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第1話

 毎晩毎晩毎晩毎晩隣の男がうるさい。

 もっと言えば隣の男と毎夜変わる女の声がうるさい。壁を抜けてハートマークが飛んでくるようなうるささで殺意さえ芽生えてくる。

 オリビアはベットの下にあるものに手を伸ばしてやめた。駄目よ。私はもうこの件には関わらないって決めたんだから。せめて彼の周りで彼の今を知れたらそれでいい。

 頭から布団をかぶることで音を遮断して無理矢理眠りにつくことにした。

 そうしたところで眠れるはずもなく、朝方になって落ち着いたところで少しばかりの仮眠ができた。重だるさを感じつつも気分転換に空気を吸いたくて家の扉を開けて外に出た時隣から出てきた女性の青い瞳と目があった。

 目があってから視線を足元まで下ろすと再び目まで上がってにこりと笑ったその動きには内臓を掻き毟られたような表現が難しい気持ち悪さがあった。それからその女性は踵を返して廊下を曲がり視界から消えていった。

 あまりの態度に立ち尽くしていると女性が出ていった扉が開き上背の高い男がのそりとあらわれた。

 目元まで前髪が伸びていて顔は確認できなかったが寝ぼけているのか目を擦っている。

「なにやってんの。まだ帰らねえの?」

 ふいにこちらを見た男と目があった。

 答える間も無く引き寄せられ頭部に回された手によって後ろ髪がわずかに下に引っ張られ顔が上を向く。抵抗する間も無く唇が重なった。開いた隙間に舌がねじ込まれて驚いて口を閉じると歯が男の舌に当たって口の中に鉄の味が広がる。男は慌てて舌をしまって唇を離すと口元を手で覆っていた。

「……いってぇな。なにするんだ」

「それはこっちのセリフよ。いきなり人の唇を奪うなんてどういう了見?」男の身体を両手で突っ返す。

 男がたたらを踏んで踏みとどまってから顔つき悪くこちらをのぞきこむと「あーなんだお前ちがう女か」と悪びれもなく口にした。さらにはあくびを噛み殺してなにごともなかったように扉に鍵をかけると背を向けて廊下を歩いていく。男の背中を見送りそうになって慌てて追いかける。って追いかけてどうすんのよ。今のを謝ってって? そんなのまるで彼としたことを気にしているようで嫌だしもし口にしたとしても私は彼の中のその他大勢の女性に分類される気がしてそれは嫌だった。

 男の少し後ろをはなれて着いていく。

 近くの自販機で煙草を買ってから振り返った男が隣を通り過ぎた時腕を掴まれて足を止めた。

「あんた、さっきの人?」

「は?」

「においが同じだ」

 彼の指し示すことがわかり答える。

「もしかして隣に住んでる?」

「……そうですけど」

 男は少し考えるような仕草をしてから

「悪いけど少し付き合ってくんない?」

「嫌です」

「悪いけど」

「嫌です」

 男の言葉にかぶせて拒否を示す。

「お隣のよしみで」

「私とあなたの関係はそれだけです」

 掴まれた腕を振り払って歩き出した背に声がかかる。

「いいの?」

 無視無視。これ以上関わっちゃ駄目。

「あんたのベットの下に隠してるものを誰かに話しても」

 決意した心を捨てて男のにやりと笑った顔と対峙する。

「あなたどこでそれを」男と距離を縮め詰め寄る。

「さあ。なんとなく」

 一瞬、男が思い出したのかと思ったがへらへらと笑った顔をみるにどうやらそうではないようで襟口から手を離した。

「……あんた名前は?」

「あなたには教えたくない」

 別に隠す程のものでもないのに口をついて出たのは可愛げの無い言葉だった。

「ふぅん」まあじっくり知っていけばいいか。とひとり答えて手を掴まれる。

「じゃあ帰るぞ」

 男はそのまま来た道を戻るように歩き出したので踏みとどまろうとするも力の差は明らかで止まることはない。

「鍵」

 あっという間に家の前へと戻ってくると男が空いた手を差し出した。

「は?」

「開けろ」

「嫌よ。あなたの家はあっちでしょ」

 隣の青色の扉を指す。

「俺はあんたの部屋がいい」

「私は嫌。知りもしない人を家にあげるなんて」

「もう俺ら知り合いだろ。それに俺はあんたをもっと知りたい」

「私は結構です」

 きつく言い放って腕をはたき落とす。

 その隙に家の中に入り込んで鍵を閉めた。

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