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優雅に踊ってくださいまし  作者: きつね
19/37

隣国の王子は令嬢と踊りたい

「さ、王都にはもう用事はないからね。邪魔が入る前にさっさと行こう。」


王城で手続きとご挨拶という名の国王吊し上げ大会が行われていた頃、クリスティーナは王都を離れる準備を進めていた。


「いまから出発すればちょうど良い街に宿が取れるから。僕が手伝える事はある?」


「いえ、あとは離れる事を最低限の方に知らせる手紙を出すだけですから。ゆっくりしていて下さい。」


荷物の支度は侍女たちに任せ、まず正妃様と側妃様に会いたいと言うミシェルの要望を叶えるための手紙を書きあげた。使用人の一人に、正妃様と侍女長へのお礼の品を指定して、購入次第、手紙と共に届けるように指示を出した。

それが済んだら、次は王都を離れる事を知らせておいた方がいい先への手紙を書き、また別の使用人にそれらを届けに行かせた。

出発の手筈がすっかり整ったころ、王城へ行かせた使用人が帰還し、正妃と側妃からの手紙を受け取った。


「お帰りなさい。ありがとう。

まあ。正妃様と側妃様からはもうお返事を頂けたの?ありがたいわ。」


内容を確認し、事前に聞いていた祖母の予定にも合う日を決め、返事を書く。併せて王城にいるであろう祖母宛にそれを託ける手紙を追加した。王城へもう一度行かせることになる使用人を労い、移動中に摘めるようにと御者の分と一緒にお菓子を持たせて見送った。


「上手いこと調整できたのかい?」


いつの間にか書架から本を持ってきていたらしいテオドールが、クリスティーナがひと段落した気配を感じ取ったのか、顔を上げて問いかけてきた。


「ええ。たぶん予定を変えてくださったのだと思うの。申し訳ない事をしたわ…。」


「まあ、あちらも色々あるんだろう。有り難くそうさせて貰えばいいさ。

今頃、大叔母上は王城で暴れてスッキリしている頃かなあ。きっと思い通りの結果を得てくるだろうね。

さあ。準備が済んだなら、そろそろ出発しよう。」


「ええ。

急がせてしまってごめんなさいね。ありがとう。

こちらの事はお願いね。」


残る使用人たちに礼と後のことを頼み、無事に馬車に乗り込めばなぜかテオドールが横に詰めて座る。


「テオ兄さま…?」


はしたないと少し抗議の意を込めて睨めば、肩を竦めてため息をつく。見目のいい男とはこんな仕草も決まって見えるのかとどうでもいい事を考えているとテオドールの腕が自身の腰に絡みついてきた。


「兄さま…。もう少し慎みと言うものを大切にしたいのですが?」


「良いじゃないか。正式な婚約者同士、何も憚る事はないだろう?

そんな事より、そろそろその『兄さま』呼び止めない?」


春の草原のような瞳に少しの熱を孕ませてこちらを見つめるテオドールに頬を染め、思わず目をそらせばさらに強く腰を抱き込まれて、より距離が近づいた。もうキスをしてもおかしくはない距離にいる事に羞恥を感じるが、何とか平常心を取り戻そうと努力する。


が、そんな努力は近づいたテオドールの唇にあっさりと無効化された。

触れるだけのキスをしたかと思えば、すぐに二度目が落ちてきて、三度、四度と、啄むかのようなキスがしばらく続けられる。


そんな数えきれないほどのキスが終わりを迎えた頃には、クリスティーナは首まで真っ赤に染まっていて、その様子を見たテオドールは満足げにうなずいて、耳元に唇を近づけて囁くように言葉を紡ぎ出す。


「もう、こういう事が許される関係になったんだ。

『兄さま』なんて、実に背徳的ではないか?

ああ…それともそう言うのが好き?」


あたふたとしていたところに、背徳感などという聞き捨てならない言葉が耳に入ってきた事で、ぶんぶんと首を横に振って否定する。


「テオ、だ。」


「て、テオ様…」


「テオ。様は要らない。」


「て…テオ…なんだか改めて言うと照れるわ…。」


「可愛いね。私のティナ。ようやく一緒に居られる。これからはずっと一緒だ。」


「はい、テオ。末長くよろしくお願いします。」


顔を見合わせて笑い合う時間が幸せで、どちらからともなくまた顔が近づいていく。啄むようなキスがどんどん深くなっていく。


ようやく宿泊する街に着いた頃にはクリスティーナは息も絶え絶えになっていた。

馬車の扉を開けた変態侍女ニーナはその呼気が上がり、上気する美しい主人を前に思わずゴクリと唾を飲み込んで、思わずテオドールを睨みつけてしまう。


ーーあああああ!女神にっ!女神がぁ!ああああこれに至る過程は!?近距離で見てずるいぃ!


なんていう明後日な事を無表情で考えていた。

ゴクリと唾を飲み込み、足元が覚束ないクリスティーナに手を貸そうとしたが、テオドールがサッと抱き上げて運んでしまう。


大好きな主人の世話を奪われた変態侍女(ニーナ)は、「ぬぬぬ…口惜しや」と恨みがましく思いながらも、「まあ…お嬢様が幸せそうだし、いっか」とぽつりと呟いて、主人と新たな主人予定の後を追うことにした。


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