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優雅に踊ってくださいまし  作者: きつね
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令嬢は親友と躍る

「貴女もそんな風にのんびりする事があるのね。」


父の到着をのんびりしながら待つクリスティーナの元にやって来て、挨拶もそこそこにこんな言葉を投げつけてきたのはクラウスの元婚約者であるエバンス侯爵令嬢マリアだ。


エバンス侯爵領はハウゼン公爵領の隣に位置しており、両家はいい関係を築いてきた。彼女は幼馴染みであり、親友である。彼女はクラウスとの婚約解消後、もう一人の幼馴染みであり、初恋の相手であるミラー伯爵家嫡男ローランドと婚約し、来年嫁ぐ予定だ。


婚姻を控え、社交に準備にと忙しいであろう彼女がわざわざ領地までなぜやってきたのかと言えば、どうやら王都の情報を伝えにきてくれたらしい。王城内の詳しいことは分からずとも、人の口に戸は立てられないのだからある程度の情報は漏れ聞こえてくるものだ。そうでなくとも彼女はいちおう関係者なのだ。故に入る情報もあるのだろう。


「ようやくの休暇だもの。たまにはのんびりしたいのよ。」


「それもそうね。今までお疲れ様。

あと婚約おめでとう!幸せになってね。

そういえばこちらにくる前にある家での茶会でミシェル様にお会いしたからご挨拶したのだけど。婚約者殿もご一緒だそうね?今日はいらっしゃらないのね?」


きょろきょろと周囲を見渡すようにしているマリアは可愛いのだが、さすがに隣国の王子が婚約者の友人が来ているのに挨拶もせず、そこいらに落ちているわけはないので、落ち着いて欲しい。


「今日は少し外出しているの。

友人が来ると言ったら、丁度済ませたい用事があるからと街に出かけて行ったわ。

きっと女だけで気晴らしでもしろと気を使ってくれたのね。」


「そう。お優しい方のようで安心したわ。

結婚後は隣国へ?」


「ええ。とは言っても彼は外交を主に担っているから、あちらこちらに足を運ぶ事になると思うわ。」


「なかなか会えない事には変わりないわ。寂しいけど、仕方ないわよね。」


「そうね…。でもお互い、なんだかんだで幸せな結婚ができそうで良かったわ。」


にっこり微笑み合うとティーカップを持ち上げ、口をつける。マリアの方は気に入りの菓子を口に放り込んでいた。しばらくして飲み込むとまた言葉を発する。


「それで、あの件で少し耳に入ったから知らせてみようかなって思ったの。」


「貴女のお眼鏡に適いそうな話題はあった?クラウス様の件?」


クラウス(むっつり根暗)なんかどうでもいいわ。気持ち悪いし。

残念ながら王城内の話はあまり伝わってこないのだけど、あのスペンサー商会はもう終わりね。豪商とは言え身分は平民だから、あの夜会でやらかした数々で商売はもう難しいわ。やらかした場所も良くなかったわよね。目撃者が多いからお金で揉み消せないし、息子は貴族の怒りを買っているし。切ろうにも…ねえ。

あれからお店は閑古鳥。あれじゃ年内保たないわね。」


クリスティーナはあの商会の会頭の顔を思い出す。

一度、変装して店の様子を見に行った事がある。あの時は従業員に怒鳴っていた時だったか…。真っ赤な顔で怒っていた姿は豪商の会頭とは思えぬほどの滑稽な姿だったと、あの光景を思い浮かべる。


「まあ。仕方ないわね。自分たちの教育がなっていなかったのだもの。」


ジョージに関してクリスティーナはその素性と調査結果以上の事をあまり知らない。

彼には幼少期に会ってもいないし、学園では敵視する目でしか見られた事がない。そんな姿を見れば、内心はどうあれ心を隠して駆け引きをし、有益な縁を結ばねばならぬ商人には向かないのは明らかだった。だから、アレは要らないとしか考えた事はない。彼の父親に対してもその評価は同じだった。ただ、あの商会長の妻には価値があった。彼女は表に出ず、夫にバレぬよう裏から手を回していた。しかしそれもやり過ぎてしまったのかもしれない。あのボンクラは上手くいっているのは全て自分の手柄だと思い込んでしまい、色々勝手にやり始め、最近では収拾がつかない状態に陥っていたようだ。妻はある時からあの家から手を引き、実家に帰ったと聞いている。

想定より早い凋落だが、あの家には埋もれさせてしまうには勿体無い事業がある。有望な人材と共に剥ぎ取ってしまおうかなどとクリスティーナは算段を立てようと決める。


「それもそうね。

それとドミナント子爵がついに奥方を離縁して追い出したそうよ。追い出された奥方は行方知れず。

もともと男癖があまり良くなくて困っていらしたそうなのだけど、まさかの末娘も母親そっくりに育ってしまっていたとはと、気落ちされてるそうよ。

子爵家は弟の子に譲って、もともと経営していた商売を本業にするみたい。シエナ嬢の姉君は有能だそうだから、ゆくゆくは婿をとって女会頭になるかも知れないわね。」


あの理知的な瞳と一本筋の通った美しさのある姉君をクリスティーナは思いかべる。深い交流は無いが幾度か話した印象は聡明な方だということ。我儘な母と妹に振り回され続けた彼女は間違いなく優秀で、だからこそ彼女なら成し遂げるだろうと思う。餞に、何か丁度良いものがあれば取引きしておくのもいいかも知れない。


「ああ。そういえばね。

噂なんだけど、どうやら殿下たち、お偉方に存在を忘れられているというか…。いまだに放置されているらしいの。」


「放置?忘れられ?え?未だに地下牢の中なの?」


「ええ。商家の息子とシエナに関しては犯罪の可能性があったから騎士団預かりで、尋問もされているようだけど、それ以外はそうではないでしょう?

それでミシェル様とお会いしたときに、挨拶がてら何かご存知ないか少し伺ってみたの。」



ーーおーっほほほほっ!そりゃあそうなるわね!だって今頃陛下は色々なことに追われていて大変なはずよ。あの世間知らず坊やたちに構ってなどいられないでしょうよ。ほほほっ。



「って高笑いしてたわ。」


「おばあさま…」


一体陛下に何をさせているのか…。つい頭を抱えてしまった。

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