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第五十一話「四階層での攻防」

 ドラゴニュートが急降下を始めた瞬間、フローラの強烈な雷撃が敵を吹き飛ばした。まるで大量の火薬が一度に爆発するかの様な爆発音が轟き、ドラゴニュートの体を木っ端微塵に砕くと、ドラゴニュートの群れは狼狽を隠せずに、槍を持つ手が震え出した。


 間髪を容れずにクリステルがウォーターピラーの魔法を唱え、天井付近には巨大な水の柱が出現した。水の柱は上空を旋回するドラゴニュートの頭上に落ち、突然の上空からの攻撃に、ドラゴニュートの群れは恐怖に震えた。


 巨大な水の柱がドラゴニュートの体を地面に叩きつけると、鎧はいとも簡単に砕け、水の塊が弾ける高い破裂音が響いた。美しい魔法ではないが、見る者を怯えさせる、非常に殺傷力の高い魔法だ。


 敵の群れが狼狽した瞬間、巨体のドラゴニュートが急降下を始めた。対象を俺に定めたのか、槍の先端に炎を纏わせ、鋭い突きを放ってきた。俺は瞬時に魔剣で敵の攻撃を受け、反射的に左手から炎の矢を飛ばした。


 炎の矢はドラゴニュートの肩を貫くと、ドラゴニュートは痛みに耐えながらも、高速の突きを次々と放ってきた。リーダー格のドラゴニュートが俺を逃さないように、執拗に攻撃を放っているからか、俺はフローラとクリステルを守る事が出来ない。


 空を飛ぶドラゴニュートは、気味の悪い笑みを浮かべ、一斉に降下を始めた。槍を地面に向けて降下するドラゴニュートに対し、クリステルは特大サイズのウォーターキャノンを放ったが、高速で降下する敵を捉える事は出来なかった。


 フローラはクリステルを突き飛ばし、彼女に襲い掛かるドラゴニュートに対して強い雷撃を放ち、一撃で敵の命を奪った。フローラの雷撃は一撃必殺の魔法。杖を構えた瞬間に敵を捉えているのだ。敵は何が起こったのかも分からずに、強烈な雷撃を受けて燃え尽きる。


 フローラは静かに怒りながらサンダーの魔法を連発し、黙々とドラゴニュートを狩り続けた。クリステルはフローラを援護するように、ウォーターキャノンの魔法で敵を退けている。クリステルのウォーターキャノンを回避したドラゴニュートには一瞬の隙きが生まれ、フローラの雷撃が敵を捉えるのである。お互いの息があった連携の前では、統率の取れていないドラゴニュートの攻撃は一切通用しない。


 リーダー格のドラゴニュートは仲間の死にも動揺せずに、強烈な槍の攻撃を執拗に放ってくる。まるでタウロスの攻撃の様な、非常に重い攻撃を受け続けると、流石に俺の筋肉は悲鳴を上げ始めた。


 敵の攻撃を魔剣で防ぎ、左手から炎の矢を飛ばして敵を貫く。敵の攻撃には必ず隙きが生まれる。俺は敵の攻撃を防いだ瞬間に、足や肩を狙って素早く炎の矢を撃ち込み、敵の体力を徐々に削っている。


 ドラゴニュートは自分の死を悟ったのか、全ての魔力を槍に込め、爆発的な炎を散らしながら、強烈な突きを放ってきた。俺は敵の攻撃を魔剣で受け流し、瞬時に左手でグラディウスを抜き、敵の心臓に突き立てた。温かい血が俺の魔装を赤く染め、ドラゴニュートは力なく倒れ込むと、死の際に力なく笑みを浮かべた。


 ドラゴニュートの死体が強く光り輝いた瞬間、拳ほどの大きな魔石へと姿を変えた。やはり魔王の加護は偉大だ。赤い魔石の中では巨体のドラゴニュートが眠っている。召喚石か……。これは運が良い。


 ドラゴニュートのリーダーを倒すと、既にフローラとクリステルがドラゴニュートの群れを殲滅していた。辺りにはドラゴニュートの死骸が散乱し、死骸に交じるように美しい強化石が落ちている。


 強化石は全部で五十個。ドラゴニュートの強化石の効果は分からないが、今まで入手した強化石とは比較にならない程の強い魔力を感じる。ドラゴニュートのリーダーが持っていた槍を拾い上げると、俺はふと彼が死の際に見せた笑みを思い出した。召喚石によって彼を召喚して、俺達の仲間になって貰おうか。きっとダンジョン攻略の強い仲間になってくれるだろう。


 俺は召喚石を手に持ち、体内から魔力を掻き集めて魔力を込めた。召喚石は辺りに鋭い魔力を散らすと、目の前の空間からは黒い鱗に覆われたドラゴニュートが姿を現した。召喚石とは非常に特殊な魔石で、命を落としたはずのドラゴニュートが、再びこの世に生を受ける事が出来るのだ。これが魔王の加護の偉大な力である。


 ドラゴニュートは生前の獰猛な雰囲気はなく、柔和な笑みを浮かべて俺を見つめている。まさに彼が死の際に見せた優しい笑みだ。俺はドラゴニュートに槍を渡すと、彼は跪いて槍を受け取った。俺が自分自身の主だという事を理解しているのだろう。それから俺はドラゴニュートの強化石を全て使用し、イェーガーの指環を使用して彼のステータスを確認する事にした。


『LV.75 ドラゴニュートロード』

 力…750 魔力…500 敏捷…700 耐久…720

 装備:支配者の槍

 装飾品:なし

 魔法:エンチャント・ファイア ファイア


「レベル75? ヴォルフと同等の強さを持っているという訳か……」

「ドラゴニュートロードって支配者階級の魔物なのかしら。ドラゴニュート族の長という訳ね。確か幻獣クラスの魔物よ」

「鱗の色も違うし、通常のドラゴニュートよりも体が大きいから、ドラゴニュートの亜種だと思っていたんだけど、ドラゴニュートの支配者だったのか……」

「幻獣が仲間になるなんて運がいいわね」


 クリステルはドラゴニュートの頭に触れると、彼はクリステルの手を払った。どうやら俺以外の人間に触れられたくないのだろう。俺が彼の肌に触れると、彼は柔和な笑みを浮かべて俺を見つめた。実際に剣を交えた俺の力を認めてくれているのだろうか。


「このままの勢いで四階層の魔物を狩ろう」

「そうね。クリステル。疲れない?」

「大丈夫よ、フローラ、ありがとう」


 クリステルはフローラの手を握り、岩場をゆっくりと進んでいる。クリステルとフローラはこの短い間に随分打ち解けたのか、長年付き合ってきた友達の様に仲が良い。これも、アイゼンシュタインからファルケンハインまでの道中で、長い時間を共に過ごしたからだろう。


 旅というのはお互いの関係を深めてくれる。旅の間は仲間の力を信じ、命を預けて行動する事も多い。夜の間は見張りを担当する仲間を信じて眠る。目の見えないフローラは、俺とクリステルを信じてファルケンハインまでの旅をしたのだ。フローラはクリステルを心から信頼しており、クリステルもフローラの強さに敬意を払い、ダンジョンに挑戦しているのである。


 パーティーのメンバーがお互いの力を信じているからか、共に居る時間が非常に心地良いのだ。仲間を募集してパーティーのメンバーを増やす事は容易いが、それではローゼマリー王女の様に、信頼も築けないままダンジョンに潜る事になる。まるで使い捨ての様に、ドラゴニュートの攻撃を防ぐために、仲間を盾にする様な戦い方は好きではない。


 クリステルが安易に仲間を増やそうとしないのは俺にとって都合が良い。仲間の人数が少ない方が守る手間が省けるからだ。それに、自分の命を預ける仲間を金で雇うつもりはない。金銭で繋がっている人間同士から構成されるパーティーは、自分の命が危機に迫った時、仲間を犠牲にして逃げ出すだろう。それがローゼマリー王女が作り上げた簡易的なパーティーの結末……。


 それから俺は新たに召喚したドラゴニュートの支配者と共に、四階層に潜むドラゴニュートを討伐して回った……。

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