第十話 友達と仲直りする方法
俺たちはあのまま宿で一夜を過ごし、街の風景を見に大通りを只々歩いていた。
あれからターナとの仲が悪い。
というか、言葉さえ交わしてくれない。
本当に俺、何した?
ターナが嫌がる事なんてしたか?
考えては見るものの、それは全て堂々巡りで、結局は分からず仕舞いだ。
それをそのまま聞いてみたりもしたが、
「貴様に話す事などない」
と、鋭い目で睨んで俺を「貴様」呼ばわりだ。
これでターナとの関係が破綻、なんて、俺は嫌だ……!
ふと、ターナは立ち止まって、あらぬ方向を見ていた。
そこは、噴水が置いてあるほどの大きな図書館だった。
「ターナ、行きたいの?」
「……貴様と話す事は何も……」
俺はターナに顔を近付けて言った。
「行きたいの?」
すると、ターナの勢いも弱まり、俺から顔を背ける程に弱々しくなった。
「……はい」
「じゃあ行こう!」
そう言って俺は、ターナの腕を引っ張って図書館へ連れ行った。
無理矢理は駄目だ。少しずつ関係を改善していかなくちゃ!
そうして図書館へ入ると、そこは大量の書物で満たされていた。
まぁ、魔界ほどの本の量ではないかな。
「ターナ、なんか見たいの……」
ふと居ないことに気づき、咄嗟に辺りに目を向けると、ターナは何かの本を取り出して見ていた。
俺はターナに近付く。
「何読んでるの?」
「ひゃっ!!」
ターナは驚き過ぎたのか、図書館の天井辺りまで飛び跳ねた。
少しの間着地まで目を惹かれていたが、地面に着くとターナは本を持ったまま颯爽と図書館を出て行ってしまった。
魔法まで咄嗟に使っちゃうって、どんだけ警戒してんだよ……。
俺はターナが読んでいた本棚に目を向ける。
そこには、ここから取ったらしい本が取られた形跡があった。
ここ、何の本があったんだろ……。
その形跡を少し眺めると、俺の視線は隣の本に移った。
「………! こ、これは……!」
それには、「友達と仲直りする方法」と大々的に書いてあった。
なんということだろう。これは神の思し召しか……。
神に仇なす魔族の癖に俺はそう思った。
しかし、これがあれば、ターナとの関係も寄りを戻せる!
「よーし、やってやるぞー!」
すると、眼鏡をかけたお婆ちゃん、基、図書館の受付の人が近付いてきた。
「あんたさっきからごちゃごちゃごちゃごちゃ、うっせぇんだよ! 少しは黙ることを知れ!」
何このお婆ちゃん口悪っ!
あぁ、大変な目に遭った。
思い出すとまた肩を落としてしまう。
床掃除、本棚の掃除、子供への本の読み聞かせ、沢山仕事出されたな。全部魔法で解決したけど。
しかもあの本、結局読めなかった……。
図書館を出ると、直ぐに目に入ったのは階段で本を読み続けるターナだった。
「ターナ!」
ターナも振り返って俺を見た。
「……待ってくれてたの?」
「……違う」
簡単にそう言い放った。
そうですか、違いますか……。
少し心に傷を負っていると、ターナは立ち上がって歩き始めた。
「我は気分が悪い。少し付き合って貰うぞ」
振り返ってそう言った。俺もターナに着いていく。
「……で、どこ行くの?」
するとターナは、人差し指で指し示した。
「あれじゃ」
そこの店の看板では、「ゲームセンター」と記してあった。
「あれ?」
「そうあれ」
「……そう…」
…………………
「オラッ! オラッ!」
ターナはマレットを盤上に擦り付け、パックを勢い良く飛ばす。
それは上手くゴールに入り、俺は手も足も出ない。
いつの間にか、盤上に取り付けられたモニターから、俺の敗北が決定された。
「やった! 勝ったのじゃ! カロスも褒め……」
ターナは勝利を嬉々としているが、突然黙り込んでしまった。
「……? どうかした?」
「……いや、なんでもない。次に行こうぞ!」
ターナはそう言って、また俺の横へ来た。
やっぱり、謝れないと気まずいな。
よしここは、男の俺から謝るしか……ない!
「「あの……!」」
………!
言葉が被さり、またもや気まずい雰囲気になる。
「つ、次はあれじゃ! あれやろうぞ!」
ターナは少しでも雰囲気を変えようと、そう言って指さした。
その方向には、パンチングマシーンと言われるものがあった。
うん、あれを選ぶこと自体、相当男らしいよな……て、やべっ!……あれ?
俺はふとそう思ってしまったが、ターナの心理眼を思い出し焦る。だが、ターナは何も反応しなかった。
確か心理眼は、術者の心境次第で誤作動が起きるらしい。もしかしたら今ターナは、病気だったりしているのかもしれない。
俺はターナの額をすっと触った。
「……!」
ターナはすぐ反応し、遠ざかってしまった。
「あ、ごめん。ターナ、熱があるんじゃないかと思ってさ」
すると、ターナは首を傾げて聞いた。
「…? 何故じゃ?」
俺は直ぐに自分の言動が言ってはいけなかったことに気がついた。
ターナを心の中で酷く思ったなんて言えないよ!! どうしよう!!
「……まぁいい」
俺は悩むも、ターナはくすりと笑い、どうでもいいようだった。
「今日は二人だけの日じゃ。沢山楽しもうぞ!」
その時のターナの笑顔は、俺に綺麗と思わせる程の素晴らしいものだった。