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第四十五話「ファルケンハインを目指して」

 ファルケンハイン王国を目指して移動を始めた俺達は、道中で遭遇する魔物を駆逐しながら、アイゼンシュタインの北の森を進んでいる。ファルケンハインまでは馬で三週間の距離だ。俺は御者台で馬の手綱を握っている。馬は商人ギルド・ムーンライトが用意してくれた、シルバーホースという重種の巨体の魔物だ。


 毛色は美しい銀色。体型は足が短く胴が太い。全身の筋肉が極限まで発達しており、寸胴の見た目とは裏腹に、馬車を牽いた状態でも高速で森を駆ける事が出来る。スケルトンやスライムの様な低級の魔物なら軽々と蹴散らす強力な馬だ。体高は二メートルを超え、ヴォルフ程ではないが体も非常に大きい。


 二頭のシルバーホースが幌馬車を牽いており、荷台にはエレオノーレさんと共に選んだ食料や、旅に必要な物が積んである。フローラとクリステルは既に打ち解けたのか、荷台で談笑しながら、魔物の襲撃に備えている。


 馬車の後方からヴォルフが付いてきており、万が一、魔物が馬車を襲おうとするならば、御者台に座っている俺が無数の炎の矢を飛ばして駆逐する。大抵の魔物はファイアボルトで退ける事が出来るが、極稀にキラービーという質の悪い魔物に付け回される事がある。


 キラービーは体の大きな蜂で、高速で空を飛びながら、風の魔力を圧縮した針を飛ばして人間を襲うのである。御者台から上空を飛ぶキラービーに向けて炎の矢を放っても、キラービーに攻撃を当てる事は難しく、しつこく馬車を狙うキラービーが現れた時は、フローラが強烈な雷撃をお見舞いする。


 フローラのサンダーの魔法は非常に精度が高く、どれだけ敵が高速で移動しようが、敵の体を確実に捉える事が出来る。フローラはブラッドソード襲撃事件以降も、サンダーの魔法の完成度を上げるために訓練を積んできた。馬車を付け回す敵が多く湧いた時は、俺とフローラが協力して敵を駆逐するのである。


 ヴォルフが後方から馬車を守りながら付いて来ているので、知能の高い魔物は、ヴォルフの姿を見るや否や、慌てて逃げ出すのだ。知能が低い魔物ほど、相手の強さを理解出来ずに攻撃を仕掛けてくる。


 今日も俺はフローラと協力して魔物を狩りながら、深い森を進んでいる。早朝から馬車で移動をし、夕方には野営の準備を始める。クリステルは料理が得意なのか、フローラと共に食事の用意を担当する事になっている。


 俺は彼女達が食事の準備をしている間に、ヴォルフと共に野営地の周辺を巡回し、辺りに潜んでいる魔物を狩るのである。召喚石の中で眠るタウロスの出番は基本的に無く、賢者の試練の間も一人で体を鍛え続けてきたタウロスは、ついにレベル90まで己を鍛える事に成功した。


 タウロスは自分自身がヴォルフよりも弱いという事を何度も嘆いており、何としてもヴォルフの強さに近づくと決意し、俺と共に賢者の作り上げた空間で訓練を積んだのだ。タウロスに関しては、彼の強さに合う敵が現れた場合のみ、力を貸して貰う事になっている。


 ヴォルフと共に野営地の巡回を終えて馬車の元に戻ると、フローラとクリステルは既に夕食の準備を終えていた。今日はアイゼンシュタインで大量に買い溜めておいた乾燥肉とチーズを使った料理だ。幌馬車の荷台に乗り、狭い荷台で手早く夕食を済ませる。


 それからフローラは夜の魔法訓練を始めた。ダンジョン内で俺をサポートするために、幻魔獣・スケルトンキングの固有魔法、サンダーボルトを習得するつもりなのだとか。幻獣や幻魔獣の様な高位な魔物の中には、固有魔法を持つ種族も多く、フェンリルならアイスストームが固有魔法に当たる。


 幻魔獣や幻獣の固有魔法は基本的に人間は習得出来ないのだが、非常に優れた魔法能力を持つ人間が時折、固有魔法を習得する事があるのだとか。魔物の図鑑でスケルトンキングという魔物について調べてみたが、スケルトン族の中で最も魔法の精通した魔物、雷属性と火属性の魔法を使用する幻魔獣だという事が分かった。


 雷属性を徹底的に鍛えてきたフローラでさえ、魔法石を使った訓練でサンダーボルトを発生させる事は出来なかった。やはり幻魔獣の様な高位の魔物の固有魔法を習得する事は困難な様だが、それでも彼女は諦めずに、魔力が続く限り、サンダーボルトの魔法石を持ち、何度も魔法を唱え続けた。


 クリステルは幼い頃から剣と魔法を学んでいたらしく、食後は俺と共にレッドドラゴンとの戦闘を想定した訓練を行う事になっている。彼女は水属性の魔法に精通しているらしく、巨大な水の球を作り上げるウォーターキャノンの魔法は、木々をなぎ倒す程の威力を持つ強力な魔法だ。


 強い火を操るレッドドラゴンの戦闘では、水属性の魔法が有効なので、クリステルには後方からウォーターキャノンの魔法で援護をして貰う事になっている。彼女の現在のレベルは45だが、ファルケンハインに到着するまでに、レベル50まで鍛える事になっている。


 ファルケンハイン王国の地下のダンジョン、聖剣が眠る古代のダンジョンの攻略には、ファルケンハインで最大の冒険者ギルドや、魔術師ギルドが挑戦しているらしく、俺達は遅れてダンジョンの攻略に望む事になっている。


 クリステルの妹である、ローゼマリー第二王女は、クリステルよりも一足先にダンジョンの攻略を始め、既にダンジョンの五階層までは攻略済なのだとか。ダンジョン内の最深部に隠されてある聖剣を見つけ出す事が、次期国王に指名される条件だからか、ローゼマリー第二王女は、腕利きの冒険者を集め、冒険者と共にダンジョンに潜っているのである。


 クリステルもファルケンハインの国王から王位継承の条件を聞いた時に、町の冒険者を集めてダンジョンの攻略に乗り出したのだが、町の冒険者では古代のダンジョンに巣食う魔物を満足に狩る事が出来なかったらしい。


 クリステルよりも一足早く、ダンジョン攻略のために行動を取ったローゼマリー第二王女は、高名な魔術師や、勇者、高レベルの冒険者などを次々とパーティーに引き入れ、クリステルがダンジョン攻略のための行動を始めた頃には、町で名の通った冒険者は全てローゼマリーのパーティーに加入していたらしい。


 困り果てたクリステルは他国の冒険者の中から、レッドドラゴンに匹敵する力を持つ冒険者を探し始めた。そこで俺の噂を聞きつけ、自らアイゼンシュタインに赴いて俺の元に来たという訳らしい。


 俺を勧誘しに来れば、ファルケンハイン王国とアイゼンシュタイン王国の往復に六週間以上の時間が掛かるのにも拘らず、噂で聞いた幻魔獣と幻獣を従える冒険者の強さを信じて、アイゼンシュタインまで来てくれたらしい。


 今日、クリステルの口から俺に白羽の矢を立てた経緯を聞くと、俺は俄然やる気が出てきた。既に古代のダンジョンには高名の魔術師や勇者等が挑戦しているのだ。後からダンジョン攻略に乗り出したとしても、圧倒的な速度で彼等よりも下層に辿り着いてみせる。


 アイゼンシュタインの騎士として、偉大なる救済の賢者、ジル・ガウスの弟子としても、俺はどんな戦いにも負けるつもりはない。今回はアイゼンシュタインの大使としてダンジョン攻略に参加するのだ。アイゼンシュタイン王国の強さを他国に示す意味でも、俺が他のダンジョン挑戦者を圧倒しなければならない。


 それに、ダンジョン内で生息が確認されているレッドドラゴンを、他の人間に討伐されては、俺達がレッドストーンを入手出来なくなってしまう。誰よりも先にレッドドラゴンを倒し、レッドストーンを入手してから、最下層に眠る聖剣を見つけなければならないのだ。


 今日も深夜まで訓練を行うと、クリステルは一足先に眠りに就いた。フローラとクリステルは幌馬車の荷台に毛布を敷き、寝台として利用しているのだ。流石に三人で眠れる程の広さは無く、王族と準貴族が共に眠る事もおかしいと思ったので、俺は十二月の冬の森に毛布を敷き、凍えながらヴォルフの長い毛に包まれて辺りを警戒している。


 魔物が巣食う森での生活では、俺は基本的に夜の間は眠る事はない。これはアイゼンシュタインでブラッドソードの襲撃に備えていた頃の習慣だ。深夜に魔物から襲われた時、瞬時に反応出来る様に、魔剣を抱きながら静かに夜の時を過ごすのだ。


 そんな俺を心配する様に、フローラは何度も夜の間に目を覚まし、俺のために紅茶を淹れてくれたりする。俺はフローラを抱きしめながら、寒空の下、二人の将来を語り合う時間が大好きだ。物音一つ聞こえない森の中で、フローラの体温を感じながら、二人だけの時間を過ごす……。

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