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女子高生は神ですか?  作者: 瀬野 或
#0.序章
2/3

#1.力を欲しますか?[2]


 再び、車の走行音と蝉の鳴き声だけの世界になる。


「そろそろいいか」


 隆平は立ち上がり、下を見た。


 路地裏というだけあり、室外機やゴミ箱しかない。人通りもなく、ここから身を投げても他人を巻き込む心配はないだろう。


「二十五年間、お疲れさん。痛みに耐えて、よく頑張りましたとさ」


 吹かない風を待っていたところで、吹かないのだから無意味だ。隆平は目を閉じて、重力に逆らうことなくゆっくりと体を傾ける──しかし、一向に衝撃はやってこなかった。まるで時が止まっているかのような感覚に、隆平は恐る恐る目を開く。


 ──え?


 隆平の体は、宙に浮いていた。


 気がつけば都会の喧騒も、夏の音も消えている。


 隆平は体を動かそうと試みたが、指の一本たりとも動かすことができなかった。


 体が宙に浮くとは、どういう原理なのだろう。


 物理法則は完全に無視されている。


 世の中には常識では考えられないことが起こるというけれど、さすがにこれはファンタジー極まっていて現実味がない。


 ──ああそうか、これはきっと夢だ。


 フェンスを乗り越えたその先で、うっかり眠ってしまった。


 そう結論に至った隆平は、非常識な場所でも眠れてしまうくらい疲れていた、と結論を出した。


 ならば目を覚ましてもう一度飛び込もう、と目を思いっきり閉じて開いてみるけれど、何度繰り返しても見える光景は路地裏と、前方に広がる都会の風景だけ。


 これはいよいよ頭までおかしくなったかと思い始めて、最後の一回と目を閉じ、ゆっくりと目を開く……と、見上げた角度の先に、夏用の制服を着たデッキブラシに跨っている女子高生が、そこに居た。



 

「力が欲しいか?」


 ──は?


「汝、力が欲しいかと訊いている」


 デッキブラシに跨ってホバリングする謎の女子高生に、力が欲しいかと問われた。しかも〈汝〉なんて呼ばれ方、現代では絶対にあり得ないだろう。可愛らしいアニメ声ではあるが、とても偉そうな態度が鼻につく。


 なるほど、やはり夢だ。


 そう結論に至るまで何度か疑うところもあったが、隆平は謎のデッキブラシ少女の登場で確信に至った。


 というか、どうしてデッキブラシに跨っているのか。魔女と言えば竹箒が鉄板であるのに。


 こういうところが妙に現代らしいアレンジなのが、自分の想像力の乏しさが顕著になってしまった、と心の中で失笑した。


「う、うるさいなあ! 近くにあった手頃な長物が、デッキブラシと虎棒しかなかったんだよう!」


 虎棒とは、黒と黄色の螺旋が塗装されていて、主に交通整理や進入禁止の際にカラーコーンと一緒に使われるプラスチックの棒のことだが、デッキブラシと虎棒の二択を迫られる場所というのは、皆目見当が付かない。


 いや、その前に……この女子高生は、俺の心の声を読んでいる?


 半信半疑である隆平を嘲笑うような自慢声で「その通りだよ。豊島隆平!」と、語ってもいない自分の名前すらも言い当てた。


「なぜ俺の名前まで? と思ったでしょう?」


 返事はせず、瞬き一つで返事とした。


「それだけじゃないよ? あたしはなんでも知ってる。豊島隆平の生い立ちすべてをね!」


 自分の位置からでは彼女の顔を確認できないが、両手をデッキブラシの柄部分から離し、腰に当てているのだけは見えた。ドヤ顔でも披露しているのだろう。


 自分の生い立ちを全て把握している女子高生というのも気味が悪い。


「失礼な。あたしはこれでもちゃんと女子高生だよ! 『女子高生なう』って呟くらい女子高生だもん!」


 女子高生が他人に対して汝と呼んだり、女子高生なうと呟くかはわからないけれど、少なくとも、現代の女子高生はデッキブラシに跨ってホバリングしないし、語尾に「だもん」って付けるとは思えない。


「まだ疑ってる!? じゃあ、顔を見ればわかるよね!」


 そう言って、デッキブラシ少女は高度を下げる。


「ほら! あたし若いじゃん!」


 目と鼻の先まで近づかれても、見えるのは目と鼻だけだ。


「豊島隆平は注文が多いね。なに? 宮沢賢治なの?」


 宮沢賢治が注文が多いのではなく、宮沢賢治の作品にそういうレストランがあるということを、この女子高生は知らないのだろうか。という冷静なツッコミができるくらいには、隆平の心は平常心を取り戻しつつある。それもこれも、益体なさそうに語りかけてくるデッキブラシ少女のおかげかと思うと、コミュニケーションが如何に大切かを隆平は実感していた。


「ほら、離れたよ。これでわかった?」


 綺麗な長い黒髪に、くりっとした大きな目。小ぶりな鼻に、薄い唇。化粧をしているとは思えないナチュラルメイクは、彼女の整った顔立ちをより引き立てていた。〈絵に描いたような美少女〉とは、こういう子を指すのだろう。


「ほ、褒めすぎ……」


 それだけに、どうしてこの子がデッキブラシに跨って宙を飛び、自殺を試みている途中の自分に声をかけたのかがわからない。


 ただ、この状況を作り出したのが目の前にいる少女だということは理解できた。



 

 読んで頂きまして誠にありがとうございます。

 ブックマークなどもよろしくお願いします。(=ω=)ノ

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