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ダレスは昼間は近くの洞穴で過ごし、夜はルシアの元へ通う生活を続けていた。そんなある日、通り道で一輪の花が咲いているのを見つけた。
(美しい花だ。ルシアも喜んでくれるかもしれぬ)
ダレスはそっと花を摘んだ。
「ルシア…ルシア…」
塔に着くといつものように小声でルシアを呼んだ。侍女のマルタに気付かれないようにするためである。
「今日も来てくださったのですね、ダレスさま。」
「ああ、今日は君にプレゼントがあるんだ。さぁ、手を出して。」
そう言ってダレスは摘んできた花をルシアの手の平にそっと乗せた。
「まぁ…ありがとうございます、ダレスさま。」
顔を赤らめながら微笑むルシア。
(何故だ…この娘の笑顔を見ていると心が和む。まさか、この俺が人間の女に…?)
ダレスにとって人間は憎むべき存在である。そんな感情を抱くはずはない…
「どうされたのですか、ダレスさま? 急に黙り込んでしまって⋯」
「あ…いや、何でもないんだ。さぁ、今日は何の話をしようか。」
動揺を悟られまいとするダレス。そして、2人の様子を背後から見つめる女の姿があった。