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縁結師の異世界道中  作者: 櫻木 きりあ
2/2

2本目:初エンカウント。






ハロー、ハロー、聞こえますか。


ちなみに俺は今、何も聞こえません。




いくら声を出しても叫んでも歌っても聞こえない。

聞こえないどころか暗闇で何も見えない。

自分の手足も見えないから転移対策ノートも見えやしない。


穴に落ちて一瞬意識が飛んだがすぐ戻った。最初こそ落ちる速度を感じていたが次第に緩やかになり、そして現在はふわふわと漂っている感覚のみ。




おいおいおい、異世界転移したらナビゲーター的な存在が居るんじゃなかったのか。聞いてないぞこの暗闇放置プレイ。暗闇恐怖症じゃなくて良かった、が、普通に不安が増して来る。




本当にこれは異世界転移、なのか。


脱水症とか熱中症で倒れたんじゃないのか。



暗闇というのは不安を容易く増殖させていく。

なんでもいい、とにかくこの無の状況をなんとかして欲しい。誰か!はよ!!





《___思念解析・同調成功。これより”世界樹(トネリコ)”との相互アクセス権、並びに第五等級管理者権限を付与。初期セットアップを開始します。5、4、……》





突如頭の中に響く抑揚の無い音声。そうそうこれだよ、こんな感じのを求めていた、と思う間もなく。




《……1、開始》


「え、」



突然頭の中が膨大な渦にかき回される、としか表現出来ない衝撃を食らって、俺は、再度、意識を手放した。








────────



────


──



「………う、……」



少し冷たい風が頬を撫でる感触に、俺の意識は浮上した。

閉じていた瞼を開けるとそこは一面の緑色。ズレた眼鏡を直して見えるは大草原。


それはいい。それはまあ良いんだが……。




「えっ」




なんか囲まれてる。


どうやら俺は木の根元に寄り掛かり座っているらしい。その5m程離れた周りを猪みたいな獣にぐるりと囲まれている。その数およそ10匹程か。

みたいな、というのは他でもない、その獣にでっかい角が生えていたからだ。俺の知っている猪ではない。なんだあれ。



《開示要求:可決。情報を表示します》


先程響いた音声と同じ音声が響いた、と同時に目の前に半透明の四角いウィンドウが開く。そこに浮かぶ文字列は以下の通り。


__________


▼ イノサイ

Fランク

HP:250/250

MP:150/150


技: 突進 / 砂蹴り / 噛み付き / 頭突き

素材: 毛皮 / 角 / 牙


__________




………どこからツッコむべきなんだ。



なんで謎の音声と会話出来てんだ。

何だこのゲーム風ウィンドウ。

絶対名付け親日本人だろこれ。

Fランクは強いのか弱いのか。



《開示要求:不可。第五等級管理者の同時開示要求は2項目までです》


制限付きかよ……。


じゃあ、───……そうだな。




あの鼻息荒くいつでも襲いかかれますよーみたいなモーションしてるイノサイ達と戦わなくちゃいけない流れか?


《開示要求:可決。周囲のイノサイとの戦闘は強制ではありません》



強制ではないのか。

じゃあ戦わなくても逃げられるんだな!


《開示要求:可決。現在の貴方様の能力値を元に逃避行動の完遂確率を算出。0.3%》


れーてんさんぱーせんと。

駄目じゃん。かなりの確率で死ぬじゃん。あ、でもここで死んでも現実では死なねぇのかな。


《開示要求:可決。貴方様の身体は現時点で一つだけです》


デスヨネー。



じわじわと狭くなる包囲網を見ながら必死に頭を働かせる。

どうすれば良い。どうすれば取り敢えずこの場を凌げるか。教えて偉い人。



《開示要求:一部可決。現在この場には貴方様より上位種は不在です》


どういう事だ。いやそれよりも今聞きたいのはそういう事じゃない。

コミュニケーションに難があるぞこの音声。



今まで待ってくれた事がそもそも奇跡なのだろう。

イノサイ達の、様子を伺うような目線は既に戦闘モードだ。とにかくここを切り抜けないと聞きたいことも聞けやしない。

何か良い方法は無いのか。


《開示要求:一部否決。遂行方針概要の入力を》


そんなのこんな危機と縁が無かったんだからわかる訳無いだろ!!!



そんな問答をする間にもじりじりと獣達は輪を縮めてくる。

死ぬ。そんな二文字が頭をよぎる。



《開示要求:可決。最適な能力付与に入ります》



はよしてくれ!



そんな事を脳内で叫んだ瞬間、目の前の一頭が地を蹴りこちらに駆け出す!


それは速い筈なのに、何故か、ゆっくりと見えて。



こんな訳分からん世界なのか異世界とやらは!

と叫ぶ声すら喉奥に凍りついて発されることは無い。



あまりの恐怖に足は動かず、瞼はきつく閉ざされる。眼前に迫り来るイノサイの鼻息があたりそうな、そんな距離まで近付いて来たその時。






《付与実行:完了》











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