会議議事録 第一章
「今やジョブも兼業の時代だ!」
「なにが?」
俺の宣言にパーティの1人が首をかしげる。
「ん?聞こえなかったのか?ジョブも兼業の時代だと言ったのだ!」
それに対して俺は高らかに言い切ってやった。
「いや、その前にだな...」
「ん、なにか異議でもあるのか?」
「いい加減村から抜けて冒険に出ようよ!ジョブもなにもまだ一回も戦ってないじゃんか!」
盛大に突っ込まれる。
「なにを言うか!今のパーティで出てもしいきなりギガンテスにでも遭遇したらどうする!魔王討伐を依頼された村が最初の村だと思ったら大間違いだぞ!」
「そんな強敵でねーよ!!」
仲間の女は先ほどよりさらに大声で叫ぶ。
「はあ、全く。せっかく最強ジョブであるこの女戦士様がいるってのにだらだらと会議しようだなんて終わってるっての!火力なら十分なんだからとりあえず街の外に繰り出したらいいじゃない」
大きなため息をつきながら講釈をたれる。そう、この女はうちのパーティの最初に仲間になった女戦士、名を美鶴木世那という。このパーティ随一の火力の持ち主であり、剣技においてはもちろん一番である。しかし、俺には不満がある。
「なあにが火力だあ!初期のRPGでは確かにそこそこ火力があれば物理で殴っていれば勝てたかもしれない。しかしだ、今のRPGでは魔法が使えないお前はレベル上げの効率で考えれば劣るし、魔法戦士、バトルマスターなんて複合タイプや上位互換が出てきた昨今において一強なんてとてもじゃないが言えないんだよ!」
「なっ、確かに最近巷ではそういう職業が出てきているとは聞くが...。それはレベルを上げれば済む話じゃないか。それにうちのパーティにはそれを補う魔法使いがいるだろ」
「ふーむ、ではお前はこれからもそのただただ力任せなバトルスタイルで攻めるわけだな?」
「そ、それは...」
美鶴木の言葉は徐々に尻すぼみになっていく。少しは思うところがあるようだ。
「で、では魔法を覚えれない私はなにをすればいい?」
美鶴木は若干悔しそうながらも、教えを乞う。
「ふーむ、そうだなあ...ずばり『くっ殺』戦法だ」
「『くっ殺』戦法?な、なにやら強そうじゃないか!」
「ふむ、では、早速実践してみようじゃないか!」
「おお!楽しみだ!」
〜数分後〜
「あのう、私になにかご用でしょうか...」
「おい!覇気が足りんぞ!もっと豪快な感じを出せ!」
「ひ、ひぃぃ。そう言われましてもお!」
「おい待て。街からオークを連れてきてなにを言い出すかと思えば、なにがしたいんだ」
美鶴木に止められる。オークが俺の横で頭を抱えてお許しよおと懇願してくる。
「どうもこうも『くっ殺』ってのは女戦士のみが会得出来る技で簡単に言えばこういう醜いモンスターにエロ仕掛を行い、げふ!」
美鶴木に盛大な腹パンを食らう。
「なにが『くっ殺』だよ!カッコいい名前つけて要はモンスターに貞操を奪わせてるだけじゃないかよ!」
「そ、それは心外だ!この技で何人の男が仁王立ち出来なくなると思ってやがる!」
「それ対人しか効果ないじゃんか!」
「あの...私はどうすれば...」
おどおどとしだすオーク。
「うむ、お前はこれから俺の考える正義、いや、性技のために尽力を」
「させるかあ!!」
「ぬ、ぬわああー!!」
オークはばっさりと華麗な剣さばきによって切られてしまった。
〜オークをやっつけた!主人公たちは経験値を300手に入れた!美鶴木は5レベルにレベルアップした!〜
「オーーーーークゥ!!」
「まさか街から出ることなくレベルアップしてしまうとは...」
美鶴木がなにやら複雑な表情をしている。
「おい!あのオーク村で見つけてくるん大変だったんだぞ!」
「なんで村にオークがいるんだよ!しかもオークって絶対序盤にいるような奴じゃないだろ!」
「だから、最初の村だって思い込むなと言ってるだろ!」
俺と美鶴木が言い争いをしていると、入り口のドアが開き、1人の少女が入ってきた。
「おっすー!まだやってるー?」
元気よく入ってきた少女は特になに事もないかのように美鶴木の隣に座る。
「いや、待て。集合時間はとっくに過ぎているぞ」
「いやー、だってどうせ今日も冒険行かないんしょ?」
少女は手でやれやれと肩をすくめてみせる。
「なにを言うか!そういう態度が今後冒険に出る際に」
「そんなことよりさー、今日はなにしてんのー?」
少女に言葉を遮られる。俺一応このパーティのリーダーのはずなんだが...。
この生意気そうな小娘の名は小葉マカ。ジョブは魔法使いである。漢字は『摩訶』らしいのだが、見た目にそこまでの覇気はないので、俺は『マカ』としている。
「うむ、まあいいだろう。丁度お前にも言いたいことがあったのだ」
「えー?説教ー?あんたほんっとうに頭古臭いよなー」
ぐさっ
相変わらずこいつは言葉選びが直球なやつだ。それだけ素直とも言えなくはないのだが。
「おほん、いいか。魔法使いであるお前は火力は単体にしても全体にしても十分ではあるんだが、なにせ弱い!豆腐過ぎる!もっと耐久を積まなくては進むに連れどんどん強くなっていく敵に先制を取れないとすぐ棺桶と化すハメになるのだ」
「はー?あんたマカが戦ってるの見たことないじゃん!豆腐なんて決めつけないでくんない?」
「いや、魔法使いは大体豆腐って相場が決まってんだよ!」
「なにそれ?あんたなんならここで二フラムで消してやってもいいんだよ?」
「ぐっ、よりにもよって死よりある意味怖い消し去る魔法使うなよ!」
魔法使いは戦士とは違って対人距離なんてあったもんじゃないからこういうとこは正直怖い。しかし、これもパーティをより強くするためなのだ。
「ふむ、いいだろう!ではお前にはこの俺と戦って耐久力を試させてもらうぞ!」
「はん、本当にやろうってわけ?」
マカが杖を構える。今だ!
俺はすかさずマカに詰め寄ると肌という肌を揉みしだく。魔法使い特有の薄い布地であるため、柔らかい肌の感触が布越しでもしっかりと染み付く。
「!?」
マカは最初きょとんとした顔をしていたが、顔を真っ赤に染めた。
「きゃああああ!変態!このドスケベ!殺す!」
ガシガシと殴られる。ふん、レベルが上がっても弱い魔法使いの打撃など、紙に等しいわ。
「やめんか」
「!?」
今度は俺が驚く番だった。美鶴木の高速手刀が俺の後頭部を強打する。
「いて!なにをする!」
「なにをする、じゃないだろ!お前さっきからセクハラしかしてないじゃないかよ!」
「いや、俺はこのパーティを強くするためにだな」
「鼻血出しながら言っても説得力ないんだよ!」
「いや、これはお前が手刀で殴るから」
「スッ」
「すみませんでした」
美鶴木が手の構えをしたため、俺はとりあえず土下座をすることにした。
「そんなにセクハラがしたいなら、そろそろ協会の仕事が終わる頃だし、存分に相手してもらったらいいじゃないか」
「そーだ、そーだ!」
マカが横から涙目で加勢してくる。
「いや、あの人はちょっと...」
「あら、呼びました〜?」
噂をすればなんとやらか入り口の方から最後のメンバーが入ってきた。
「お疲れ様です、鏡花さん」
「おつかれー」
2人が言葉をかけるとその人は2人の横に座らず俺の横に座ってきた。
「今日はなんのお話してるのかしら?」
鏡花さんが胸を当ててくる。俺はすかさず離れて距離をとる。
「い、いや、なんていうか俺からみんなに説教してたとこで」
「そうなのー。ってことは私にもなにか言いたいことがあるのかしら?もっとサービスしてほしいとか?」
「ち、違いますよ!」
鏡花さんは余裕のある表情で、冗談に聞こえないことを言ってくる。
このいかにも大人な女性の方は花園鏡花。ジョブは僧侶である。ほかの小娘たちにははっきり物を言えるだが、どうもこの人はまだ誰とも大人の階段を登っていない俺には刺激が強過ぎてこんな感じの反応になってしまう。年齢は20後半くらいに見えるが、協会でそこそこ偉い立場にいることもあり、実際はもっと高いのだろう。なぜうちのパーティにいるのか謎だ。
「なんか欲求不満みたいっすよー、やってやってください」
「あら?そうなのー?」
鏡花さんの目がキランと光る。いや、普通に貞操帯が危ういことを言うな。
「きょ、鏡花さん!あなたは僧侶でありながらまず性にだらしなさすぎます!僧侶はもっと清楚であるべきだ!全くけしからんですよ!」
「おい、鏡花さんだけステータス面の指摘がないぞ」
美鶴木がツッコミを入れてくるが、スルーさせてもらう。
「そうよー?もっとなんでも言ってくれていいのよ?バブみが欲しいとか、癒しが欲しいとか」
「それ全然ステータスじゃないですよ!」
というか鏡花さんが言うともはや癒しさえも別の意味に聞こえる。僧侶だから自然なはずなのに。
「と、とにかく今日もこれで全員集まったな。これから今後の戦いについての方針をー」
「っていうかさ」
今度は美鶴木に話を遮られる。全く。リーダーたる俺にどいつもこいつも全く尊敬の意を示さない。
「そういうお前はジョブ『遊び人』じゃないかよ。酒場で出会った当初はジョブにすらついてなかったし」
「ぐぬっ」
美鶴木に攻めたてられる。
「実際のとこあんた何者なんだよ。いい加減話せよ。突然酒場に現れるから、勇者かと思ったら違うみたいだし」
「確かに言われてみればそうだよねー。変に戦闘の知識だけはあるみたいだけど」
マカがジト目で見つめてくる。
くっ、確かに俺はなんでもない。実際村から出ないのも痛いのがたまらなく嫌なだけだし。しかし、俺はなんとしても隠し通さなきゃならない。
このたまたま異世界転生しただけのRPGオタクだという事実を-。
一話完読ありがとうございます。
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