第一話 界外留学へ行ってもらう
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かつて、剣と魔法の世界で、一つの争いがあった。
その争いは、一人の人間と一人の魔人の戦いという、聞くだけでは些細に聞こえるが、その実、どんな戦争よりも遥かに凄絶な争いだった。
人間は、仲間の為、自分達一種族の為に。
魔人は、配下や手下の為、魔人族の存続を賭けて戦った。
だが、その争いに決着が着くことはなかった……。
その後、それぞれ人間は勇者と呼ばれ、人間の象徴となり、魔人は魔王と呼ばれ、魔人の指導者となった。
そして人間族と魔人族の争いは、二千年経った今尚、続いている_____。
「幹部様! 魔王様からご報告です! 明日、魔王議会で会議があるとのご報告です!」
甲冑を身に付けた男が目を向ける先には、高価な椅子に腰掛ける少年がいた。
少年と男は頭に二本の巻角を生やしており、二人が魔人であることを証明している。
「ん、分かりました。報告ありがとうございます。…あと、「幹部様」って言うのやめて貰えますか? 年上が年下に敬語って言うのも何ですし……」
「いえ! 幹部の《魔紋》は我ら兵士にとっても憧れ! それを若くして手に入れたことを、惜しむ必要などありません!」
「…分かりました。もう下がっていいですよ」
少年は諦めて、苦笑いで兵士を送り出した。
「はっ! 失礼します!」
男は静かに扉を閉め、その場を立ち去った。
「……《魔紋》かぁ……」
男に幹部と呼ばれた少年、カロスティオは、自分の右手甲に刻まれた《魔紋》を見つめた。
《魔紋》というのは、魔人特有に現れる自分の魔力を具現化したものである。
そこには、自分の魔力量から使える属性まで見て取れる。
更に、その魔紋は形を変えられることが最近判明したのだ。
だが、変えるには相当な労力と資源が必要、なので、国の重要人物、つまり幹部か、それ以上の階級じゃないとまずして貰うことも出来ない。
勿論、カロスも《魔紋》を変更している。
魔人族の階級は、身体的、魔力的な強さで判定される。
そこには貴族も平民も関係なく、強ければ一国の王にもなれる。
と言っても、その強さを多く保有しているのが貴族なのだが。
カロスは十六という若さで幹部の称号と《魔紋》で手に入れたのだが、それ以上の重圧が乗せられていた。
(ベリオロス様からかぁ、あの人怖いからなぁ。俺、なんか悪いことしたっけな)
魔王議会は、魔王であるベリオロスと、幹部七人、通称《七大罪》だけが入れる崇高な場だ。
その空気は重く、カロスはそれを痛いとも思ってしまうほどだった。
それも仕方ない。
話すことは全て、人間族の侵略なのだから。
(あぁ、行きたくない。そもそも十六歳にこんなこと任せること自体が間違ってる。他の幹部達は全員五百歳越えてて、ベリオロス様なんて二千歳だぞ!?)
そう、魔人族は人間族と比べると圧倒的長寿! 長い人は三千歳位まで生きる。
そんな些細な部分でも、カロスには重りを乗せてしまう。
カロスは、机に山積みだった資料の山を片付けると、幹部室を後にした。
(……仕方ない。怒られるんなら怒られよう)
カロスはその日、不安な気持ちで床に着いた。________
カロスは勢いよく扉を開いた。
「すみません! 遅れてしまいました!」
そこでは魔王と幹部が七人、円卓を囲み、一つ席を空けて座っていた。
「遅い。貴様は自分の立場を弁えろ。遅刻などしていい立場ではないだろう」
眼鏡をかけ、堅苦しそうなイメージの男が、案の定カロスにキツい言葉を浴びせた。
「す、すみません……」
(正確にはまだ開始一分前なんだけど……)
「おいおいドリュー、そこまで坊主に当たるこたぁねぇだろ。まだ始まっても無いんだぜ?」
隣に座っていたアクセサリを大量に身につけた男が、ドリューの肩に腕を通した。
「何を言う。始まっていては遅すぎるだろう。あと触るなジーン」
「ちぇっ」
ジーンと呼ばれる男が、拗ねて口を尖らせるのを見届けてから自分の席に座った。
「では揃ったことだ。もう始めてしまおう」
すると、一瞬で魔王ベリオロスの元へ視線が寄せられた。
「……魔王会議を」
魔王ベリオロスは、そう言うだけで周りに圧力を与えた。
まるで、自分に殺気が発せられているような気分になる。
魔王ベリオロスがさり気なく出している手には、グローブが付けられていた。
普通、《魔紋》の大きく、色鮮やかな《魔紋》を持っている幹部レベルの人達は、惜しみなく自分の《魔紋》をさらけ出すのだが、ベリオロスではそうもいかない。
カロスが聞いた噂では、魔王ベリオロスの《魔紋》は、掌全体に行き渡っているらしい。
それを歪だと言われ、それからグローブをはめるようになったとか。
(やっぱり、魔王様は恐ろしい位に凄い……!)
「まずは活動報告から行こうか」
「はい! では私から行かせて貰います!」
まずは活発そうな女性から、活動報告を始めた。
だが意外にも、その文章は長かった。一人が全て述べてしまうのに、三十分は要する程だ。
そんな中、カロスには焦りが見えてくる。
(あれ、俺の文章短すぎない?)
その文章は、長くて五分で読み切ってしまいそうな、こんな場所では読むことさえ困難なものだった。
(いやどうしよう!? 俺こんなの読んだら殺される! てか、俺怠けてたつもりないよ!? なんでこんなことになってんの!?)
「次、カロスティオ」
「は、はい!」
カロスは名前を呼ばれ、反射的に立ち上がってしまった。
(くそ、もうやけクソだ!)
「えっと、まず2日に、アシュリー国が干ばつに苦しんでいるという報告があったので、兵を動員させて見てきました。原因はダークワームの水分の過剰摂取のようです……」
(うわ、みんな俺を見てる……魔王様すら、俺を見てる……なんか、全然集中できない)
「次に5日に、デイモン村の人口が大幅に減少しているという話を聞いたので出向いたら、バーサクウルフが住民を食糧にしていました。巣から魔人の巻角が発見されたので間違いありません……」
そうして、カロスは十分程度で文章を読み切った。
(出来るだけペース落として時間を長くしたけど、反応はどうかな……やっぱ怒られるかな)
「これで活動報告を終わります」
軽く礼をして座るが、その目は周りの上司達を捉えていた。
すると、周りから拍手が巻上がる。
(……え……?)
「初めてにしては上出来だったぜ! 坊主!」
ジーンが満面の笑みでそう言ってくれた。
「ふっ、まぁ良かったぞ」
ドリューが落ち着いた声で言った。
「ドリュー、お前初めての頃は坊主より挙動不審にしてた癖によくそんな事言えるよな」
ジーンがニヤニヤしながらドリューに言った。
「なっ!」
ドリューがジーンを見てはっとすると、睨み付ける。
「ジーン、お前もカロスティオの半分ほどしか活動報告書けてなかったじゃないか」
ジーンも、それを聞くとむっとしてしまった。
そこから二人の言い争いが始まったが、カロスはそっと胸を撫で下ろした。
(そっか、これが普通なんだ……)
「皆、ここに集まった理由をカロスティオ以外は分かっていることだろうと思う」
ベリオロスが皆の顔を伺いながら言った。
(え、俺以外?)
カロスもまた皆の顔を伺うが、全員その状況を理解しているようだ。
(一体、何なんだろう?)
「恒例のあれだ。カロスティオ」
「は、はい!」
カロスはベリオロスに呼ばれ、また立ち上がりそうになる腰を抑える。
「お前には人間界へ、いわゆる界外留学に行ってもらう」
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