、ドミナント子爵がお倒れになりましたわ。親不孝な娘を持ってお気の毒なこと。

まあ!夫人は夫の心配をせずに歯噛みしているわ…さすが血は争えないわねえ…。真面な子爵と姉君が本当にお可哀想…。」


運ばれていく子爵を横目に、クリスティーナが子爵とシエナの姉に同情の念を寄せていると、先程の言葉をようやく咀嚼できたのか、四人の青年たち(愉快な仲間たち)は現実を理解し始めたようだ。


「ちょっと待て…自作…自演……?」


もしそれが本当ならば…顔色を真っ青にした四人は、まるでギギギッと音がしそうなほどゆっくり顔をシエナに向ける。

シエナの青い顔と震えを見て、クリスティーナの言うことが本当なのだと悟った。


「あら、五人ともお顔が真っ青でしてよ。大丈夫ですか?椅子をご用意しましょうか?

というかバレないと思ってましたの?そんなわけございませんでしょう?本人…まあ私ですが、私がまず否定致しますし。まさか自称被害者の証言だけで何とかしようと思っていたとは言いませんわね?」


「だがシエナがされたと…!」


「呆れますわ…本当に高位貴族なのかしら。

そもそも時期を考えても、私がシエナさんに何かをするのが不可能なことは調べれば一目瞭然ですわ。捏造するなら頭を使いなさいな。

まあ、使った所で、信憑性が高い証言者を私共なら簡単に用意できますので無駄でしたが。なぜって?影がついていたと申しましたでしょう?それに王子とその婚約者に王家が護衛をつけないわけがないのです。特に王子の周辺を彷徨(うろつ)く者がいればその者が素行調査対象になるのも当然のこと。行動が怪しければ継続して監視対象となります。そんな事にも、貴女の嘘にも、気づけないのはそちらにいる色ボケどもだけですわ。」


「いろぼけ…。」

四人が真っ青な顔でクリスティーナを見る。そのままその視線を周囲に向けると、この場の全員がそう思っているのだと言うことを理解して俯く。


「…だ、だって…でも…いや、もう婚約者でないならっ!なら…」


「残念ながら、シエナさん。貴女もそうだったように、周囲の認識は私が婚約者のままでしたので、守りが必要です。そのため王家から護衛は派遣されておりましたよ。王家の都合によるものですもの。当然でございましょう。

どうやらどうしても私を嫌がらせの犯人に仕立て上げたいようなので言わせて頂きますが。


そもそも貴女は貴族令嬢らしからぬ自身を演出する事で有望な貴族を引っ掛けたかったのでしょう?市井出の母と同じ手を使えばいけると考えられて。そうしたら存外にも高位貴族の子息が引っかかって欲が出たのでしょう?


そこのボンクラ子息たちは紛いものだと気づかずにまんまと籠絡され、虐められたという話を鵜呑みにされたわけですが…。


そもそも彼女の存在が可笑しいと思いませんの?

いくら平等と言われていても、学園を卒業すれば貴族として社交界で生きなくてはなりません。令嬢なら婚姻して婚家に入り、新たな役割を担うことが多いですわね。下位貴族や平民は王宮やどこかの貴族家で勤めるものが出てきます。」


「だっ」


「おだまり。最後までお聞きなさい。

いわば学園は貴族の子息令嬢にとっては貴族社会に慣れるための前哨戦としてそこでの生き方を学び、顔を繋ぐ為の場です。

下位貴族や平民にとっては将来の就職に多大な影響を与える場です。有能さを示すことができれば貴族から直に声がかかることもありますし、王宮での職に就くことも可能です。そうなれば将来は安泰ですからね。

つまり、本来なら優秀なものしかあの学園には通えませんの。それ以外の子弟はもう一つの学園へ通いますのよ?なぜシエナさんが入学出来たのか、謎で仕方なかったのですが…。まあ何か特技があったのやも知れませんが、在学中は被ってもおりませんので、実情はわかりませんけれど。

それはさておき、そんな優秀なもの達の未来を決める場所で逸脱した行為を行う者は普通はおりません。

また妙な行動を取るものがいればある程度は注意しますが、忠告を聞かない様な相手だと判断されれば、同類と見做されないよう倦厭されるのは目に見えています。

私へもあなた方に関する苦情が届けられておりましたが、皆さまへは見守ってさしあげて欲しいと諫めておりましたのよ。

いつまで経っても態度が改善されずにいれば、触れたら危け…関わりを持てば自身の格を下…ん゛ん゛ん゛。見守るしかない存在と見なされてもおかしくはありませんよ。


ましてや側にあなた方が侍っているとなれば、どんな言いがかりを付けられるかわかりません。実際、彼女に歩み寄り、親切にも改善を促して下さったご令嬢にあなた方がしたことは何でした?取り囲んで恫喝するなど…紳士らしからぬ非道な行いですわ。みな、それを見て知っているのですよ…。可哀想に彼女は殿方が怖くなってしまって…。まったく、身分を笠に着て恫喝しているのはあなた方ではありませんか。


よって、シエナさんが周囲へ受け入れられなかった理由は彼女自身がそうなるよう仕組んだことと自身の行いによる自業自得、そしてあなた方が侍り、構いすぎたせいですわ。まあ、あなた方が構いたかった彼女は紛いものなので幻想に過ぎない女性だったわけですが。

それを私のせいにするなど…呆れて物も言う気が失せます…。」


「いや言いたい事を全部言ってるじゃないか…。というかその言葉選び…もう少しなんとかならないか…胸が痛い…。

ってそうじゃない。言うに事欠いて自業自得だと!?彼女は頑張っていた!それなのにお前たちは何も教えてやらなかったではないか!」


「よぉくお考えになって、色ボケ殿下。

言いがかりをつけられるのが分かっているのに関わるお馬鹿さんはおりません。

そもそも級友は教師ではありません。教える義務はございません。分からないなら教師に教えを請うべきです。まあ彼女が級友に教えを乞うなど絶対にしないでしょうけれど。

彼女の成績はいつまで経っても学園史上最低点。さらに言えば一度も点数を上げた事がございません。授業中の態度も悪く、課題は提出しない、補習にもこない。コレのどこが頑張っているというのです?本当になぜ入学できたのか…。

注意をすればあなた方が飛んでくる。可哀想に…先生方も頭を抱えていましたよ…。」


「ひっひどいっ!なんでそんな事バラすんですかぁっ!」


「あら、恥だという感覚はお持ちでしたのね。それはようございました。」


「史上最低…シエナ…お前聞いていた話と違うぞ…そんなにお馬鹿だったのか…!」


涙目で訴えるシエナを、信じられないモノを見る目をして青年たちは一歩下がった。


「皆さまに付いていた影から陛下へ報告が行き…私、呼び出されましたの…。本当に迷惑ですわ…シエナさんや殿下方の成績が悪いのなんて私には全く関係ありませんのに…。さらに先生方からも相談されて、風紀が乱れないよう様々な対策も打ちましたのよ…。なぜ婚約者でもない私が尻拭いしなくてはならないのか…本当に理不尽で迷惑な方達ですわ。」


「王様までご存知だなんて…!クリスティーナ様!なんて非道なの!」


「いやだ、貴女、若いのに健忘症なの?影から陛下へ報告が行ったと言ったばかりよ。」


「…けんぼうしょう?」


「おい、サラッと俺たちの成績についても暴露するんじゃない。というかシエナ、健忘症を知らんのか!?」


「なんかバカにされてる事だけはわかります!」


「殿下方は陛下へ報告が行くほど成績が下がったのか…キツイな…。」


愛するシエナのお馬鹿さも可愛いと思い込んできたアホ共は予想以上のお馬鹿加減に引いたものの、観衆の呟きを聞いてハッとした様子で続けた。


「お、おおおお前はそうやって蔑んでいたのだろう!?それにお前は私の婚約者で高位貴族の令嬢だ。学園で問題があれば対応するのは当然であろう?それにお前がシエナに教えてやれば良かったのだ!」


「ですから、私が入学して半年目に解消したと申し上げておりますでしょう。シエナさんが編入してくる前ですわ。

貴方も健忘症ですか?あんぽんたん殿下。

そもそも彼女の編入した頃には、私は学園に通う必要がない程の成績を修めておりましたし、接点を持ちようがありませんの。

あと、お前と言うのもおやめ下さい。品がのうございます。

大体、私とて暇ではないのです。聞く気も、我が身を振り返る気も、努力する気もない彼女に付き合う時間も義理も義務もございません。蔑まれて、遠巻きにされても致し方のない事をしているのは彼女自身で、それを自業自得というのです。

陛下からも彼女に関わる必要はなく、自身の義務のみを果たすよう言質をとって(指示を受けて)おります。

それと、解消されたあとに至っては殿下が何かを勘違いしたままであろうとも、過ちを犯そうとも、婚約者ではない私に殿下のフォローをする義務も義理もございませんの。それは後ろに控える側近候補や従者がすべき仕事ですわ。

本当に色々ございましたが、解放されて本っ当に良かったですわ…。好意はおろか尊敬の念すら抱くことが不可能な相手を伴侶にするなんてと絶望しか感じておりませんでしたもの…。」


「ぜ…絶望…」


唖然とした様子でクリスティーナを見ている彼らは周囲の呆れを隠さない視線に気づかず、混乱している。

ジルベルトに至ってはもはや虫の息だし、シエナは大した活躍をしてないのに、もうすでに目は死んだ魚のようだ。


取り巻きトリオの顔色はもう土気色だ。赤に青に白にとくるくる面白い位に変化していて飽きないと思っていたら今度は土気色になった。

これ以外にはどんな顔色があるのかしら?と思いながら、さらなる顔色を探究すべくクリスティーナは畳み掛けた。


「ところで…そのご様子ではどうやらお気づきでは無さそうですので申し上げますが…。

側近候補の皆さまのご婚約も解消されておりますわ。」


側近にも爆弾が投下されたこの瞬間、新たに確認できた顔色は紫だった。

そして、王子と側近はようやく幼少期を思い出していた。数少ない逢瀬にも関わらず、濃くて、恐ろしくて、容赦のない、あの頃の彼女と過ごした数少ないあの日々を…。

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