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ダレスが動いた瞬間、鎧がカシャリと鳴った。
「…誰!? そこに誰かいるのですか?」
(しまった!)
身をひそめて少女の様子を窺うダレス。
「もしや、旅の方⋯? よろしければ、外のお話を聞かせていただけないでしょうか?」
(話だと…この女、俺の姿が恐ろしくないのか?)
よく見れば、少女の顔がこちらを向いていないことにダレスは気付いた。
(もしや…盲いているのか?)
試すように少女の眼前へとダレスは躍り出た。
「き、君は…何者だ。こんな所で何をしている…」
少女に語りかけるダレス。対して少女は屈託のない笑顔を浮かべた。
「私の名はルシア…故あって、この塔に住んでおります。」
「一人で…か?」
「いえ、侍女のマルタも一緒に⋯ですから、寂しくはございません…」
ルシアの物憂げな表情でダレスはすべてを理解した。おそらく貴族の娘であろうこの少女は、盲目であるために辺境の地で幽閉同然の生活を強いられているのだと。
(この女も俺と同じだ。普通の生活を望んでいるのに周囲がそれを許さない…)
「俺はダレスだ。剣闘士なのでな…血生臭い話ばかりになってしまうかもしれんが、それでも構わんか?」
「いえ! 外のお話ならどんなことでも大歓迎ですわ。ぜひ、お聞かせくださいまし!」
ルシアは興奮気味に手摺りに身を乗り出した。