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月が照らした海辺を歩く

 悲しいんだったら、泣いてしまえばいいのに。

 僕の目の前に現れた少女はそう言った。少女と言っても僕と大してかわりはしない。中学生くらいだろうか。

 僕は少女に言われて初めて、自分が悲しんでいることに気がついた。けれど、どうして悲しんでいるのかまったくわからなかった。

 夜の波の音がする。

 悲しみの理由なんていくらでもあると思う。例えば大切な人の死。例えば抱き続けた夢の喪失。例えば。

 僕が悲しんでいるのは、そのすべてが原因のような気もしたけれど、そんなことはあり得ないのだ。何か、僕が悲しんでいる理由があるはずなのだ。けれどそれが何なのか、わからないでいる。

 少女は歩き出した。微かに光る海に沿って、彼女はゆっくりと歩く。僕はどうすればよいかわからなかったので、彼女についていくことにした。彼女の長くきれいな髪が揺れる。空には満月が輝いていた。僕たちは普段何気なく月を見ている。けれどときどき、無性に月に意識が引き寄せられてしまうことがある。そんなときはたいてい、誰かの助けを欲している。そんなような話を、僕は本で読んだことがあった。

 助けを欲していると言えば、彼女はどうしているだろうか。

 僕は三年ほど付き合っていた女の子の顔を思い浮かべた。どうしてだか、楽しそうな表情の彼女だけが思い出される。そういう表情を浮かべていたのはほんのひとときだったはずなのに。実際の彼女はもっと痛切に誰かの助けを必要としていた。そういう表情をしていた。僕がそれに気づいたのは、別れてから一カ月近く経った朝のことである。

 誰かが叫ぶ声がした。本当に誰かが叫んだのかもしれないし、それは僕の幻聴だったのかもしれない。

 気付くと少女は消えていた。暗い夜の海岸に、僕はまた一人ぼっちになった。



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