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反響

 俺も皿に置かれたケロリーメルトのメープルシロップ味をつまみ上げ、一口食べた。

 ……うん、別に異世界に持ち込んだからといって味が変わるわけでもなく、普通に甘く、口の中に香りが広がる。

 おいしいと言えばおいしいが、本格的なスイーツというわけでもないのだが……。


 ティーカップに注がれた紅茶を口にすると、うん、こちらは香りがよくて、良い茶葉を使っているように思えた。

 ただ、ちょっと苦みが強いので、砂糖を入れようとしてそれが添えられていないことに気づく。

 その代わりに、琥珀色の小瓶が置かれている。


「……えっと、この小さな瓶の中に入っているのは何ですか?」


「ああ、それはハチミツじゃ。もし紅茶が苦いと思ったら、好みでそれを入れるといいじゃろう」


「なるほど、ハチミツなんですね。砂糖は置いていないんですか?」


 さらりと俺がそう言うと、全員、ちょっと驚いたようにこっちを見た。


「……ショウ殿、ひょっとしてそちらの世界では、砂糖は簡単に手に入るものなのですかな?」


 アイゼンが、興味深そうに聞いてきた。


「えっと、はい、誰でも近所のお店で簡単に買えますが……ひょっとしてこちらでは貴重なのですか?」


 この俺の発言に、ミクを除く全員が顔を見合わせて苦笑いした。


「……皆、聞いたじゃろう? 彼の世界と、我々の世界では、砂糖一つとってもこれだけ価値観が違うのじゃ。おそらく、この焼き菓子にも砂糖がふんだんにつかわれているのじゃろう……ショウ殿、こちらの世界では、砂糖は同じ重さの金よりもずっと貴重なものじゃ……もっとも、金もそちらの世界ではありふれた物かもしれんがな」


 それを聞いて、さすがに俺もその価値を理解して驚いた。


「いえ、とんでもない! 金はとても貴重です! 砂糖の千倍……いや、一万倍は!」


 気軽に「砂糖ないですか?」と聞いてしまった俺の、必死の弁明に、またミク以外は苦笑した。

 っていうか、ミクはあまり笑わないな……。


「……今話した通り、ショウ殿の世界の話はとても興味深い。儂は彼を客人として迎え、彼の地のさまざまな話を時間をかけて聞いていきたいと思っておる。皆、異論はないな?」


「勿論です! 私、いろいろお話聞きたいです! あと、異世界のもっといろんなもの、食べてみたいです!」


 シルヴィのその言葉に、また笑いが起こる。


「……まあ、私もアイゼン様が決めたことに異論などございません。私も異世界の魔法には興味があります」


 ソフィアの言う魔法っていうのは、さっき見せたスマホの写真のことだろうな。


「……承知しました」


 ミクはちょっと困り顔に見えたが……ほとんどずっとこの表情だし、ひょっとしてこれがデフォルトなのかな?


「……うむ。ただ、そうするとショウ殿には相応の礼をせねばならない。なにか望みのものはありますかの?」


「……いえ、こちらの世界のいかなる物も、俺たちの世界には持ち込めない決まりとなっています。なので、俺としてもこちらの世界の話だけで十分……いや、さっき見せた、この道具で撮った絵……『画像』は持ち込めるので、いろんな風景や人物などを写させてもらえればそれで充分です」


「ほう……では、我々にもそちらの世界の『画像』を見せていただいてよろしいかのう?」


「はい、もちろん!」


 うん、やり取りするのは情報と画像のみ。ギブアンドテイクだ。


「えっと、あの……私は、異世界のお菓子、もっと食べてみたいです……あと、砂糖も簡単に手に入るなら……」


 シルヴィが、ちょっと遠慮がちに耳を動かしながら尋ねてきた。


「もちろん……それも……あ、そういや、食べる分には大丈夫だけど、持ち込んだものは向こうに帰るときに持って帰らないといけないんだった。砂糖はその場で料理に使って食べる分には問題ないけど、取り置きはできないんだ」


「そうなんですか? うん、でも、その場で食べられるんだったらそれだけで幸せです!」


 彼女の素直な言葉に、また笑いが起きた。

 なんだかんだで、結構みんなと打ち解けてきて話が弾んでいく。


 一番興味を持ってくれたのは、我々の世界では、何十年も前に月に到達している、ということだった。

 あんなところに行けるなど、どれほどの魔法を使ったのかと問われたが、そこは一国、いや、人類すべての英知を結集して、莫大な予算を費やしてようやく実現したとだけ説明した。


 また、月にはどんな生き物が居るのかと聞かれたが、岩だらけでネズミ一匹いなかったと話すと、がっかりされた……ただし、この世界の月はまた別ものかもしれないと期待を持たせた。


 さらに、あちらの世界、こちらの世界というのは分かりにくいので、国の名前で話そうということになり、自分の故郷を「ニホン」と教え、そしてこの館のある国の名は「リエージェ」であると教えられた。


 話をするだけで楽しい時間を過ごせたのだが、ただ唯一、メイドのミクが全く笑顔を見せないことが気がかりだった……塩対応なのかな?


 だいぶ時間が過ぎ、日も傾いてきたので、一旦元の世界に帰ることにした。

 食事も出してくれるという話だったが、今日はまだ初日。

 ゲートが前触れもなくいきなり閉じられたりすることはないと思うが、夜までそのままにしておくのは、大丈夫かな、と気になった。


 全員に見送られながら、地下室のゲートから自分の部屋に戻る。


「お帰りニャ。今度は結構長居したみたいだニャ」


 トゥエルがニコニコと微笑みながら話しかけてくる……ネコのくせに。

 いや、神の化身様だったな……敬語を使う気にはなれないが(フレンドリー、という意味で)。


「ああ、とても楽しい時間を過ごせたよ。今後が楽しみだ、ありがとう。忘れないうちに、向こうの風景とかアップしておくかな……」


 いつもの習慣で、気軽にトゥイッターを開いたのだが……。


「……な、なんだこのメッセージの量……リツイート……5000!?」


 それは、俺が気軽に載せた、いや、載せてしまった、剣を構えたエルフの美少女、ソフィアの写真に対する反響だった――。

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