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第六十一話「決戦」

 強い火の魔力が階段の奥から流れ、息が詰まる様な熱風が肌を撫でる。これが封印されていたレッドドラゴンの力なのか。感じた事もない程の爆発的な魔力が全身を刺激し、階段を一歩降りる度に、敵の魔力の強さが増し、仲間達は怯えた表情で俺を見つめた。


 流石のフローラもレッドドラゴンの魔力を肌に浴びて恐怖を抱いているのか、俺の手を強く握り、何度も深呼吸をした。まるで目の前に魔王が居る様な、圧倒的な恐怖を感じる。これは以前父が本気で俺を叱った時の雰囲気に良く似ている。俺は幼い頃、父の言いつけを破り、魔王城の外に出ようとした事があった。その時、父は鬼の様な表情を浮かべて強烈な魔力を放ちながら剣を抜いた。


 俺は父の本気の魔力を肌に浴びて、自分の弱さを実感した。ちっぽけな人間を殺すには十分過ぎる程の圧倒的な力を感じたのだ。俺は急に父が懐かしくなり、彼が遺してくれた魔剣を強く握り締めた。恐怖心に打ち勝つために、魔剣に爆発的な魔力を流し、精神を奮い立たせて階段を降りる。


 俺達は遂に二十階層に辿り着いた。永遠と続く様な、広大な石切場の様な空間だ。ファイアの魔法を天井に向けて飛ばし、辺りを照らす。闇が徐々に晴れると、爆発的な咆哮が轟いた。


 心臓が大きく高鳴った瞬間、遥か彼方から巨大な炎の球が俺達に向かって放たれた。大きさはアイゼンシュタイン城と同じくらいだろうか。途方もない大きさの炎の球を目にして、俺はフローラの手を握ったままその場に凍りついた。理解が追いつかない。これがレッドドラゴンの力なのか……?


 フローラが巨大な炎の球に杖を向けると、杖からは強烈な雷撃が放た。雷撃は巨大な爆発音と共に炎の球を裂いたが、炎の威力は収まらない。フローラの魔法に勇気付けられた俺は魔剣を両手で握り締め、魔力を込めて振り下ろした。


『ソニックブロー!』


 魔剣からは赤い魔力の刃が飛び出し、人間の殺すには十分過ぎる程の巨大な炎を切り裂いた。炎は爆発的な魔力を辺りに散らして消滅した。ベラは目を見開いたまま震えている。クリステルは敵の強烈な魔法を目にして逃げ出そうとしたが、何とかその場に留まり、剣を構えた。


 侵入者の心に恐怖を植え付けるかの様に、再び爆発的な咆哮が轟くと、赤い鱗に包まれた巨大なドラゴンが姿を現した。体長は二十メートル程だろうか。巨体という言葉では表現出来ない程の体をしたレッドドラゴンが地面に着地すると、大地が強く揺れ、俺は恐ろしさに震え上がった。


 人間が勝負を挑んで良い相手ではない。レッドドラゴンからすれば、人間程度の生き物は炎を吹くだけで焼き殺せるのだろう。レッドドラゴンは巨大な翼を広げ、俺達を見下ろしながら爆発的な咆哮を上げると、フローラが頭上高く杖を構えた。天井付近には雷雲が発生している。サンダーボルトを使うつもりなのだろうか。


 フローラの魔法を最高の威力に仕上げるにはまだ時間が掛かりそうだ。俺は怯えながらも懐に手を入れ、召喚石を取り出した。召喚石を持って魔物達を呼び出すと、目の前の空間からは三体の魔物が現れた。


 ヴォルフはレッドドラゴンを見上げるや否や、敵に向かって走り出した。ジェラルドは槍を構えて飛び上がると、レッドドラゴンの翼に槍を突き立てた。タウロスは巨大なレッドドラゴンを見上げて微笑むと、両刃の斧を振り上げてドラゴンの足に水平斬りを放った。


 どんな敵が相手でも、俺の頼れる魔物達は狼狽する事も無く、攻撃を仕掛けている。やはり俺の仲間は偉大だ。ベラは魔物達の勇敢な戦いぶりを見て勇気が湧いたのか、グラディウスを構え、レッドドラゴンに向かって走り出した。


 クリステルは巨大な水の柱を作り上げ、レッドドラゴンの頭上に落とし続けている。レッドドラゴンの頭部には水の柱が直撃すると、僅かだが攻撃の効果があるのか、レッドドラゴンの動きが鈍った。


 俺は魔剣を構えて走り出し、ドラゴンの足に剣を突き刺した。レッドドラゴンは痛みに悶えながら、辺り一面に炎を吐いた。しまった……。サンダーボルトの準備をするフローラを守れる仲間が居ない! 俺は魔剣を地面に突き立て、敵の炎を防いだ。タウロスもヴォルフも炎を切り裂いたが、ベラはレッドドラゴンの炎に耐えられる程の力は無く、敵の炎を全身に浴びた。


 クリステルは瞬時にフローラの前に立ち、目の前に水の柱を作り上げてフローラを守った。炎が一瞬でクリステルの水を蒸発させたが、何とかフローラとクリステルは何とか無傷で敵の炎を防げた様だ。


 フローラは右手で賢者の杖を掲げ、天井付近に雷雲を作り上げつつも、左手をベラに向けてヒールの魔法を唱えた。ベラは瞬時に回復したが、彼女の意識は戻らない。クリステルはそんなベラの元に駆け寄り、何度か頬を叩くと、ベラはやっと意識を取り戻した。


 それから彼女はすぐにグラディウスを拾い上げると、再びレッドドラゴンに向かって走り出した。やはりベラは意思の強い子だ。レッドドラゴンは地面を素早く駆けるベラを踏み潰そうとするが、目にも留まらぬ速度で走るベラの体を捉える事は出来なかった。


 ベラはグラディウスをレッドドラゴンの足に突き刺し、岩の様なレッドドラゴンの体をよじ登り、執拗にグラディウスを突き立てた。そんなベラの攻撃に腹を立てたレッドドラゴンが再び爆発的な咆哮を上げると、俺はレッドドラゴンの尻尾に強烈な垂直斬りを放った。


 タウロスの体よりも遥かに大きい尻尾の先端を切り落とすと、レッドドラゴンは涙を流し、再び辺りに炎を撒き散らした。対象の定まっていない炎の攻撃は辺り一面を燃やし尽くしたが、仲間達は地面に転がる大岩の影に身を隠した。俺の仲間は同じ攻撃を二度喰らう程、冒険者として未熟ではない。


 クリステルは水の球を作り出して高速で飛ばし、着実にレッドドラゴンの体力を削っている。二メートル程の巨大な水の球がレッドドラゴンの体に当たる度に、辺りには大きな破裂音が轟く。限界まで鍛え上げたウォーターキャノンは、小さな家なら軽く吹き飛ばせられる程の威力まで強化されている。


 タウロスはまるで木を伐るかの様に、レッドドラゴンの足にヘヴィアクスの水平斬りを放っている。タウロスが攻撃の手を止める事はなく、体力の限界まで何度も水平斬りを放つと、遂にレッドドラゴンは痛みに耐えられなくなったのか、地面に膝を付いた。


 ヴォルフは口を開けて強烈な冷気を放つと、ヴォルフが放った冷気は大量の血が流れるレッドドラゴンの足に纏わりついた。瞬間、レッドドラゴンの足は血で固まり、敵は身動きすら取れなくなった。ヴォルフは鋭い爪でレッドドラゴンの胴を切り裂き、敵の肉を食いちぎっている。


 ジェラルドは俺の元に急降下すると、彼は俺を背中に乗せてくれた。レッドドラゴンが弱っている時が最大の攻撃の機会だ。ジェラルドは一気に上昇し、俺は彼の背中に乗ったまま、魔剣を振り下ろしてソニックブローを放ち続けた。


 赤い魔力から作られた刃がレッドドラゴンの分厚い鱗を切り裂くと、レッドドラゴンは怒りを込めた咆哮をあげた。ベラとタウロスはひたすらレッドドラゴンの下半身を狙って攻撃を続け、クリステルはウォーターキャノンを連発し、レッドドラゴンの頭部を狙い続けた。


 ついにフローラの魔法の準備が整った。レッドドラゴンの頭上には、強い雷の魔力を持つ雷雲が浮いている。フローラが杖を振り下ろした瞬間、雷雲が爆発的な魔力を炸裂させた。


『サンダーボルト!』


 フローラが魔法を唱えた瞬間、雷雲からは一筋の雷が発生し、レッドドラゴンの頭上に落ちた。肉と血が焼ける匂いが充満し、既にレッドドラゴンは戦意を喪失したのか、うつろな目でフローラを見つめると、肩を上げて空気を吸い込んだ。まずい……。最後の攻撃を仕掛けるつもりだろうか。


 レッドドラゴンは口を大きく開くと、全ての力を込めて火炎を吹き出した。この炎はクリステルの魔法では防ぐ事は不可能だろう。クリステルは自分の死を悟ったのか、剣を地面に落とし、力なく膝を付いた。


 フローラは怯えながら何度もサンダーの魔法を唱えたが、爆発的な火炎をかき消せる力はない様だ。俺がフローラを守らなければ……。俺が愛する女を死なせる訳にはいかない! 俺は瞬時にジェラルドの背中から飛び降り、フローラの前に着地した。十メートル以上もの高さから飛び降りたからか、俺の両足は粉々に砕け、意識が飛びそうになる程の激痛を感じた。


 意識は朦朧とし、下半身の感覚は既に無く、体は言う事を聞かない。俺は這いつくばりながら両手を突き出し、最後の魔法を唱えた。借りるぞ……。師匠の魔法。


『ファイアジャベリン……!』


 全ての魔力使い、生命を削って無数の炎の槍を作り出し、敵の火炎に向かって炎の槍を放った。五十本近い巨大な炎の槍はレッドドラゴンの炎を切り裂き、炎の槍はそのままレッドドラゴンの体を串刺しにした。


 師匠……。陛下……。俺は最後までフローラを守り抜きました……。父さん、俺は出来の悪い息子だった……。大陸を支配するという約束を破り、愛する姫のために命を投げ出してしまった……。俺は自分の死を悟り、最後にフローラの頬に手を触れ、涙を流した……。


「ありがとう……俺を愛してくれて……」

「ラインハルト……! 私を遺して死なないで……!」


 フローラが大粒の涙を流すと、俺の意識は消滅した……。

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