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優雅に踊ってくださいまし  作者: きつね
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令嬢はダンスの準備をする

「やぁ。ゆっくりできたかい?」


二週間後に王都を出る予定だった父が、母を伴って領地へ戻ったのは予定より少し遅れた三週間後だった。


「お帰りなさいませ、お父様、お母様。」


「ただいま。いろいろ処理していたら意外と時間が掛かってしまってね。待たせて悪かったね。」


「ただいま、ティナ。テオ様とはどう?上手くいっている?」


「え、えぇ。」

「お陰様で親交を深めさせて頂いてますよ。」


少し遅れてエントランスにやってきたテオドールがそう言いながらクリスティーナの腰に手を回す。


「出迎えが遅れて申し訳ない。」

「いやいや。お客様なのだから気にしないで。

仲良くやっていて良かったけど、手を出すのは程々にしてね。」

「それはもちろん。」


胡散臭い笑顔を浮かべたテオドールの横でクリスティーナは耳を赤くしていて照れを隠し切れていない。その様子を見た父は口元を引きつらせ、母はニコニコと見ている。


「まあ、あとはサロンで話そう。着替えてくるから先にお茶をしていてくれるかな。」


「畏まりました。テオ様、参りましょう?」

「ああ。では後ほど。」




それから暫くして、旅装を解いた父母がサロンへやってきて、王都での様子を詳しく聞かせてくれる。ふとマリアから聞いた事を思い出した。


「そういえば、マリアがお婆様と会ったそうで。陛下が忙しすぎて殿下たちを忘れていたと聞いたのですが、お父様は何をなさいましたの?」


「ん?今回の婚約破棄で直ぐにやって貰わないとならないティナの名誉回復と、僕のお休みのために頑張ってもらったくらいだよ。

まあ、そう誘導したのは母上だけどね。」


「…とりあえず、忙しい感じにさせられた事は理解しましたわ。次にお会いした際にお礼を言わなくては…。」


「クリスティーナがやってきた事からすればこれでも足りないくらいだから、別に良いよ。

そういえば陛下から隣国へ行く時のお土産を頂いた。お礼には陛下のお好きなものを土産に買って帰ろう。それで良いと思うよ。

来週あちらへ伺うから準備をしておいて。セリーヌも一緒に行く。」


「まあ!お母様、宜しいのですか?」


「ええ。私もここ数年ほどは伺っていなかったから、良い機会だから一緒に行くわ。クリスティーナとの旅行は久しぶりね。」


そう言うとにっこりと笑う。

社交界の百合と称される母の美貌は衰えることを知らない。そんな美しい顔でニッコリと微笑みかけられると眩しくて仕方ない。この母はとても穏やかで、さらに口数が多い方ではないため必要以上に話さず、実は声を聞く事は滅多にない。ただ、祖母の言葉の洪水のようなお喋りや、父の怒りの多くを笑顔一つで沈静化できる確率が高いことを考えると、もしかしたら一番怖い人かもしれないと密かに思っている。


「そうですわね。楽しみですわ!」


「テオ君、あちらとは連絡を取り合っているのだろう?どうかな?」


「来週で大丈夫ですよ。大体それくらいだとは伝えてありますので。

いらっしゃるのを楽しみにしているようです。」


「それは良かった。ありがとう。後で正式な連絡を入れておくよ。

そうだ。クリスティーナ。これ、ハンナとマリーからの報告書だよ。読んでごらん。」


「あら。ありがとうございます。」


「マリーがとても楽しそうにやっているよ。新しい小説のネタにする許可も正妃様から頂いたようだ。」


「ええ…!?それは流石にどうなんでしょう?王家の恥を晒す事になるのでは?」


「まあ、ああいう方だからね。良いというのだから良いのだろう。流石に出す前に私が確認する。

この後はどうするんだい?」


「一応一ヶ月ほどの予定は渡してきましたので、その進み具合にもよりますが…殿下たちのご様子は?」


「いま四割程度かな?隣国から帰って王都入りした頃には予定は終わっているだろう。

中身は多少叩き直されたようだけどね。ただ殿下がねえ。幼児返りしたみたいに牢屋に戻ると泣きながら寝ているらしい。」


「まあ…。ああ…そう言われれば、昔は色々やんちゃをなさる割に叱られるとぐずぐず泣いていらしたわ。根本はなかなかお変わりにならないものなのですね。」


「本当に面白かったよ。

三日放置され不安で仕方なかったんだろうね。牢から出したら両目がぷっくり腫れていてね。さらに正妃様が殴ってね。頬が時間が経つごとに膨れていったんだ。陛下が笑いを堪えるのが大変だったみたいだ。はい、こっちはエリンからだよ。」


エリンはマリーの従姉妹で、マリーの書籍や、様々な報告書に挿絵を入れている。そんなエリンが寄こしたもの…もしやと思えばそこにあったのはたった今話に聞いたばかりの殿下の顔。思わず吹き出しそうになり目を逸らせば、隣にいたテオドールが覗き込み、遠慮なく大笑いする。


「あいつ…会うたびにすかした顔してたのに…!なんだこの顔…!」


「テオ様…我慢しているのです。おやめ下さい。」


「いやそうはいっても。よく耐えられるな。」


「こういう時、王妃教育は便利ですよ。殿方もぜひともやるべきです。

そうだわ。きっと泣かれ過ぎて鬱陶しくなっているでしょうし、そろそろ王妃教育を詰め込みましょう。ハンナに指示を出しておかねば。

本当に、泣き虫(アレ)も間違いなく苛立ちの原因の一つですわね。こちらは感情を顔に出すなと言われますのに。

思い出したら余計に腹が立ってきたので、厳し目で指示を出します。あの方にもそろそろ事情を説明しておきましょう。」


頭の中であのお花畑たちにどう会得させるか算段を立る。


「お仕置きってティナがやっていたことを追体験させてるのか?」


「ええ。そうですわ。

ね?大したことではありませんでしたでしょう?」


「まあ、そう言われればそういう手があったなとは思う。ちなみに何処までやらせているんだ?」


「まあ一通りは。

体力作り、護身術、各国のテーブルマナーと言語、勉学、淑女教育…今はそのあたりですわね。

四時間眠れますから問題ないでしょう。

ハンナとセドリックを付けていますので、そこそこ厳しくやってくれていると思いますわ。」


「その二人ならそこそこどころか、ガッツリやってそうだな。」


「久しぶりに愛用の鞭を取り出してやってるみたいだよ。初日で手首が傷んだそうで、翌日から日替わりで懲罰要員を二人連れて登城していた。」


「あらまあ。ハンナには腱鞘炎に効きそうな薬を、皆にはお菓子か何かを贈らないとですね。」


教育のこともある、早速手配をしなくてはと思い立ち、一旦この場を辞去する許可を取り、部屋を出る。

ニーナに街で王都に残る使用人たちへのお菓子と、ハンナ用の薬、ある人物への贈り物を買ってくるよう頼み、手紙を三通書く。

一通はハンナへ。感情を抑える教育の内容と、王妃教育に精通した人物の紹介状を添えた事を書く。これを持ってその人物に元へ行けば協力して貰えると書き添えた。

二通目がその紹介状。

三通目がその人物に宛てた手紙で、これまでの事情とハンナに託している事、場合によっては力を貸してほしいと書いた。


ニーナが買ってきたものをそれぞれの手紙に添えた。

ハンナ宛の荷物には元々用意していたけれど、王都を出た時のバタバタでその存在を忘れてしまっていたモノを加えて王都の屋敷へ送りだした。


サロンに再び戻った頃には、隣国へ向かうための打ち合わせが終わっており、その内容を聞かされた。その後はみんなでのんびりお茶を楽しんで穏やかなひと時を過ごした。




ーー数日後、荷物を厨房の前で受け取ったハンナは手紙と贈り物に喜んだ。そしてクリスティーナが特別に用意したモノを見てにたぁと笑う。

そこにたまたまお腹が空いたミシェルが、止める執事を無視して向かった厨房で居合わせ、どうしたのかとその理由を聞けば、ミシェルもまたにたぁと笑う。

その様子を間近で見た使用人たちは怯えながらも触れないようにし、明日の五人組の命運が尽きた事を感じとっていた。



翌日の王城にはいつものハンナと、セドリックの姿。それに公爵家の使用人。

いつもと違うのはそこにミシェルの姿が追加されていた事。


この日から五人組は悲鳴を上げることも、泣き言も、感情に関する何もかもを表に出すことは許されなくなった。


そして満足に食事を摂ることも難しい状況に陥った。

なぜなら彼らのその立派な体には、クリスティーナが用意したコルセットがきつーく巻き付いていたからだ。

このコルセットは女性用の形そのままに、男性でも着用できるサイズで作られた特注品。断罪を目論んでいた事を知ったクリスティーナが、彼らにつけることを考えて作らせたものだった。


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