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優雅に踊ってくださいまし  作者: きつね
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王子は踊る

「っか…解消されているだと!?そんな話は聞いておらぬぞ!それが本当なら一体いつの話だ!」


「学園に入って半年ほどした頃ですわ。陛下からは殿下へも解消を伝えたと伺っております。

ただ、周囲への通達はとある事情から一部の高位貴族に限り、その他へは時期を見てと言うことになっておりました。解消した事実を公にする許可は得ておりますが、事情に関しては私の口から申し上げることは許可されておりませんので、後ほど陛下へお聞きくださいませ。」


「そんな馬鹿なことがあるか!父上からそんな話は…!」


「そのように仰られましても、それは私の関知すべきところではございませんわ。

大体、解消されてからもう三年半は経過している上、王族の慣例では双方が学園を卒業した後、割とすぐに婚姻式が行われるものですのに、なぜ未だに準備も行われていないのか、少しは疑問をお持ち下さいませ。」


「つっ…冷たっ!視線が冷ややかすぎて痛い!やめて痛い!

い、いや待て。だ、大体!お、お前が王妃の座を諦める訳がないじゃないか!というか、お前は今年卒業したばかりだろっ!?

シエナへの罪を誤魔化そうと我らを謀ろうとしているのではなかろうな!?」


「どもってますよ、軽石殿下。

卒業は昨年しております。婚約者だと思っていた相手が卒業したことを知らないとか…頭大丈夫ですか?それに貴方の卒業パーティーも私は同伴しておりませんでしょう?一体今更何なのです?」


「…へっ!?昨年…?え、ちょ軽石?」


「そもそも婚約は家同士の契約。目的や思惑などが当主にはあったとしても、当人の意思がそこにないことがほとんどでございましょう?それに婚約の継続に疑義があれば見直されるのは当然です。


大体…私どもの婚約は王家の強い希望によるもので、情勢から見ても当家に利はございませんでした。正直、渋々でしたのよ。

それでも貴族なのだから致し方無しと諦めて、せめて同志程度には良好な関係をと思いましたのに、初回の顔合わせの段階からなんとまあお粗末な事。そのすぐ後に見直しを申し出ました。なかなかご納得頂けず…、ようやく三年半ほど前に条件が揃い、解消されたのです。

そもそもそれまでだって婚約者として最低限の対応のみで、必要以上の交流を持っておりませんでしょう?解消されてからは交流しておりません。なぜ疑問に思わないのか…不思議ですわ…。

解消されたとて、貴方様にとっても都合が宜しいでしょうに…何か問題がありまして?」


「そ、それはそうだが…。というか渋々って何だ…。なぜ俺に一言もない…!」


「それまでの顔合わせを思い出しなさいませ。あの態度を取り続ける方と対話をするのは疲れますわ。なぜ私だけが気遣い続ける前提の対話をしなくてはなりませんの。面倒ですわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

解消後は、婚約者では無い男女が寄り添うのは貴族社会では受け入れられません。それに先程申し上げました通り、解消について知り得た方は限られておりましたの。それについて話したいのならば、周囲に知られることなくお話をする必要がございます。婚約者でもない男女が人目を避けてお話をするなど…到底淑女のすることではございません。まあ話したくもありませんでしたが。」


「え、話したくないとか酷くない?ていうかはっきり言い過ぎじゃない?」


「それにしても…殿下に想い人が現れたところまでは良かったのですが、まさか私を貶めようと計画されているなんて…。貴方のせいで掛かった無駄な時間を考えれば破棄にしてやりたい所でしたのに、愚息のせいで頭を下げる陛下があまりにもお可哀想で、致し方なく解消にして差し上げましたのよ。感謝頂きたいくらいですわ。まあこの茶番劇のせいでその心遣いは無駄になりましたが。」


「無視!?

というか、クリスティーナ、その言い方はなんだ!王家に対する不敬だぞ!

それも貶めるだと!?シエナにしたことを知らぬとは言わせんぞ!」


「ですから名前で呼ぶなと何度言えばわかりますの、この鳥頭殿下。」


「え?え?鳥頭?俺?ねえ?さすがにひどくない?」


「不敬に関してはどうぞご心配なく。()()()()()()()()()()()に、陛下から殿下に言いがかりをつけられた場合には何をしても、何を言っても構わないと承諾を頂いておりますの。不敬には問われませんわ。お生憎様。

それと、そちらのシエナさんに対する行為とは一体どういったことですの?こうして糾弾されるような心当たりはございませんよ。」


「ねえお願い無視しないで…泣きそう…。

っていうか父上…何をしてもって…。いやそうじゃない。

よくもまあ抜け抜けと!平民出の母を持つ事を貶め、身分を笠に着て恫喝し、仲間外れにするように周囲へ仕向けただろう!?持ち物を壊されたり、突き飛ばされたとも聞いているぞ!

私の寵愛を受けるシエナに嫉妬して排除したかったのであろう!?」

「そうです!謝ってください!あたし、辛かったんです!」


「話聞いてました?お花畑殿下。

ついでに発言は許可しておりませんよ、ひよっこ令嬢。少しお黙りになって。黙って居られないなら後で呼びますから、あちらで頭に殻でもつけてピヨピヨ囀っていらして。」


「花畑…」

「ひよっ…!ひぃっ…!


クリスティーナから圧のある視線を感じたシエナは本能的に黙り込んだ。今、声を上げたらヤられると思ったのだ。


「嫉妬なんてするわけがありませんわ。婚約者として大した交流もせず、できるだけ回数を抑えた面会ですら毎回居丈高な態度をとり、遊びに耽って面倒ばかりを引き起こすような方にどうやって恋心を抱けとおっしゃいますの?無理、私、絶対無理ですわ。

それと王妃教育の苛烈さをご存知?殿下より厳しいものでしたわ。アレを乗り越えて王妃になっても多忙を極めるだけですのよ。しかも本来支え合う関係にあるはずの夫予定は色ボケな上に仕事が出来ない、サボり癖もある。無理。なりたくない。無理。

婚約の解消が決まった瞬間は人生で一番の、最っ高の気分でしたの。」


ニッコリと満面の笑みのクリスティーナは満足げにジルベルトを見ている。


「馬鹿にしていることをまったく隠しもしてくれない…。しかも解消が人生で一番…最高の気分…」


「ちなみに人生で一番最低だと思った瞬間は殿下との婚約が調ってしまった時です。次点で婚約を打診された時ですね。」


全力で解消を喜んでいる事が判るクリスティーナの表情と言葉にジルベルトは愕然として絶句し、それまでの発言もあいまってか、彼の真っ青な空色の美しい瞳にはうっすら涙の膜が張っている。

ちなみに観客と言えば、言いたい放題の完璧令嬢と涙目の王子にどん引いている。


「それに嫌がらせの内容も程度が低すぎてどこの幼児ですかという内容ですわ。そんな低俗な嫌がらせを行う者はあの学園にはおりませんよ。もちろん彼女に嫉妬などする者もおりません。どこに嫉妬しろと言うのです。あなた方全員、自意識過剰にも程がありますわ。

それに、もし私が本気で排除したいほどの存在なら、私がそう感じる前に王家がさっさと処分しているはずですわ。私が手を下す必要などないのですよ。

監視がついておりますので、皆さまの言動は筒抜けですもの。良かったですね、処分されなくて。ちょっと一歩手前でしたけれども。」


「監視…処分…

っおいっ、一歩手前はさすがに言い過ぎ……!」


クリスティーナの冷ややかな視線を浴びた王子と側近はその言葉が真実であることを悟る。そして自身の立場の危うさを今更ながら感じ取り、背中にじっとりとした嫌な汗が流れ落ちた。

もう一人の主役であるはずのシエナは、先ほどの威圧に怯えつつ、状況が読み取れないが何だか手を出してはいけないものに手を出した気がして存在を消すのに必死だ。

だとしてもクリスティーナは彼女を放っておく気はさらさらない。


「あら?シエナさん、よくわかっていらっしゃらないようですが、王家の影による監視は貴女にもついていましてよ。

ですので、陛下は貴女の自作自演をご存知ですし、この茶番劇についてもご存知ですわ。うふふ。良かったですね?注目、浴びたかったのでしょう?

あら、お話しになりませんの?ああ、そうね。許可してなかったものね。どうぞシエナさん、お話しになって?」


バターンっ!

恐怖で固まっていたシエナに発言を許した瞬間に響いた音はちょっぴり丸っこい男性が泡を吹いて倒れた音だったようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物語の作りはなんの捻りもないステレオタイプのものだけど、主人公の切り口は新鮮さがあった。 なのにそれを全部台無しにする王子側の言動。 セリフが余りにも能無しでおちゃらけてる風だから、せっかく…
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