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 雨が降っていた。その雨の中、傘もささずに佇む女がいた。

 仮に彼女をXとしよう。それは数学的慣習によるものであるけれど、彼女は名付けられたことで一つの求められるべき存在となった。

 僕はその女を見ながら、まったく別のことを考えていた。それは主に昨日観た映画についてのことだったが、その記憶に動機づけられる形で、自分のファーストキスのことについても考えたりした。

 その記憶は言葉の甘い響きに反して、いくらか胸の痛みをともなうものであった。

 僕が彼女にキスをしたとき、僕は彼女を愛していると信じていたし、彼女もまた僕を愛していると信じていた。ただ残念なことに、彼女には僕よりも愛しい人がいた。そして彼女はそのことを上手く隠していると思いこんでいたが、僕には筒抜けだったのである。

 あの日の雨に、今日の雨は少し似ていた。それは現象レベルでの類似ではなく、原子レベルでのそれのような気がした。つまり、まったくの偶然(あるいは奇跡といってもよい)により、あの日の雨が、また今日巡り巡って空から落ちたのである。

 女はただ立ち尽くし、僕はそれを見ている。女の周りに人影はもちろんなく、もはやこの世界には僕と女しかいないのではないかという恐怖さえ感じる。もし世界に二人しかいなかったら、僕は彼女に何と話しかければ良いのだろうか。Xと名付けられた事実に、女は何と言うだろう。

 無抵抗に降る雨に、佇む女。彼女を見る僕は、さまざまなどうでもよいことに思いを巡らし、最も本質的な問題への解答を避けている。それはつまり、女が何を思っているのかということだ。女はなぜ雨に打たれているのか。なぜ傘を差さないのか。なぜここに立ち尽くしているのか。

 考えるにはあまりに情報が少なすぎるし、僕の能力的な限界もある。

 ただ一つ言えること。それは一般的にもそうであるし、このような特殊な場合でも成り立つものであると僕は信じている。

 それは、雨の中の人間が、泣いているかどうかを判断することは酷く難しいということである。





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