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第四十三話「騎士の贈り物」

「まずはフローラ姫殿下。お誕生日おめでとうございます。最愛の姫の十八歳の誕生日祝いには、ファルケンハイン王国第一王女、クリステル・フォン・ファルケンハイン様から頂いた朗報を贈ります。この度、クリステル姫殿下は私にレッドドラゴンを討伐する機会を授けて下さったのです!」


 俺がそう言うと、会場が大いに盛り上がった。タウロスは巨体を揺らして、今すぐにでもレッドドラゴンを討ちたいと言い、エレオノーレさんはクリステルの手を握って何度もお礼を述べた。フローラだけが突然の出来事に愕然としている。


 盲目でこの世に生を受け、十七歳まで城で幽閉される様に暮らしていた。それからレッドストーンを設立し、冒険者としての人生を始めた。いつかレッドストーンを手に入れて、自分の目を治すために……。やっとレッドドラゴンに関する情報が手に入ったのだ、彼女は満面の笑みを浮かべて俺を抱きしめた。


 それからフローラは何度も俺の頬に接吻をすると、涙を流して俺の胸に顔を埋めた。俺はフローラの頭を撫で、レッドドラゴンがファルケンハインで確認されたと伝えた。陛下は俺とフローラを抱きしめ、二人でレッドドラゴンを討ちなさいと言ってくれた。


 フローラは長い間、喜びの余り涙を流し続けたが。彼女がやっと泣き止むと、俺は魔装の懐に忍ばせておいた髪留めを取り出した。この髪留めを購入した当初は、美しい箱に入っており、綺麗なリボンが巻かれていたのだが、レッサーデーモンから追い回され、無数の魔物から何度も攻撃を受けている内に箱も潰れてしまった。せめて髪留めを傷つけない様にと、布で包んで魔装の内側に仕舞っておいた。近くにフローラを感じていたかったからだ……。


 どれだけ師匠の訓練が厳しくても、逃げ出さずに耐えられたのはフローラのお陰だ。魔王の息子として生まれた俺をギルドのメンバーにしてくれ、俺が魔王の加護を受け次ぐ、第七代魔王だと判明した時も、少しも疑わずに俺を守ってくれた。俺はそんなフローラに恋をしたのだ。正直に告白するなら、シュルスクのパイを焼いている姿を見た瞬間から、俺はフローラに惚れていたのだろう。


 長い銀色の髪を綺麗に纏め、乱雑とした室内でパイを焼く彼女の姿は、まるで天使の様だった。ひと目見た瞬間から、俺はフローラの事をもっと知りたいと思った。こうしてフローラと交際する事が出来て、毎日幸せを感じている。俺は髪留めを持つと、彼女の艶のある美しい髪に留めた。フローラは新しい髪留めの形状を触り、満足気に笑みを浮かべている。


「素敵な贈り物をありがとう! 何だかこの髪留めからは特別な想いを感じるわ。まるでラインハルトの魔力が籠もっているみたい」

「長い間、肌身離さず持っていたからね」

「本当? 前から髪留めを用意してくれていたの?」

「ああ。六ヶ月程前からね……」


 俺はそう呟くと、賢者の杖を取り出した。スライムの体内に隠し、スライムを召喚石に入れておいたのだ。こうする事で賢者の杖を完璧に隠す事が出来たのだ。ダリウスは小さなスライムを楽しそうに持ち上げ、つやつやした頭を何度も撫でた。


 賢者の杖を見た陛下は愕然とした表情を浮かべた。たった一人、事実を知っているレーネさんが微笑んでいる。


「これは賢者、ジル・ガウスから授かった賢者の杖です。私は賢者の試練を六ヶ月間受け、ついにこの杖を授かる事が出来ました」

「賢者、ジル・ガウスだと……? 数多の幻魔獣を討ち、魔物から民を守り続けた救済の賢者。ハース大陸で最も魔法に精通したケットシー族の英雄。まさか、ラインハルトがいにしえの賢者から杖を授かっていたとは……」

「はい、陛下。私はジル・ガウス師匠から剣と魔法を教わり、六ヶ月の試練を乗り越えてこの賢者の杖を授かりました。この杖を賢者の素質を持つ愛しの姫に贈ります」


 俺は跪いてフローラに賢者の杖を差し出すと、彼女は杖の持つ魔力を探りながら手を伸ばした。フローラの手が賢者の杖に触れた瞬間、まるで城全体を包み込む様な神聖な魔力が流れ出した。杖は金色の魔力を辺りに放ち、体にはまるで陽の光の様な暖かさを感じる。


 杖の先端に嵌まるクリスタルが美しく光り輝き、フローラの魔力と同化して力強い魔力を放ち始めた。俺が賢者の杖を手にしても、杖が反応する事は無かったが、フローラが杖に触れた瞬間、賢者の杖は新たな賢者との出会いを喜ぶ様に輝き始めたのだ。


 フローラの体内から感じる聖属性の魔力は格段に強くなり、近くに居るだけで心地良い力を感じる。杖が彼女の潜在能力を大幅に引き出しているのだろうか。陛下は神々しく輝く杖を見て、涙を流しながらフローラを抱きしめた。


「ラインハルト……私のために賢者様の元で試練を受けてくれたの? この杖はまるで体の一部の様に感じる。私の魔力の波長と近い物なのかしら」

「そうだよ。賢者、ジル・ガウスの元で六ヶ月間の試練を受けていたんだ。賢者が作った世界では、現実世界の一時間が一ヶ月になっていた。この世界では六時間、賢者の世界で六ヶ月の時を過ごしたという訳さ」

「六ヶ月……長い間、私とも仲間とも離れ、賢者様の元で訓練を積んでいたのね。本当にありがとう。私の宝物にするわ。ラインハルト、私はこの杖でレッドドラゴンを倒してみせる」


 フローラがそう宣言した瞬間、大広間には熱狂的な拍手が沸き起こった。ついにフローラに髪留めと杖を贈る事が出来た。何ともいえない幸福を感じる。この瞬間のために努力してきて良かったと心から思う。


 それから俺達は大広間で深夜までお酒を飲み、豪華な料理に舌鼓を打った。陛下は上機嫌で何杯もシュルスクの果実酒を飲み、俺も陛下と共にお酒を飲み続けた。タウロスはヘンリエッテさんと語り合いながら、ゆっくりと葡萄酒を飲んでいる。


 エレオノーレさんはフローラを何度も祝福し、レッドドラゴン討伐のための準備を手伝うと申し出た。ダリウスとロビンはスライムの事が気に入ったのか、小さなスライムを取り合っている。


 レーネさんはドール衛兵長と二人でお酒を飲み、時折熱い視線を交わしながら、お互いの人生設計について話し合っている。何歳で結婚をしたいとか、どんな家を建てたいとか、そういった話だ。二人はお互いが求めてきた理想的な相手に出会えたと実感出来たのだろう。酔いが回ったレーネさんは、何度も俺の頬に口づけをして感謝の言葉を述べ、ドール衛兵長は俺の肩に手を置いて、理想的な女性と出会えたと歓喜した。


 俺はクリステルと陛下、フローラと共に今後の予定について十分に話し合った。俺達はアイゼンシュタインの大使としてファルケンハインに入国し、王国の地下に生息するレッドドラゴンを討伐する事になった。レッドドラゴン討伐に挑戦するのは、俺、フローラ、クリステル、タウロス、ヴォルフだ。ダリウスとロビン、スライムはレッドストーンに残り、ギルドを守りながら俺達を待つ事になった。ヘンリエッテさんはムーンライトでの仕事もあるので、時間がある時にレッドストーンを訪れて召喚獣達の世話をしてくれる事になった。


 クリステルはサポート要員としてレッドドラゴン討伐に参加する。実際に敵と戦うのはレッドストーンのメンバーだが、クリステルはダンジョン内で聖剣を見つける事が目的なのだから、彼女も聖剣を見つけるまでは俺達と行動を共にする事になったのだ。


 フローラの誕生日を祝う宴は深夜まで続き、ヘンリエッテさん、レーネさん、ドール衛兵長が暇を告げると、楽しい宴が幕を閉じた。俺はタウロスを召喚石に戻し、ヴォルフにダリウスとロビン、スライムを任せると、今日は城で泊まる事にした。


 フローラが今日は自分の部屋に俺を招きたいと言ってくれたからだ。クリステルと陛下、エレオノーレさんと別れると、俺はフローラと共に彼女の部屋に向かった……。

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