1話
「フヒヒッ・・・フヒヒヒッ」
控えめに言っても気持ち悪い笑い声をあげる男がここに一人。
彼の名前は一ノ瀬晃。身長175センチ、体重100キロ超。
誰の目からもイケメンとは言ってもらえない容姿であることは明らかである。
それを裏付けるかのように、26歳となった現在まで彼女はいたことはなく、女性と話すことが極端に苦手なために風俗などの女の人と触れ合うような場所にも行ったことがない。
そんな彼が気持ち悪い声をあげて見つめる先にはもちろんエロ本・・・などではなく、ヘルメットのようなものがあった。
今話題のVRMMO「Another Life」をプレイするための専用ハード「Life Vision」。
従来のVR用ハードでは処理しきれないほどのデータ量を有する「Another Life」をプレイするためだけに開発されたそのハードは、従来型が水中ゴーグルのような形をしていたのに対して、ヘルメットの形をとることで大容量のデータ処理に対応するだけの機能を搭載している。
たった1つのソフトのためだけにハードも購入しなければならないとあって最初はコアなゲーマー層しか購入しなかったが、そのプレイスタイルの幅の広さがユーザーから提供されると、皆がこぞって買うようになり、現在では品薄状態が長期にわたって続いている。
皆を購入に誘ったそのプレイスタイルの幅は、一言で表すならば「無限大」である。
MMOにありがちな冒険の世界を体験することから、魔法や超能力、果ては”必要なのか?”と思われるような現代と全く同じ、魔法も何もない科学の世界までを味わうことができる。
この世界観の広さ、多さに誰もが「これひとつあれば他のソフトを買わなくて済む」と思ったため、購入が殺到したのである。
発売から1年たった今でも品薄状態が続いていることからも、このゲームが飽きられていないことが窺える。
そして晃も、やっと新規入荷分の争奪戦を勝ち抜いて購入にこじつけた、ということなのである。