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プァーン! パパパーン!
よく晴れた青空にファンファーレが響いた。
「おおっ…何とも美しい花嫁ですなぁ。」
参列者の中から感嘆の声があがる中、でっぷりと肥えた初老の男が少女の手を引きながらのそのそと歩いて来た。
「これ、花嫁が下を向いてどうする。その美しい顔を皆によく見せてやらんか。」
「は、はい…」
ルシアは悲しげな表情のままゆっくりと顔を上げる。
「ダレスさま……」
もう二度と逢えぬであろう想い人の名を呟くルシア。頬から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「おぅおぅ、泣くほど嬉しいか。うい奴じゃ、今夜はタップリと可愛がってやるからな。ぐふっ…ぐふふっ♪」
オズボーン伯の下卑た笑い声が響く。
「…おいっ、あんな所に誰かいるぞ!」
「一体、何者だ!?」
参列者が口々に騒ぎ始めた。見れば、丘の上に白馬に跨がり全身鎧に身を包んだ怪しい人影があるではないか。
「もしや、あの方は…!」
「ウォォォーーッ!!」
馬上の男は雄叫びをあげながら坂を駆け降りた。
「ええいっ! 祝いの席に何と無粋な奴よ。早くあの慮外者を討ち果たせっ!」
オズボーン伯の命で、5人ほどの兵士がダレスの行く手を塞いだ。
「でやあぁぁー!!」
「何っ!?」
「しまった! 突破されたぞ!」
ダレスは兵士たちの頭上を飛び越えた。
(残りはだいたい10人といった所か)
ダレスは護衛の兵士の人数を数えながら、馬上で長槍を構え直す。
「一斉にかかれっ!」
数人の兵士がダレスに襲いかかる。
「どけえっ! でえぇぇいいっ!!」
バギッ! ドガガッ!
ダレスが振り回した長槍で数人の兵士が薙ぎ倒された。
「ひ…ひぃーっ!!」
「こ、これ! 逃げるでない! 儂を守らんかっ!」
しかし、戦意喪失した兵士たちにオズボーン伯の声は届かない。
「お、お助けー!」
孤立したオズボーン伯は、ルシアを見捨てて一目散に逃げ出して行く。
「ルシアッ!」
「ダレスさまっ!」
ダレスは馬から飛び降り、ルシアの元へと駆け出して行く。
(ああ、ルシア…これでやっと君を…)
ザシュッ!
花嫁まであと少しという所でダレスの動きが止まった。鎧の隙間から短剣がねじ込まれていたのだった。
「…グッ!」
ズボッ!
短剣が引き抜かれると同時に背中から鮮血が噴き出す。
「これ以上はお嬢さまを苦しませるだけ…そう言ったでしょう…」
ダレスの背後に悲しそうな表情のマルタが立っていた。