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会議議事録 最終章

「よお、ここが勇者の本拠地か。思ったよりなにもないのだな」


いきなり入って来たその女性は俺を囲んでみんなが座っている円卓に丁度俺の向かい側になるように座った。美鶴木がだれだという顔を向けてくるが俺も全くピンとこない。というかそもそもここは俺がギルド宿の倉庫を格安で借りているスペースで勝手に改造してるだけだから間違って人が入ってくることはあるが話に加わろうという者は初めてだった。


「すまない。ここは今冒険に向けての大事な会議中でな。表の張り紙にも書いてあるのだがいずれ魔王討伐の伝説を作ることになるパーティの大事な話し合いなのだ。すまぬが部屋を出て行ってはもらえないか?」

「その必要はない、なぜなら私が魔王だからだ」


その一言に部屋全体の空気がぴりつく。美鶴木やマカは途端に席を離れ武器を構えて戦闘態勢に入る。鏡花さんはあらあらと席に座ったまま驚いている様子はあるみたいだが二人と比べるとワイドショーで熱愛発覚を聞いたくらいの温度感だった。

で、

俺はというと急に現れた魔王を前に武器を構えるでもなく目の前までいき机を大きく叩いて一言発した。


「そうじゃないだろ!!」


美鶴木やマカはきょとんとした顔をしている。とりあえず消し飛ばされなかった俺を見て大丈夫だと判断したのか警戒しながら席へ戻る。


「そうじゃないとは、なにがだ?」


一瞬殺意のこもった紅い眼がこちらを向きひるんだが、ここで屈するわけにはいかない。


「魔王が自らこんな初期の村に来るなんてRPGならナンセンスもいいとこだぞ! 同人ゲームでももうちょっとまともなシナリオを描く!」

「……なにを言いたいのかわからぬが、勇者よ。貴様が待てど暮らせど来ないのが悪いのだ。おぬしからは勇者ほどの覇気は感じぬが私は出し抜けぬぞ。そのたたずまい、まさしく勇者なのだなと」

「俺は勇者なんかじゃ……いや、ああそうだ。よくわかったな。魔王。お前が来ることは実は分かっていた。だが、俺はがっかりだ。なぜにお前は女なんだ。なんだその妖艶な見た目は。普通に美少女じゃないか、禍々しさはどこへいったんだ」

「うぬ? 私は生まれた時からこの見た目だが?」

「実は第三形態だとかいってそこから化けの皮が剥がれるとかか!?」

「いや? 私はこれが真の姿だ。確かに人間に間違われるがそれは村人からだけだ。私に挑むような輩や同じ魔物は私の魔力で魔王だと判断できるからな」


自信満々にそう話す少女はそこからどうみても痛い厨二病の娘であった。俺はすかさず胸を触ってやった。むにっと素晴らしい感触がしたが魔王はなんの反応も示さなかった。

その直後背後から勢いよく攻撃がきた。身体ごと吹き飛び、壁にめり込む。攻撃元をみるとまさかの魔王ではなく美鶴木だった。


「なに普通にセクハラしてんだよ。てかこいつは魔物の王なんだぞ。倒さなくていいのかよ」

「いや俺は俺でこいつが本当に魔王なのかどうか確かめたくてな……ただの痛い少女かもしれないじゃんか」

「そんなわけないだろ! この魔力、剣士のアタシでもやばさわかるっての!」


それに加勢してくるマカ。


「ほんとですよ! 今この方が本気出せばここの私ら一瞬でお陀仏ですよ……」


マカは身体をおさえながら消え入りそうな声で話している。魔力に敏感な分、他のメンバーよりもダイレクトに魔力の覇気を受けてしまうのだろう。


「まあまあ、確かにこの魔力。ビンビンと身体にきちゃうわあ」


その状況でも鏡花さんはうっとりした表情を浮かべ、なにやら浸っている様子だった。この人もしかしたらうちのパーティで一番最強なのかもしれない。

そんな三者三様なパーティと俺を一瞥した魔王は一回だけ大きくため息をついた。


「お前らの体たらくは良く分かった、確かにそこの杖の小娘が言う通り私がもう数段階魔力を放出すればそれに耐えきれずにそこの恍惚顔の僧侶以外は蒸発してしまうだろう。だがそれは私が全く面白くない。私はこの世界でかつて色々な人間たちと戦ってきた。何万年の月日の中でついに予言で最強の勇者が現れると聞いてここまで来たのだ。こんなすぐに終わらせてやるわけがないだろう」

「どういうつもりだ、魔王」

「どうも最強の勇者は今のままなら真の実力を出す気がないらしい。そのまま蒸発さえする気みたいだ。なにが望みだ?」


魔王はなんの勘違いか分からないがまさに棚ぼたのような命拾い展開だ。この機会を逃すわけにはいかない。


「望みはたった一つだ。俺を……論破してみろ。しかも納得のいく魔王像でな。その時になったら俺は本気の姿でお前と討ち合ってやろう」


自分で言っておいてなんだが仮に俺が勇者だとしても論破しようとしている時点で魔王像とは程遠いものではあるが、冒険にまだ一歩も出ずに今のパーティと毎日しょうもない議題をああでもないこうでもないと話し合ってきた俺にとって唯一有利なフィールドはこの条件以外にあり得なかった。


「わかった! では明日からさっそくお前の戦い方でまずは決着をつけようではないか!」


それからというもの。

幾日も幾日も毎日議題を出しては魔王らしさとはなにか。RPGとはなんたるかを魔王に説き続け、時には魔王の方から今の勇者の形や現状について異論を呈されることも出てきた。

そして。


「さて、今日は昨今の魔王の第一形態が前座過ぎる件についてだが」

「おい、また魔王のバリエーション変遷についてか。今日こそ勇者の宿に泊まったり女神像の前でお祈りするだけで全回復する謎仕様について語りたいのだが」


この日も議題についてレスバしようとしていた時だった。


「ついに見つけたぞ。魔王」


勢いよく扉は開かれ、一人の男が入って来た。その男は全身重装備で背中になんとも神々しい剣を引っ提げていた。


「まさか最初の村のこんなギルド宿の裏にいるとはな。魔王城までたどり着いたのに無駄足になってしまった」

「あんた、こいつ間違いない。本物の勇者だわ」


マカが俺の近くに来てそう耳打ちする。俺はその言葉についに本物が目の前に現れて魔王を倒してくれるかもという安堵と自分が本当に勇者じゃなかったという証明がされたことへの劣等感が一気に押し寄せてきた。勇者は一人で入って来たあたり俺の周りにいるこいつらは全員本物だってのに、俺だけ。俺だけのけ者だってことが分かってしまったんだ。


「魔王……」

「ほお、どうやら魔力だけ見ればかなり高いし、勇者を名乗るだけはあるかもしれんが。いいだろうかかってこい」

「ではいかせてもらう!!」


魔王と勇者の死闘が始まった。俺はその見えない動きをただ傍観していることしか出来なかった。周りの壁が破壊され外にいた村人もどんどん避難していく。美鶴木とマカは最初応戦しようとしたが徐々に魔力を開放していく魔王についには身体さえ動かなくなって地面に這いつくばってしまう。鏡花さんは最初は興味深そうに見ていたが途中で飽きたのかどこかへ消えてしまった。

そして日が暮れる頃。


「ぐふっ……」


魔王の渾身の一撃がヒットし勇者はその場に倒れこんでしまった。まさかの勇者陣営の敗北であった。

俺が、俺が他のメンバーを勧誘してしまったから負けたのか。本来の因果ならこいつらは本物の勇者がパーティに招いていてそれなりに強くなって。そしてみんなで協力していたら魔王を。

色んな感情が押し寄せてきた。だがそれは魔王の一言で打ち消された。


「おい、議論はまだ終わってないぞ」


そこには殺意に満ちた目はなく、結論を出したいという好奇心の眼があった。俺はそれを見てさっきまでの感情がどうでもよくなった。

俺たちはひび割れながらもかろうじて形を維持しているテーブルに互いに席を拾って座り、再び議論を始めた。


ボロボロの会議室でたわいない会議を。

5年ぶりの更新でしたが、この話で完結になります!

完読ありがとうございました!!

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